第41話 取引
魔帝との契約が終わり、俺はさっそく奴隷解放の勅令の発行を求めた。
それに対し魔帝は宰相に発行の手続きをするよう指示をし、宰相が紙ではなく羊皮紙を取り出しその場で勅令の内容を書き始めた。
そしてそれを魔帝が確認し頷くと、宰相が赤い蝋を溶かして羊皮紙に垂らしその上から印鑑みたいなものを押していた。
次に宰相がどこかに魔導携帯と思われる物で電話をすると、直ぐに文官っぽい服を着たオレンジ髪の男が現れ羊皮紙を恭しく受け取り去っていった。
宰相はさすがに携帯の扱い慣れてたな。明らかに魔帝より爺さんなのにな。
勅令の内容はデルミナ神から精霊神と獣神と和解したとの宣託があり、それに伴い奴隷を解放することにし改めて三等国民として扱うというものだった。
さすがにこれまで奴隷だった存在を、一般の国民同様にいきなり二等国民として扱うのは難しいか。
この勅令というのは滅多に発行されないが、いざ発行されると貴族には魔導通信で各家に緊急連絡が行くようになっているそうだ。帝国には魔導通信技術を使ったラジオが各家庭にあるので、そこでも皇帝より勅令が下ったことが放送されるらしい。
最近は地球の技術を取り入れ魔石を利用した発電でテレビなんかも普及しているそうだが、まだ放送局や電波による通信設備を建設中らしく地球のDVDなどを観るためのモニターと化しているそうだ。
こういった庶民の娯楽とかの面では、地球とテルミナでは50年くらい開きがあるように感じる。
兵器にしろ魔導車にしろ地球の物を模したものばかりだしな。
ほんと帝国は魔導技術により地球を圧倒しただけなんだと改めて感じる。そりゃダンジョンを押さえて魔石や魔力に対する研究を禁止するわけだよ。
でもこの世界の国々は地下でひっとりと研究していると思う。テルミナ帝国がこの広い地球の隅々まで監視できるとは思えないし、あのかつての大国がこのまま支配されたままでいるとも思えない。
閑話休題
ラジオ等で勅令が告知された後、民間人の奴隷でも商人連中が雇っているダークエルフ以外は首輪をしていないので奴隷制度の廃止だけ伝えられた形となる。
そのあとの生活保護や雇用法の整備には、貴族院で形だけでも採決を取らないといけないので、今すぐどうにかはできないと言われた。
やはりすぐには難しいか……確か前にリズとシーナが民間人の奴隷は厳しく法で守られていると言っていたな。
過去の反乱からどの奴隷を誰が所有しているのか帝国がしっかり把握しているし、首輪もしていないからヘタなことはできないとも言っていた。
生活保護の法が施行されるまでは、恐らくそのまま今いる主人のとこに留まりそうだな。
まあこれは仕方ない。俺もこれ以上強引に国の運営に口を挟んでテルミナ帝国が混乱して、獣人たちの立場が逆に悪くなったりしたら本末転倒だ。
帝国皇帝がやると言ってるんだ。少し待つだけで改善されるなら待つさ。
しかし一般人の奴隷はともかく、ダンジョンに出入りしている貴族の奴隷は首輪を外されたら大暴れしそうだ。ティナも獣人奴隷が貴族に殺されるのを何度も見てきたって言ってたしな。
魔帝も宰相もだから奴隷解放を渋ってたんだろうけど、俺から言わせて見れば法を守らなかった貴族たちの自業自得だ。
復讐したあと彼らは殺されるだろうが、復讐を実行中の俺が復讐をやめろとか口が裂けても言えない。
せめて貴族や冒険者の奴隷だった高ランクの獣人やエルフたちが、桜島まで逃げてきてくれれば匿うことはできる。それとなくエルフの里で広めてもらうか。
さすがに彼らを頭にした大規模な反乱はないだろう。帝国も俺の能力は秘匿するだろうし。
せっかく奴隷から解放された者たちが、勝てない戦いを帝国に挑むとは思えないしな。
少し気になって魔帝に勅令の効力を聞いたら、貴族は勅令に背くと反逆罪になるらしい。
そうなると爵位剥奪の上に処刑されるそうだ。なんというかいちいち苛烈なんだよなこの国。
さすがに民間人にはそこまではしないそうだが、それでも重罪らしいから背く奴はいないらしい。
しかし領兵と兵器の所有を認めてるだけあって、帝国は貴族にはかなり厳しいな。
それなのに法を守らないのが多いのは、皇帝の地位は世襲制ではなく魔神デルミナが選ぶってのも大きいんだろう。高位貴族になればなるほど次の皇帝になる可能性が高いから、好き放題やっている可能性もある。
なんだっけな……中国大陸で虐殺の限りを尽くした公爵……確かロンドメル公爵だったかな?
コイツはかなり武闘派で危険な奴だってリズが言ってたな。奴隷になりたくない貴族ナンバーワンだとかも。
そんなのがちゃんと勅命に従うのかね? さすがの魔帝も公爵クラスは処罰しにくそうな気もするけど頼むぜ? 日本のすぐ近くにいるんだからしっかり手綱握っててくれよな。
「とりあえず俺の奴隷解放の目的は達した。あとは実効力だけど、それはしっかり見定めさせてもらう。エルフや獣人の首輪を外していない貴族がいたら容赦なく狩るからな」
「余の勅令に背く者など帝国貴族にはおらぬ。万が一いたならば知らせて欲しいくらいじゃ。余がこの手で粛清してやろう。将来そのような者が次期皇帝に選ばれるか、その取り巻きにでもなれば帝国のためにはならぬからな」
「そうだったな。世襲制じゃなかったな。魔帝の子や孫が次期皇帝になる可能性は低いのか? 」
「SSランクに到達している者がおらぬゆえ難しいであろうな。過去には初代と祖父である先代が余の系譜から選ばれておるくらいじゃな。こればかりは魔人に相応しい強さを持つ者が選ばれるゆえな」
なるほど、だから高位貴族でもダンジョンに挑んでるのか。魔帝も次期皇帝を育成するうえで、貴族たちをダンジョンに挑ませてるんだろうな。だから桜島の古代ダンジョンの出入りに制限をするなと言ってきたわけか。その辺は魔族のイメージ通りだな。魔神も力こそ全て的な脳筋なのかもしれない。
「ふーん、世襲制よりはまだいいか。ああそうだ。ちょっと取引したいんだけどいいか? 俺もダンジョンから出てきたばっかりで金が無いんだ。魔石とかドロップ品とか色々売りたいんだけど、換金するにも目立つから魔帝に買い取って欲しいんだ」
「うむ。【魔】の古代ダンジョンの下層で手に入る物であれば、いくらでも買い取るゆえ出すがよい。その腕にはめておる空間収納の腕輪でもよいぞ? 」
「抜け目ないな。こんな便利なもん手放すわけないだろ」
ちゃっかり装備を鑑定してたか。隠蔽のスキルは装備には掛けれないからな。
今後は手に入れたアダマンタイトで腕輪を覆えば鑑定は防げそうだけど、重いしちゃんと機能するか不安だ。やっぱり服や布で目立たないようにしておくのが無難だな。
さて、どうするか。先に頼みごとをしてしまうか。後になると高く付きそうだしな。
「先に依頼したいことがある。それを聞いてくれたらアダマンタイトは返せないが、吸魔の短剣なら魔帝用に1本返す。これ相当貴重なマジックアイテムだろ? 」
「……うむ。人族から奪った物と苦労してダンジョンより手に入れた物である。魔王には使えなかったが、魔力の高い魔人には手元に置いておきたいアイテムじゃ。しかし依頼か……契約に入れればよかったものを今になってか? 」
「ああ、個人的な物だからな。ここに来た目的とは関係ないから契約には入れなかった。依頼したいことは、俺には日本に復讐したい奴らがいるんだ。そいつらに復讐するのに手を貸して欲しい」
「ククク……この帝城に乗り込んできた魔王が復讐の手伝いを請うてくるとはな。なんの冗談じゃ? 」
「確かに俺1人でもできる。けどそいつらを探すのに時間が掛かるし、日本でかなり暴れまわることになる。でも帝国の手助けがあればすぐにそいつらを集めてまとめて葬れる。だから手を借りようと思ってな」
俺はそう言ってテルミナ帝国が地球を占領する前に起こったことを、一部改ざんして説明した。
魔帝と宰相は帝国が占領する前から俺が古代ダンジョンにいたことも、転移トラップで下層に飛ばされたこともかなり驚いていたけどな。
ニート特別雇用法なんかはまあ無反応だ。ティナたちもよくある話程度の印象だろう。
正直奴隷制度よりはぬるいからな。俺もなぜあの時国に逆らわなかったのか後悔しかない。
魔帝には一応下層で力を付けてヴリトラを倒したことにしてある。先に寝ていたヴリトラの隙をついて宝物庫でスキルを盗んだとか言えない。ティナたちもいるんだ。絶対に言えない。
「そうか、あのダンジョンの魔王が黒竜であることは文献に書いてあったが、名付きであったか。それにしても転移トラップでか……なんとも信じ難い話よな……しかし現に滅魔のスキルを所持しておる。あのダンジョンにあるはずもない譲渡のスキルを、途中で運良く手に入れたなどこれも運命なのやもしれるな。しかしFランクでよくぞ生き残れたものよ。のう? リヒテン」
「ええ、この話が本当であれば、想像を絶するような戦いを魔王はくぐり抜けてきたことになりますな。凄まじいの一言に尽きます」
「運が良かっただけだ」
ヴリトラが寝ていたおかげだ。
「そういう訳で俺は国に復讐したい。政治家や官僚なんかは戦後にほとんど入れ替わっていて探すのが難しい。占領地の子爵にこの件に関わった人間を尋問させて、積極的に法案を通した者や裏で糸を引いていた者をあぶり出させて欲しい」
敗戦後内閣や議会は帝国にかなりいじられたそうで、当時の政治家たちが今どこで何をしているのかわからない。海外に行った奴もいるだろう。そんなのを全部探すのは難しい。けど帝国ならそれは容易だ。なんたって世界征服してるからな。
「ふむ。そんなことで吸魔の短剣が戻ってくるなら楽なものよな。リヒテン、モンドレットに急ぎ調べさせよ」
「はい。手配致します」
「助かる。宰相、連絡を待ってる。これは魔帝の短剣だ」
「うむ」
俺はそう言って魔帝のとこに行きさっき回収した、吸魔の短剣を1本だけ返した。
正直俺には必要ない物だ。万が一の時のためにティナたちに1人一本づつ持たせておけばいい。
それにしても思っていた通りあっさり依頼を受けてくれた。魔帝が動くわけじゃないから受けてくれるとは思っていたけど。
借りを作りたくないから報酬としてさっき奪った短剣を返す。結局はタダみたいなもんだ。
とりあえずこれで復讐の段取りは宰相に任せて少し待とう。三田たちにも動かないように言っておかないと。
よし、次は資金調達だ。さて何を売るか……竜の素材はサイズがデカイから今回はやめとくか。
魔石を魔素吸収用に王種の3つ残してその他は全部出すか。
ほかには宝物庫にあった古そうな金貨と宝石を現代のやつに交換してもらって、俺たちでは使わない装備を出せばいいな。魔道具やアクセサリー系はこれから俺たちには必要だから出すのはやめておこう。
確かに停滞の指輪は高く売れそうだけど、ティナと俺たちは寿命が違うからな。2個しかない老化速度が7分の1になる2等級は残しておきたい。若返りの秘薬も将来の為に残したい。ティナが寿命の差を気にしたらさっと見せてやれば喜ぶに違いない。
それにこれは地球の強欲な権力者に対する餌にも使える。
今後なにか困ったことが起きた際に、5等級の指輪でも喜んで協力してくれるに違いない。
まあアクセサリーを売らなくても、金貨や白金貨だけでも相当な額になるはずだから多分大丈夫だろう。
魔帝にピッタリなとっておきの装備もあるし。
「んじゃ売りたいものなんだけど、とりあえず竜種の魔石とヴリトラの宝物庫にあった金貨と白金貨をこのマジックバッグに移して渡すから鑑定しておいてくれ」
俺はそう言って魔帝と宰相の目の前で空間収納の腕輪から魔石と金貨や宝石類を取り出し、マジックバッグに移していった。
「陛下、もしやあれは建国時の白金貨では? 」
「うむ。あの白金貨の魔力は間違いない。若い頃に1枚だけダンジョンで見つけたことがある。しかしあれほどの数があるとは……魔王の部屋には相当な数の骸があった証拠よな」
「宰相さんよ。この200枚くらいある白金貨は確か1枚100万デルだったよな? 古い分付加価値とか付く? 」
「そうだな……最初に出した20枚ほどの白金貨は建国時のものだ。それなら1枚2000万デルで買い取ろう。そのほかのものは平均で150万デルほどになるだろう」
「うえ!? 20倍!? こんな1円玉みたいなの1つで日本円で2億円かよ……」
俺は希少価値があるだろうなとは思っていたが、まさか20倍とは思っていなかったからかなり驚いていた。
ちなみにティナから教わったテルミナ帝国の通貨と、三井の家で調べた日本円への換金率は以下の通りだ。
1デル鉄貨(1円玉ほどの大きさ) 10円
10デル銅貨(10円玉ほどの大きさ) 100円
100デル小銀貨10000円
1000デル銀貨(百円玉ほどの大きさ) 1万円
10000デル小金貨 10万円
10万デル金貨(百円玉ほどの大きさ) 100万円
100万デル白金貨(1円玉ほどの大きさ) 1000万円
いずれ世界の通貨はこのデル通貨に統一されるらしく、既に電子通貨として大型の取引の決済には使われ始めているらしい。まあ世界の銀行を牛耳っている一族がテルミナ人なんだ。10年もしないうちに完全に変わりそうな気がする。戦前の意識だと100万デルが1千万円の価値があると驚くけど、物価が上がってるからな。
700万円くらいに思っておけばいいか。それでも大金だけど。
でもこの魔力を通すと光る不思議な金貨と白金貨を交換してもらえてよかった。
こんなの日本の銀行で交換してくれなんていったら捕まるか買い叩かれそうだからな。
ざっと計算して金貨と白金貨だけでも60億円くらいにはなりそうだな。
魔石はA-ランクで金貨1枚でA+で3枚とかリズが言ってたっけ? それならS-ランクなら白金貨いきそうだ。
まあどうせここでしか当分換金できないんだ。Sランクまで出すべ出すべ!
俺は在庫処分とばかりに、持っているあらゆる属性の魔石を8割ほどマジックバッグにどんどん詰めていった。
横で見ているティナとリズの顔が引きつっているけど無視だ。シーナなんてふえふえ言ってるだけだしな。
シーナはほんとにかわいい。
そうして数千個に及ぶ魔石を移し終えた俺は宰相にマジックバッグを渡し、査定を頼んだ。
まあ低ランクの魔石もかなり入ってるし、魔石自体はそこまで買取値は高くないから期待していない。
多分いっても10億円くらいだろう。
多分3等級のアクセサリーをいくつか売った方が良い値がつくんじゃないだろうか? それほどマジックアイテムは貴重らしいからな。
俺は宰相がまた部下を呼んで査定をするように指示をしたのを見計らい、メインディッシュを出した。
70億円じゃまだ心許ないんだ。頼むぜオリハルコン!
「むっ!? それは! 」
「陛下! あれは! 」
あっ! やっぱり? こんな派手な鎧とか絶対皇室のもんだと思ったんだよ。
俺はヴリトラの宝物庫にあった黄金に輝くオリハルコンの全身鎧・盾・剣セットを取り出し、魔帝のすぐ前に置いた。
すると魔帝と宰相は鑑定をしたらしく、その能力に驚きつつなにやらこの装備を知っているような素振りをしていた。
これはダンジョン産の装備だから特殊能力が付いている。
俺がFランクの時に装備しようとして重くて装備できなかったやつだけど、能力はかなりいい。
ただ派手だから装備したくないし、目立つから仲間にも装備させたくないのでここで売り切るつもりだ。
「これはヴリトラの宝物庫にあったオリハルコンの装備だ。いくらで買う? 」
「……白金貨300枚でどうじゃ? 」
え!? そんなにするの!? いくらなんでもこの特殊能力にそれは出し過ぎじゃね?
俺は魔帝が30億円を提示してきたのに驚きつつ、リズにこっそりと聞いた。
「なあリズ。ダンジョン産の装備ってそんなすんの? 」
「あたしもそこまで詳しくはないけど、特殊能力が付いてるのは価格が跳ね上がるって聞いたぞ? オリハルコン鉱石は魔鉄ほどじゃないけど貴重だしな。確かただの剣でも白金貨10枚はしてたと思うぜ? 」
なるほど。特殊能力が付いてるから1つにつき100枚で300枚。10倍って感じか。
なんかまだいけそうだな。
俺はオリハルコンの装備を改めて鑑定しながら、魔帝にやれやれって表情で答えた。
【オリハルコンのフルプレイトアーマー】
オリハルコン鉱石で造られた全身鎧。
現存するあらゆる鉱石よりも硬いが重い。
備考: 自動修復、自動サイズ調整、体温調節機能
【オリハルコンの盾 】
オリハルコン鉱石で造られた盾。
現存するあらゆる鉱石よりも硬いが重い。
備考: 自動修復、攻撃を受ける際に中程度の魔力障壁を展開。
【オリハルコンの剣】
オリハルコン鉱石で造られた盾。
現存するあらゆる鉱石よりも硬いが重い。
備考: 自動修復
「よく鑑定してみてくれよ。この能力! それに皇帝が装備するに相応しいこの風貌! 白金貨1000枚の価値はあると思うんだけどな」
「それはあまりにも吹っかけすぎであろう。出しても400枚かのう。そこまでして欲しい物ではないゆえこれが限界よ」
「うーん。魔帝に似合うと思ったんだけどな。でも魔石と白金貨だけでもう十分だからまた今度にしよかな」
「そうか……まあ魔王もこれから色々と物入りであろう。ならば余も今後の友好を考え餞別をやろうかの。500枚で買い取るゆえ置いていくがよい。特別じゃぞ? 」
「いやいや、気を使ってもらって申し訳ないけど竜の素材もあるしさ。今後仲間が増えた時用にとっておくよ」
「ぬう……リヒテン」
「はい。魔王よ。ヘタな駆け引きは時間の無駄だ。その鎧は伝説級の失われた皇家の装備ゆえ我々はどうしても取り戻したい。これまでのおぬしを見ていると魔王は亜人をサクラジマに受け入れることから、そこに白金貨1000枚を使うつもりなのであろう? であるならば現物で対応してやれなくもない。なにが欲しいか申てみよ」
全部お見通しってわけね。まあ契約内容が契約内容だしな。魔帝以外なら気付くか。
「へえ〜やっぱ過去の皇帝の装備だったのか。俺が言うのもなんだけど、最下層まで到達したなんて凄いな」
「初代皇帝ゆえな。神話級に到達し魔人を統一した唯一の皇帝だ」
神話級ってSSSランクか。そりゃ強い。でも今俺が装備しているこの魔鉄のハーフプレイトアーマーを着てた奴も相当強かったはずだ。それでもヴリトラに負けてんだもんな。
やっぱダンジョンはランクより強いスキルを持っているかどうかだよな。
「なるほどな。初代なら納得だわ。まあ宰相の言う通り欲しい物がある。それは桜島の現存する住居の設備を帝国仕様にしてもらいたいのと、魔石式発電機も各住居に欲しい。そして石造りの家を出来るだけ多く建てて、その作業に獣人を雇って従事させて欲しいんだ。それに全額使いたい」
俺は宰相にそう言って返答を待った。
帝国の魔道具は一部の地球人が持ってるらしいから売ってはくれるはずだ。
「帝国の魔道具をか……まあ庶民が使う程度の物であれば構わんか。たいした技術ではないしな。魔石式発電機は旧式のであればよかろう。それに獣人はもともと建設業に従事しておるから特に問題はない」
よし。これなら獣人たちに仕事を与えられるし、そのまま建設技術を持った人たちを移住させることも可能だ。電気ガス水道のインフラは日本総督府が管理してるからな。いつ止められるかわかったもんじゃない。
ティナやリズに聞いた帝国の一般的な住居は、魔石を使った魔道具で熱や水をまかなっている。トイレも用を足した後は熱で処理をして下水いらずだ。マジックテントと同じだな。
そこに魔石式発電機があれば生活に困ることはないだろう。正直魔石なんて使用済み魔石があれば俺がいくらでも作れるからな。
帝国も現金で払うよりはかなり安く済むから悪くない話なはずだ。
「助かるよ。電気が無い生活は不便でね」
「地球の人族はそうであろうな。わかった。そうであれば白金貨1000枚分の発注と仕事を請け負おう」
「なるべく早めに頼んだ。ちなみに今日1台魔石式発電機持って帰りたいから用意してくれ」
俺がそういうと宰相はまたどこかに電話して手配してくれた。
この宰相仕事ができて楽だわ。まあ油断はできない相手だけどな。だいたいラノベに出てくる宰相は腹黒って相場は決まってるんだ。一国の政治を任されてるような人物でしかも魔族だ。
あんまり関わらない方がいいに決まってる。
「うむ。話はまとまったようだな。役に立たなかったアダマンタイトの代わりに、文献にあったオリハルコンの装備が手に入ったのは嬉しいのう。これがあれば余も神話級になれそうじゃ」
「陛下! もうお年をお考えくだされ! もうダンジョンには行かせませぬぞ! メレスロス様を一人にされるおつもりですか!? 」
「ぬっ……ぬうう……しかしこれほどの装備……ぐぬぬ……メレス……むむむ……」
ん? メレス? 嫁さんか? 魔帝は嫁さんに尻を敷かれてんのか? 外では苛烈な君主で家ではカカア天下とかか? なんだか最初の強敵風なイメージがどんどん薄まっていくな……
「……メレスロス? 」
「ん? どうしたんだティナ? 」
「あ、いえなんでもないわ。ちょっと古代語に同じ言葉があったから」
「ああ、エルフ語か。俺は地球の神話に出てくる人の名前かと思ったよ」
「ふふっ、そんな名前の人物がちきゅうの神話時代にはいたのね」
「響きだけな響き。さて、そろそろ帰ろうか。この謁見の間の周りが魔人で溢れかえってるしな。こりゃ魔帝を押さえてなかったら物量に押し潰されてたな」
ハッキリ言って数千の反応がこの謁見の間を中心として外には溢れてる。
魔帝と宰相がではお帰りくださいと言ったとしても、後ろの扉から出るのは遠慮したいくらいだ。
滅魔で殺してもそれを盾にして狭い通路の途中のたくさんあるドアから、魔人が次から次へと雪崩れ込んできそうだ。そしてティナたちの誰かを捕える。
これをここに来る途中でやられてたらかなりきつかっただろうな。魔帝が俺に会う気でいたからなんとかなった。今なら魔帝と宰相を先頭にして出れるからな。
「ふええ……もの凄い殺気ですぅ」
「あははは! そりゃ皇帝のとこに乗り込んで十二神将ぶっ殺したんだ。お仲間たちは相当お怒りだって」
「シーナ、もう来ることはないから気にしなくていいよ。俺が必ず守るから」
「コウさん! 早く兎をお持ち帰りしてくださいですぅ」
するする!
「貰うもん貰ったら行こうか。お? 噂をすれば来たぞ」
シーナが俺の腕に抱き付いてその大きな胸をグイグイ押し付けながら、上目遣いでお持ち帰りしてくださいという言葉に興奮していると、先ほどマジックバッグを持って出て行った文官が戻ってきた。
そして宰相にマジックバッグを渡し、それを俺が宰相から受け取った。
「魔石の質が良かったゆえ少し色を付けた。7億デル。白金貨700枚分だ。魔石式発電機も入っておる。オリハルコンの装備の代金は帝都の銀行に魔王の口座を作っておこう。古代ダンジョンにいる子爵兵を撤収させた後の守衛所に、文官と武官を滞在させる。魔王のことはよく言い含めておくゆえ、以後はその者たちを通して換金及び資金の引き出しをするがよい。そしてこれを渡しておく。緊急時には私に必ず連絡をせよ。よいか? 必ずだぞ? 」
「魔導携帯か……まあ余裕あるがあれば連絡するさ。いきなり攻撃しないようせいぜい貴族どもには言い含めておくんだな」
「……陛下。念のためアレを渡しておいた方がよろしいのでは? 」
「む? 余の携帯番号か? 」
「……そうではございません。腐敗貴族が魔王にちょっかいを出してまた帝都に乗り込まれないようにです」
「う、うむ。魔王よ。これをやろう。有り難く受け取るがよい」
そう言って魔帝は収納の指輪から円形のなにかを取り出し俺に投げ渡した。
俺は空中でそれをキャッチしてよく見てみると、それは魔鉄でできた厚さ1cmほどの手のひらサイズの装飾品のようだった。
それには表裏ともに鳳凰のような生き物が彫られており、魔力を流すと円盤全体が魔鉄独特の青白い光を発し、どういう仕組みなのか描かれている鳳凰が赤く輝いた。
なんか変身できそうなおもちゃに似てるな。
「なにこれ? 」
「陛下より下賜されたそれは皇家の客人の証だ。その証を見せれば魔王にちょっかいを掛ける者はいない。その証の存在を知らぬ帝国民はおらぬゆえ持っておれ」
「それは貴族を買い被りなような気がするんだけどな。まあいいや。モメないで済むならそれに越したことはないからな。俺は平和に生きていきたいんだ」
絶対地球人の俺がこんなのを持っていても偽物だとか言って信じないと思うんだけどな。
自分で腐敗貴族とか言いながらなんでそいつらの知性を信じるのかね?
「平和か、帝都に乗り込んだ男の言葉とは思えぬな」
「宰相、あんたも大切な存在の一人や二人いるだろ? その存在を守るためならなんだってするはずた。俺はたまたまその相手が帝国だったってだけだ。必要にかられてってやつだ」
「死んでは守れないとは思うがな……」
え?なにその馬鹿を見る目! こっちじゃねえよ! 隣のその携帯いじってるジジイを見ろよ!
デンデンデンデンデーーーン♩
デデン♩ デデン♩ デーデン♩
「うおっ! なんだ! 携帯か!? 」
俺が宰相の不本意な目線から目を逸らしていると、突然さっき渡された携帯が派手なメロディとともに震えだした。
俺は初めて見るボタンの配列に戸惑い、メロディを止める方法をリズに教えてもらいやっと電話を取ることができた。
そして携帯を耳に当てると、目の前の魔帝も携帯を耳に当てている姿が目に映った。
《 ククク……魔王は携帯の使い方も知らない未開人のようよな 》
ぐっ……殺してえ……コイツだけには言われたくねえ。
抑えろ! ここで滅魔を放ったらコイツと同じレベルだと思われる。
大人になるんだ。30の俺が600歳超えの魔帝より大人に。
やっぱ殺してえ……
「陛下……お戯れが過ぎますぞ。マルス公爵にそれをやって喧嘩になったのをお忘れですか? 」
「なに、帝国の最新機種である魔導携帯の使い方を指南してやっただけよ。魔王よ。なにか困ったことがあれば余に連絡するがよい。持ってくるマジックアイテム次第では手を貸さぬこともないゆえな」
「困るのはどっちだろうな。せいぜい貴族が一人もいなくならないように手綱を握っておくんだな。じゃあ俺たちはこれで帰る。契約の履行は早めに頼む」
「ククク……貴族などいくらでも代わりはおる。皇族と公爵の系譜だけ残っておれば帝国は揺るがぬよ。宰相、外が騒がしい。出口まで送ってやるがよい」
「はい。どうも十二神将のことを聞きつけた者が空席を狙って集まっているようですな。魔王よ、特別に玉座の後ろの扉から出ることを許そう。付いてくるがよい」
「その必要はねえよ。シーナ。ノーマン子爵の家だったか? これでそこに繋いでくれ」
俺はそう言ってゲートキーをシーナに渡した。
「は、はいぃ! ニーナのところに繋ぎますぅ! 」
「なっ!? 魔王! それは! 」
「なんと! 1500年前に奪われた皇家の秘宝を魔王が! 」
「ん?そうなの? ヴリトラの宝物庫にあったマジックバッグ高級に入ってたぜ? ああ、返すつもりはないから。んじゃ魔帝のお言葉に甘えてまた何かあったらお邪魔することにするわ。この謁見の間にな」
「ま、待て! 魔王! 」
「なんということだ……一番渡って欲しくない者の手にゲートキーが渡るとは……遷都も考えねば……」
俺の言葉に魔帝は足を組んで余裕の表情でいた状態から一気に焦りの表情へと変わり、椅子から立ち上がった。
宰相は宰相でこの世の終わりのような表情で、呆然と宙を見つめている。
わははは! ざまぁ! 携帯ごときで俺を小馬鹿にした罰だ!
「繋がりましたですぅ! 」
「よしっ! うぜえ魔帝が来るぞ! ティナ! リズ! シーナ! トンズラだ! 」
「うふふふ、コウったらイタズラ好きなんだから。ほんとにかわいいわ」
「あははは! 皇帝のあの顔! コウ、お前はサイコーだぜ! 」
「ふええ! 早くしないと捕まってしまいますぅ! 」
「あばよ魔帝! 」
俺は階段を降り向かってく魔帝にお尻ペンペンしてからティナたちと共に門を潜り、謁見の間から脱出したのだった。
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