第28話 滅魔と魔道具
リーン リーン リーン
「おお〜! 鳴った! 」
「ちょっとびっくりしたわ。結構大きい音ね」
「これなら寝ていても気が付きますです」
「そうだね、これなら気付くよね。さて、次は離脱の円盤だな」
「お? とうとう出番か? ここは5階層だから運が良ければ一回で帰れるんだよな? 」
「うん、でも試したい事があるんだ。とりあえず1回使ってみるか」
俺はフォースターから譲渡してもらった共鳴の鈴が予定通りの時間に鳴ったのを確認できたので、続けて離脱の円盤を試すべく空間収納の腕輪から取り出して足もとに置いた。
ここは佐世保の初級ダンジョンの5階層。
メレスの所から帰ってきてから3日後の4月も終わろうとしている頃。俺とティナは総督府の決済の仕事を片付け終わり、リズとシーナも特警とのいざこざの後のギルドの残務を終わらせたので、フォスターからもらった
そして佐世保の初級ダンジョンにやってきて1日で5階層まで降りてきた。
初級ダンジョンの上層階は、階段の位置さえわかっていれば1階層あたり2時間も掛からず次の階層に進める。なので半日でここまでピクニック気分で降りてきた。そして沖田に共鳴の鈴を指定した時間に鳴らすように言っておいたところ、今しがた鳴って離脱の円盤を試そうということになったわけだ。
「なあなあコウ? 半径1mだっけ? 装備付けてたら5人くらいか? 」
「そうだね。でも装備を外してぴったりくっつけば8人はいけるんじゃないかな? 上はどこまで対象かわかんないんだよね。もしかしたら肩車すればもっといけるかも」
俺は銀色の直径30cmほどの円盤を見ながらリズの問いに答えた。
円盤を中心に半径1mなら上も1mというのはおかしい。そんなちっこいのはいないしな。あとでティナとシーナを肩車して試してみるか。ここは初級ダンジョンでEランクのデススネークしかいない階層だから、2人が残されても余裕だろ。残るなら俺がと言いたいとこだけど、女の子に肩車されるのは抵抗がある。ここはしっかり者のティナとスリル大好きなシーナが適任だろう。リズだと行動が読めない。変なトラップに引っ掛かりそうで怖い。
「兎が肩車されますです! ダンジョンに1人残されるのは怖いですけど兎が! 」
ほらね?
「大丈夫だよ。ティナも一緒だから。それも次の時にね」
「シーナ……あなた本当に危機が好きね……」
「あははは! こんな初級ダンジョンじゃ危機になったりしねえって! 」
「2人ともわかってないですぅ。ダンジョンという未知の場所に1人取り残された兎を、愛するコウさんが颯爽と助けにきてくれるんですぅ。そして再会した2人は強く抱きしめ合って、そのまま熱烈なキスをして服を脱ぎ四つん這……」
「わかったわかった。シーナ後でな? 今はこの運試しをやるから。ティナとリズも円盤に近付いて」
俺は得意の妄想トークを始めたシーナを抱き寄せ、ティナとリズを呼び寄せて離脱の円盤の中央にある青い宝石に足を乗せて魔力を流した。
すると円盤は青く輝き、俺たちの足もとに魔法陣を発生させた。俺がその魔法陣を階層転移室にあった物によく似てるなと思った瞬間、俺たちは一瞬の浮遊感を感じ違う場所へと転移していた。
「『探知』 『滅魔』 」
俺はすぐさま探知のスキルを発動し、付近にいた魔物の魔力反応全てに滅魔を放ち無力化した。探知範囲には探索者やうちのギルド員らしき反応も多くあったので、本当にすぐ近くの反応だけ無力化した感じだ。
「ここは何階層かしら? シーナ? 」
「はいです! 兎の地図のスキルではここは4階層のマップになってますです」
「俺のもだ……1~5階層のランダムで1階層を引くとは……」
ぐっ……まさか5分1のハズレを引くとは……
「ぷっ! あははは! コウはこういう確率とか絡むと運がねえよな! この間の鹿児島市のくじ引き大会もティッシュばっかだったしな! 」
「ですです。兎と入ったオトナのおもちゃ屋さんでも、千円ガチャでハズレばっかりでした」
「ふふふ、ダンジョンの宝箱は良いのを引くのにね。こういうところも可愛いわ」
「くっ……今度からはリズに発動してもらうよ……くじ運いいしな」
リズはくじ引きもそうだけど、スゴロクをみんなでやった時とかもサイコロ運がすごくいいんだ。そのうちサラシを巻かせて賭博場でも仕切らせてみるかな。
「あははは! 任せておけって! あたしが5を引いてやるからさ! 」
「コウさん大丈夫ですぅ! いつかは5を引けますですぅ! 」
「いつかって……まあ次はリズがやってくれ。とりあえず今はちょっと試したいことがあるから、みんな見ててくれ」
俺はシーナの微妙な励ましに顔を引きつらせつつも、魔力を使い果たし青から白へと色を変えた宝石へ手を置いた。
「あら? 魔力を譲渡するの? でも停滞の指輪はできなかったのよね? 」
「そうそう、確か失敗してたよな」
「それがこの間ここにロイたちと来た時にさ、調子に乗ったロイがデススネークの奇襲にあったんだよ。そこで俺が貸していた4等級の護りの指輪が発動したんだ。んで、試しに滅魔で魔力を譲渡したらまたすぐ使えるようになったんだよね」
確かに以前ティナとリズの前で、色が薄くなっている停滞の指輪に魔力を譲渡したんだけど宝石に魔力が入らなかった。その時はダンジョンを作った神様もそう甘くはないかとみんなで笑ってたんだけど、他のマジックアイテムには試して無かったんだよね。
1度発動したら1日使えないクールタイムがあるのは他には護りの指輪くらいだから、機会があれば試そうと思ってたんだけどこれがなかなか無くてさ。俺がダンジョンに入っても、護りの指輪を使うほどピンチにならないしね。
そんな時に特警とやりあうつもりだったあの日、念のためにとロイたちに貸しておいた護りの指輪が発動したんだ。これは試せるチャンスだと魔力譲渡をしたら、見事また使えるようになったんだ。
それなら同じ1日のクールタイムが必要なこの離脱の円盤もいけるんじゃね? て思ったわけだ。
「マジか!? それができたら運とかもうカンケーねえじゃんか! 」
「そうだよ。俺は運すらも力でねじ伏せるつもりだ。頼むぞ……『滅魔』! 」
俺は驚くリズに不適に笑い、円盤の中央にある宝石へと魔力を譲渡した。
すると宝石はみるみると青くなっていき……
「凄いわコウ! 石が青くなったわ! 」
「ほんとですぅ! コウさんはマジックアイテムの常識を破壊する男ですぅ! 」
「すげっ! マジで青くなったよ……さすがあたしの男だな」
「よっし! さあ! 使えるか試そう! 次は肩車をしてやってみよう。リズはティナを頼むよ。俺はシーナを肩車するからさ」
俺は魔力の譲渡に成功したことに思わずガッツポーズをして、ちゃんと発動するか試すべく驚く恋人たちに肩車をするよう指示をした。
「わかった! シーナは重いからな。あたしは軽いティナがいいや」
「ぶうーーー! 兎は重くないですぅ! ムッチムチなだけですぅ! コウさんはそんな兎のおっぱいとお尻が大好きなんですぅ! 」
「あははは、まあね。ほらシーナ、肩車するから股を潜るよ。よっと……って、シーナ……またか……」
俺はリズとその発言に笑っているティナにブーブー言っているシーナの後ろに立って屈み、シーナの股の間に頭を潜らせて一気にシーナを持ち上げた。が、首筋に生温かく湿った感触を感じ、頭上にいるシーナを見上げた。
「こ、これはコウさんにいつでもお仕置きされてもいいようにしてましたですぅ」
「呆れた……またショーツを履いてないの? もう履いてる時の方が少ないんじゃないかしら? 」
「またかよ。いくらローブを羽織ってるからってよ、その短いスカートでよく履かないでいられるよな。コウ以外の男に見られたらどうすんだよ。あたしには絶対無理だな」
リズに肩車されたティナとリズが、シーナを呆れた目で見てそう言った。
そりゃリズはビキニアーマーだからな。下を履いてなかったら事案発生だろ。俺がビックリするよ。
俺は恥ずかしそうに顔を俯かせつつも俺の首筋をどんどん湿らせていき興奮してるシーナに、もうこれ以上触れるのはやめておこうとリズに離脱の円盤の発動をするように言った。
「それじゃあ行くぜ? 頼むぜ発動しろよ? そして1階層に飛べっ! 」
「あっ! 発動したわ! 」
リズがティナを肩車しつつ足を円盤に乗せ魔力を流すと、円盤は先ほどと同じように光り魔法陣を展開した。そして一瞬の浮遊感の後に、俺たちは別の場所へと転移をしたのだった。
「おっと! 『探知』……ここは大丈夫だな。それに肩車も成功だ」
「やったわね。少なくとも上は3mはいけるってことね。それにコウのスキルで連続して使えるなんて、これですぐにダンジョンから出れるわね」
「ちなみにここは1階層ですぅ。さすがリズさんですぅ。引きがいいですぅ」
「まあな! でもコウのスキルであんまり運とか関係なくなったけどな。確実に出れるならそれがいいか」
「そんなことないよ。円盤を使用する回数が減るに越したことはないさ。どうしても転移直後は無防備になるからね。そうだな……今度は結界を張ってから転移した方が良さげかな。キャンセルされなきゃいいけど」
俺は喜ぶティナとシーナを見つつ、4階層転移の当たりを引いたリズを褒めた。
転移直後はどうしても無防備になるからな。いきなり竜が目の前にいる可能性だってある。転移中に結界がキャンセルされないか試しておけばよかったな。
「そうね。護りの指輪があるけど、結界があれば尚安心ね。今度試してみましょう」
「確かに上級ダンジョンの下層階だと怖いよな。まあコウがいれば余裕だけどな」
「竜の股の間とかに転移しなきゃだけどね。さて、人が近づいてきてるし、ゆっくり歩いて帰ろうか。リズはちゃんとマントで隠してな」
俺は周囲に人の反応が多いことから、出口へ向かおうと皆に言って歩き出した。その際にビキニアーマー姿のリズにマントで隠すように言った。
「またガキどもがいっぱいいるところを歩くのかよ。マントで隠しながらだと歩きにくいんだよなぁ」
「そう言わないでくれよ。リズのそのお尻と胸をほかの奴らに見せたくないんだ」
こんな水着と変わらない姿をほかの奴らに見せてやるものか。
「ったく、しょうがねえな。コウは独占欲強すぎだぜ。別に見られて減るもんじゃねえってのによ」
「よく言うわ。来る時にほかの探索者の反応がある時は戦わずにずっと隠してたくせに」
そういえばずっと不審者みたいにマントを両手で前で押さえてたような……
「そうですぅ。リズさんは昔と違ってコウさん以外の男の人の前では、全然肌を見せなくなったですぅ」
「そ、そんなことねえって! たまたまだろ、たまたま! 」
「ふふふ、今日も通常装備でいいってコウが言ったのに、ビキニアーマーを着てきたのよね。コウに見せたかったのよね? 」
なんだそういうことだったのか。可愛い女だよなリズって。そこが好きなんだけどな。
「違うって! これがあたしの標準装備なんだよ! 」
「タマタマとか、リズさんえっちですぅ」
「黙れドエロ兎! 」
「ふえぇぇ……コウさんリズさんがいじめるですぅ」
「リズ。あんまりストレートに言ったらシーナがかわいそうだよ」
「ふえっ!? コウさん否定してくださいですぅ! 」
それは無理だろ……大人のおもちゃ屋で目を輝かせて物色している子をどうフォローしろと?
「あははは! 悪かったよシーナ。つい本当のこと言っちまった」
「酷いですぅ! 兎はドエロじゃないですぅ! コウさんの愛の奴隷なんですぅ! 」
「お、おう……」
「シーナあなたこんなところで……」
「みんな見てるよシーナ……」
俺は横の通路から現れたうちのギルドの獣人たちが、シーナの言葉にギョッとしている姿を見てシーナにその存在を教えた。
「ふ、ふえええぇぇぇ! 」
シーナはギルドの新人たちを見て顔を真っ赤にして叫び、俺の背にサッと隠れた。
まあ今さらだけどな。島の連中はみんな知ってるよ。奴隷から解放されたってのに、チョーカーを付けてる時点でアウトだと思う。深夜に俺の家の周りを女性警備隊員以外が歩くことも島中で禁止されてるしな。防犯というより、シーナとの夜の全裸散歩を見られないためなのもバレてる。
最近は俺がそうさせているんじゃないって事が皆に理解されて、前ほど白い目で見られなくなったけどな。家で働くレミアたちのおかげだ。彼女たちは俺の味方だからな。
俺はすれ違うギルド員たちが、気を使って俺の背に隠れるシーナから目を逸らしながら挨拶をする姿を見て、この空気どうすんだよとティナと苦笑いをしていた。リズは終始大笑いしてたけど。
でもまあ、そんな仲間想いで優しくてドMでエロいシーナが俺は大好きなんだけどな。
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