第24話 腰巾着





「それじゃあ邪魔したな。落ち着いたら連絡するよ」


「阿久津……俺はお前がなにをやろうとしているのかだいたい想像がつく。平和主義のお前がそんな目をするんだ。それだけの目にあってきたという事なんだろう。でもまた何年掛かってもいいから、また俺に顔を見せてくれ」


「死なないさ。俺は臆病者だからな。死にたくないからここまで生き残れたんだ。そして俺は強くなった。あの肉を用意できるほどな」


 俺は三井の家で一晩世話になり、お礼に大量の竜種の肉を皆が起きる前に店のほとんど空だった大型冷凍庫に詰め込んだ。

 おじさんとおばさんは大喜びで、俺と別れの挨拶をしたあとは早速肉を切り分けていた。

 やっと肉屋らしいことができるってさ。


「そうか……そうだったな。お前は逆境に強かったな。あのバジリスクを狩れるんだし大丈夫か。それにしてもあんなにいいのか? ヴェロキラプトルだって結構貴重なのに飛竜にバジリスクの肉まで……それにいったいどこから出したんだ? 」


「それは秘密だ。肉はまだまだ売るほどあるんだよ。心配掛けた詫びと情報料だ。冷凍して小出しに売って店の目玉商品にしてくれ。あとはおじさんとおばさんに食べさせて長生きしてもらってくれよ」


「ああ、目立たない程度に出すよ。しかし昨日会った時は少し若返っていて驚いたけど、あの肉で納得だ。あれだけ魔力の高い魔物の肉を毎日喰ってれば若返りもするな」


「ん? お、おう。そうだな。ちょっと若返り過ぎた気もしないでもないからこれからは控えるよ」


 そう、俺は知らなかったんだ。ティナたちも多分当たり前過ぎる事だから教えてくれなかったんだと思う。これは帝国人が言っていたらしいんだが、魔力が高い人間は老化がゆっくりとなるそうだ。なら、魔力の高い食材を身体に取り込んだら?


 身体に取り込み血と肉にその何割かの魔力が混ざり、それが自然に排出されるまで老化がゆっくりとなる。どうりで魔物の肉が滅多に市場に出ないわけだ。てっきり美味いからだと思っていたが、アンチエイジング効果があるなんてな。


 戦前に経済界はこのことをどこからか聞いて知っていたっぽいな。だからダンジョンの魔道具だけではなく、肉にも目を付けてたってことか。

 ただ、ゴブリン程度じゃほとんど効果がないし不味いから、俺たちは持って帰るようには言われなかったってとこか。市場に出てるほとんどはオーク肉だしな。


 まあそんな肉を俺は大量に持っていて、時の止まった空間収納の腕輪の中に入れてある。休みの日にリズに剥ぎ取りや肉のさばき方を教わったから、すぐに焼けば食べられる状態のものもまだまだある。それでも地竜やノーマルとはいえドラゴンの肉はやばいと思って出していない。


 CランクのヴェロキラプトルとBランクの飛竜に、A-ランクのバジリスクだけだ。バジリスクの肉と言った時はみんな盛大に顔が引きつってたけどね。


 まあそういうわけで、若返りの秘薬を飲んで若くなった俺を疑問に思っていたらしい三井が納得したわけだ。おじさんとおばさんは滅多に会わないから、それほど気にしていなかったけどな。あの人たちの記憶では俺はまだ高校生のままなんじゃないだろうか?


 三井にはランクこそ言ってないが魔力が高いとは言ってある。それなら竜種の肉を29歳の頃から毎日食ってれば、20代前半くらいにもなるのもありえなくはないんじゃないかという訳だ。


 俺も改めて鏡をまじまじと見たら、20歳よりもう少し若くなってる気がしないでもなかった。どうりでやたらムラムラしやすいわけだ。それは元からだったな。


 俺は最後にもう一度別れを言って三井と別れた。



 三井と別れたあとは朝の街を一通り見て回り、小さな個人商店にある物の値段の上昇率に驚いたり、化石燃料が酒を買える価格になっていたりでこりゃ不景気になるわと一人納得していた。


 それから駅にしかないATMに並びお金を無事下ろすことができた。でも1日の上限の50万しか下ろせなかった。銀行が倒産して口座が無くなってなかっただけでも儲けものか。


 それから1時間に1本に減った電車に乗り新宿へと向かった。4駅しか離れてないからすぐに着いたけど運賃めっちゃ値上がりしててビックリした。どうりでスーツにヘルメット姿で自転車こいでるサラリーマンが多いわけだ。


 新宿は腐っても新宿で人がたくさんいた。革鎧姿の人が圧倒的に多かったけど。

 この新宿には初級と中級のダンジョンがあり、関東でダンジョン関連の店が多くて有名らしい。


 俺は通っていた夜のお店がどうなっているのか気になったが、それをグッと堪えて昨日ネットで調べた西新宿7丁目にある素材買取りのお店へと向かった。

 新宿に銀行はあるが、かなり混んでいて数時間待たされるらしいからパスした。そこまで時間はない。


 買取りの店は元はどこかの企業のビルだったのだろう。駅から続く大通り沿いにあるそのビルの一階に入り、案内板を見て3階の買取り窓口に行った。

 窓口は3つありどれもかなり大きく、個室のようになっていたのでその1つに入った。

 個室に入るとそこには眼鏡をかけた老人が向かいのカウンターに座っていた。

 俺が飛竜の鱗と爪を買い取って欲しいと伝えると、少し驚いたのちに俺の腰にぶら下げているマジックポーチを見て納得したらしくカウンターにシートを敷き始めた。


 飛竜は中級ダンジョンのボスクラスで、マジックポーチも中級ダンジョンのボスを倒すと手に入るから俺が上位の探索者だと思ってくれたようだ。


 ダンジョンで得た素材は探索者協会にその場で買い取ってもらえるんだけど、魔石以外なら一部は持ち出しは可能だ。これまでは強制買取りをされてたみたいなんだけど、それだと探索者から買い叩かれていると不満が続出したらしいんだ。だから一部は外で売っても良いことになったらしい。


 こういった買取り業者は買い取った素材をストックして、総督府が帝国に納入する際に数が足りない場合に高く売って利益を出しているらしい。他国にも流しているから在庫として残ることはないそうだ。


 俺は出されたシートに2体分の飛竜の鱗と爪を取り出し査定を待った。

 結果はネットの情報通りで600万ちょいだった。飛竜一頭で1000万らしいから鱗と爪なら2頭分でこんなもんだろう。


 一番高く売れる皮はデカイから、容量の無いマジックポーチから出すのは不自然だしやめた。


 そして俺は無理を言って全て現金で用意してもらいビルをあとにして、いかにも廃墟っぽい元ホテルの中に忍び込んだ。

 そしてゲートキーで目的地へと移動したのだった。





 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「チッ……楽しそうにダンジョンに入りやがって」


 俺は初心者と思われる10代後半の男女のパーティが、ベテランの探索者ぽい人間に連れられてダンジョンへと入っていく姿を見て舌打ちした。


 ここは千葉県の木更津にある鬼系初級ダンジョンから1kmほど離れた山の中だ。

 ゲートキーでダンジョンに出入りする時に毎日見ていた丘の上の工場の屋根に移動した俺は、すぐさま探知を発動しながらより離れた場所にある山へと走ってきた。


 そう、このダンジョンは俺と馬場さんに浜田や三田や田辺なんかと一緒に戦っていたダンジョンだ。


「まだちょっと早かったか。いや、クールタイムを考えたらちょうどいいか。あそこにアイツがいるはずだ。あの腰巾着が……」


 俺は木の上に登り、鷹の目でダンジョンの入口の向かいの少し離れた所にある建物を見た。

 その建物は勝手知ったる俺たちが5ヶ月近く生活した施設で、木更津初級ダンジョン支店の支店長の執務室が3階にある建物だ。


 昨日インターネットで探索者協会の募集ページを見た時に、ここの支店長である須々田が初心者講習を行う施設の責任者としてインタビューを受けている記事が載っていたんだ。


 基本的に探索者協会の人事は部外秘となっていて、HPを見てもわからない。

 けど、新規登録者を安心させるためか須々田が顔写真付きで出ていた記事に、木更津初級ダンジョン支店長と書いてあった。


 こいつは俺たちがここでダンジョンで戦わされていた時の副支店長だ。

 当時の支店長の沼津の行方はわからなかったが、沼津の腰巾着だったコイツを見つけることができた。


 俺たちが桜島に行かされる時にニヤニヤした顔で手を振ってたのを俺は忘れない。

 間違いなくコイツも一枚噛んでいたはずだ。


 当初協会からの指示だと馬場さんが言っていたが、実際に桜島に集められたのは3支店からだけだった。当時の支店長である沼津と腰巾着の須々田が、明らかに率先して俺たちを差し出したのは明白だ。


 出世のために本部にいい顔をしようとしたのか、反抗的な俺たちを排除しようとしたのか理由はなんでもいい。


 コイツらのせいで……コイツらがあんな危険なダンジョンに俺たちを行かせなければ、馬場さんも浜田たちにほかの仲間たちも死ぬことはなかった。


 俺はジッとその時を待ち続けた。

 勤務時間に変更が無ければ昼から出勤して夜20時まではいるはずだ。

 アイツの車はあるから間違いなくいるだろう。





 あれから4時間ほど経過し、ダンジョンから続々と探索者が出てくるのを見ながら俺はタイミングを見計らっていた。


 ダンジョンを囲む塀の中は、俺たちがいた時と違い警備はザルだった。

 監禁する存在がいないから、探索者が暴れた時のためにいるだけなんだろう。

 魔石や素材を換金するところと、武器を保管する場所にしか警備員はいない。


 俺は辺りが暗くなってきて、執務室に灯りが点いたタイミングで時間を確認し動き出した。静かに山を駆け降り途中の民家を何食わぬ顔で通り過ぎ、県道沿いにあるひらけた土地に建っているダンジョンを囲む塀までやってきた。


 ちょうどこの塀を越えたところが施設の裏側になる。

 塀の上に設置されていたカメラはもう無くなっていた。もう逃げる奴がいないからだろう。俺は探知を全開でかけ、塀の中の様子を伺った。


 塀を越えた所には人はいない。建物の中は1階に12人、2階の寮だった所には2人。3階の事務室に3人と執務室に1人。


 俺は黒革のマントを羽織りデビルマスクを装着し、探知を掛けながら暗闇の中を飛翔のスキルで塀を越え2階のトイレの窓に張り付いた。そして遮音のスキルを掛けてから窓ガラスを割り中に侵入した。


 そしてそのまま階段までいき、探知で人の位置を確認しながら執務室の前までやってきた。そして一呼吸置いてからノックをした。


 コンコン


『入れ』


 俺は間違いなく須々田の声だと確信し、遮音のスキルを執務室を囲むように掛けた後に結界を部屋と廊下の中ごろまで張った。

 そしてゆっくりとドアを開けた。


「なんの用……だ、誰だお前は! 」


「おっと! 『風刃』」


「ぎゃっ! ぐぅぅぅ……な、なに……を……誰か! 侵入者だ! 」


「声をあげても無駄だ。遮音のスキル持ちだ 」


 俺がドアを開けて執務室に入ると、40代半ばくらいの黒髪を中分けにし眼鏡をかけた中肉中背の男が正面の執務机に座っていた。


 その男は俺の姿を見るなり受話器を取ろうとしたので、俺は風刃のスキルでその手首を切りつけた。男は空いている手で切られた手首を抑え、怯えた顔で助けを呼んでいた。


 この卑屈そうな顔は忘れもしない須々田だ。

 いつも沼津のあとを付いて回り、嫌な笑みを浮かべて俺たちを見下していて、俺たちのパーティが脱走しようとして捕まった時に警備の探索者を使ってボコボコにしてくれた奴だ。コイツには色々聞きたいことがある。誰かが来る前に急がないと。


「しゃ、遮音!? な、なにが目的だ! 魔石か! 」


「そんなもん腐るほどある」


 俺はそう言ってデビルマスクを外した。


「なっ!? お、お前は……い、生きていたのか……」


「ああ、桜島のダンジョンで2年の時をかけて地獄から這い上がってきたぜ? 再会できて嬉しいよ須々田。覚悟はできてるよな? 」


「そ、そんなあの死のダンジョンに……ま、待て! 落ち着け! あのダンジョンがあんなに危険だったとは私は知らなかったんだ。沼津さんが決めたことだ! あんな危険な、まさか後方支援要員が数人しか生き残れないほどのダンジョンだとは思わなかったんだ!本当だ! 」


 え!? 生き残りがいるのか!?


「生き残ったのは俺以外にはこの木更津から行った者で誰がいる? 」


 俺は声が震えないよう気を付けながら聞いた。


「た、確か三田に田辺に鈴木だったと思う……四肢を欠損しているが協会で生活の面倒をみている。我々も予想外のできごとだったんだ」


「そうか……」


 あの時刃鬼に見捨てられて火蜥蜴の群れから逃げた時にはぐれた仲間だ……

 そうか……生きてたのか……


「す、全て沼津さんが決めたことだ。私は逆らえる立場に無かったんだ。亡くなった者たちを一度だって忘れたことはない。本当に申し訳ないことをしたと思ってる」


「そうか。わかった。なら質問に答えてくれるよな? 」


「も、もちろんだ。私が知っていることならできる限り話そう」


 そう言って須々田はチラチラと出口を見ている。

 俺の探知に人の反応はない。まだ大丈夫だ。


「まず、ニート特別雇用法の対象に探索者協会をねじ込んだ奴は誰だ? そして協会の誰が桜島へ俺たちを行かせるよう指示をした? 」


「特別雇用法に関しては知らない。本部で突然決まったんだ。桜島のダンジョンはさっきも言ったように本部で急に決まったんだ」


「沼津と刃鬼の居場所は? 生き残った三田たちはどこにいる? 」


「沼津さんは新宿の本部勤めになった。刃鬼は九州の探索者パーティで本部が寄越した者たちだ。私はどこにいるかは知らない。三田たちは静岡の御殿場にある探索者協会の共同生活施設にいる。探索者で功績があり、生活に支障が出るほどの怪我をした者たちはそこで共同生活を送っている」


 沼津は出世か……刃鬼は九州の探索者だったのか。標準語を話していた記憶があるが、狩りやすいダンジョンを求めて九州に行き着いたって可能性もあるな。三田たちは御殿場か。確か遊園地があったな。昔何度か行った記憶がある。しかし協会の施設で共同生活ねえ……


「そうか……その代わり桜島で起こったことや、ここのダンジョンで起こったことを口止めしてるのか」


「そ、そんなことはない。これは協会の償いだ」


 馬鹿が。あいつらが生き残っていておとなしくしているはずがない。俺たちのパーティは結束が固かった。必ず外に出たら報復をすると皆で誓っていた。


 それなのに協会の施設にいるってことは、相当な重傷を負って一人では生きていけない身体なんだろう。


 それで協会の取引に乗らざるを得なかった。始末されなかったのは、恐らくあの時に後から来た自衛隊が助けてくれたんだろう。それで表に出てしまったから協会も亡き者にできなかった可能性もある。


 そしてその後侵略を受け帝国の占領下にあっても、新規探索者が欲しい協会は不祥事を表に出したくなかった。また遺族が騒ぎ出すキッカケになるかもしれないからな。

 だから今も三田たちを囲っているんだろう。生活を人質にして……


 しかしやっぱコイツはただの腰巾着だな。ロクな情報を持ってない。


『スモールヒール 』


「え……か、回復魔法? 」


「探索者協会協会の人事図と、現在と当時の探索者協会の幹部の一覧をメモリースティックに入れて寄越せ。プリントアウトもしろ」


「そ、それは守秘義務が……」


『風刃』


 俺は今度は須々田の右頬を切り裂いた。


「あがっ! つうう……くっ、くそが! 」


 ガンッ!


「残念だったな。結界のスキルを窓に張ってるんだ」


「な……結界? なんだそのスキルは! 聞いたことがない……そんな……まるで帝国の……」


 須々田は頬をおさえながら机の下にもぐり、椅子を持ち上げて思いっきり背後の窓に叩きつけた。しかしあらかじめ張った俺の結界に窓は守られ、須々田はその衝撃で椅子を床に落とし呆然としていた。


「ユニークスキルだからな。『風刃』 」


「あぎゃー! あ、足が……ぐっ……うう……」


 俺は再度スキルで須々田の足を切りつけた。


「役に立たないな。出すか死ぬか? 」


「だ、出す……すぐ出す! 」


「勘違いすんなよ? お願いしてんじゃねえんだ。ちんたらやったらまた撃つ」


「す、すぐ……やってる! いまやってる! 」


 須々田は足を引きずり机へと戻り、PCに向かって震える手で作業を始めた。


 それから5分ほどでデータの入ったメモリースティックと、プリントアウトされた紙を受け取った。念のため須々田の背後に回り込み、メモリースティックの中身を開かせたから大丈夫だろう。そして幹部が集まる会議日を聞き出した俺は、須々田から離れた。


「も、もういいだろう。私は誠意を見せた。も、もう帰ってくれ」


「ああ、お前からはたいした情報を聞けなさそうだしな。そうそう、最後にここのダンジョンで死んだ奴らの遺体なんだけどさ、どこの火葬場で焼いたんだ? 墓はどこにある? 俺たちが聞いても教えてくれなかったから気になってたんだ。なに、墓参りくらいしたくてね」


「…………」


『千本槍』


「あぎゃーーー! あぐ……ああ……足……あし……い……痛……あしが……」


 俺はダンマリを決め込む須々田に千本槍のスキルを放った。

 範囲を絞った千本槍は10本ほど床から飛び出し、須々田の両足を串刺しにした。


「次は身体を串刺しにする」


「ま……待て……か、柏の中級ダンジョンに……わ、私は反対したんだ……でも沼津さんが……ぐうぅ……行方不明でないと……せ、責任が……と……」


「やっぱりな……あのトラックは火葬場行きじゃなくてダンジョンだったのか。そうか……」


 死後もダンジョンに放り込まれて魔物に喰われたってことか……

 保身のために。ダンジョンや脱走で行方不明扱いにするために証拠隠滅したってことか……新田や花山や志田も……


「わ……私は反対したんだ! 本当だ! ぐっ……うう……私は命令に……」


「そうだよな。上司の命令には逆らえないもんな。わかるよ、俺も社畜だったからさ。いかにもおかしいって命令でもやらなきゃなんない時があるよな。それなのに上司に反対意見を言えるお前は凄いよな。頑張ったんだな」


「そ、そうだ! 私はクビを覚悟で……くっ……そんな死体に鞭を打つ行為は人道に反すると……反対し説得したんだ。それをあの人でなしの沼津が! なんて酷いことを……」


「わかった。俺は帰るよ。色々悪かったな。『ミドルヒール 』 」


 俺はもう話すことはないと回復スキルを放ち、須々田の傷を全て完治させた。

 廊下にこっちに向かってくる反応がある。早くここを出ないと。


「なっ……中級回復スキルまで……い、いやいいんだ。私も償いをしたかった……本当に申し訳なかった。この通りだ」


「気にすんな。俺たちのために戦ってくれたんだろ?悪いのは全部沼津だ。あのハゲにきっちり責任取らせてやるよ」


 俺はそう言ってクールタイムがちょうど終わったゲートキーを取り出し、目の前の空間に挿し込みひねった。

 すると光のゲートが現れ俺はそこに足を一歩踏み入れた。


「そ、その光は……」


「転移門みたいなもんだ。んじゃ、さよなら……」



灼熱地獄インフェルノ



 俺はゲートを通りきる寸前に全力の灼熱地獄を放った。

 最後に見た須々田は地獄の業火に包まれる直前で、いったい何が起こったかわからないといった表情だった。



 支店長に出世しといて私は上司に刃向かいましたはねえよなぁ。



 相変わらず調子のいい野郎だ。



 俺は自宅に戻り、震える手と足を見つめながらそれでもざまーみろと心の中で連呼していた。



 まずは仲間を集める。


 過去の汚点だと忘れ、のうのうと生きているクソどもをみんなで片っ端から狩り尽くしてやる。



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