第12話 火竜王
「『滅魔』……トラップ解除。んで、『探知』……いた。この先の角か。これは
名付きの黒竜を倒してから2ヶ月が経過した。
あの日、装備を整えてからボス部屋を出るとすぐの所に階段があり、そこを上がったらいきなり下級岩竜がいてパニクった。下級と言っても10m近くはある巨体だ。
俺はすぐさま反射的に滅魔のスキルを全力で発動し、倒れた下級岩竜に炎槍を撃ち込みまくってミンチにした。あの時は本気でビビった。それからは階段を上がる時も探知を掛けようと心に決めたね。
そしてその2階になるのかな? ボス部屋が1階として数えて、その2階層はとてつもなく広かった。
そりゃ10m級の竜がうろつくんだ、広くなきゃ無理だろうけどさ。天井も高いが、迷路のように入り組んでいる壁はその天井まで届いてない。そう、突然空から下級竜が襲ってくるんだよ。
ねえズルくね? 魔物だけ壁を超えられるとかズルくね? こっちはトラップとか解除しながら進んでるのにさ。天井というかもう空だろここ。なのに階段の長さはどの階層も同じとか、完全に異空間だな。
まあそんなこんなで慣れない巨大迷宮に四苦八苦しながら、やっと9階層まで上がってきたんだ。
2ヶ月掛かって9階層。3階層まで上るのに時間をかけ過ぎた。でも探知のスキルの熟練度を上げるのがメインだったからこれは仕方ない。4階層からは5日で1階層のペースで来れてるから、これからはもう少しペースを上げれそうだ。
スキルの方は時間を掛けた甲斐があって、これまでに探知と鑑定の熟練度がⅢになった。探知は熟練度Ⅲでやっとこの広いフロアに対応できるレベルだ。ゴブリンの初級ダンジョンならフロアの半分くらい範囲にできそうなのに、ここだとやっとというレベルだよ。
鑑定は昨日やっと熟練度がⅢになったくらいだ。毎日テントで鑑定しまくってるんだけどな。
鑑定は特に上がり難いスキルみたいだ。
攻撃スキルもⅡまではすぐに上がるんだけど、Ⅲに上げるのは個体数の少ないここまでの階層の魔物相手では途轍もなく大変だった。なので使い勝手の良い攻撃スキルを重点的に上げることにした。
ああ、この広いフロアのどこで寝てるのかって? フロアには数ヶ所明らかにそのフロアにいる魔物が入れないような小部屋があってさ。
たいていがトラップ付きなんだけど、俺は滅魔でトラップを発動させる魔力を無効化できるからね。滅魔を部屋にかけてから10帖くらいかな? そんくらいの小部屋に入って、そこでマジックテント(特級)と全力結界スキルと隠蔽の結界という魔道具を発動させて休んでるんだ。
隠蔽の結界というのは4つの黒い箱の魔道具で、それを四方に置いて発動させると結界が発動してその結界内の魔力と匂いと音を遮断させてくれる便利な魔道具だ。これは10セットくらいあったから、こういう強い魔物がいるダンジョンでは必須の装備だったんだろう。
実際一度も襲撃されてないから俺もそれを実感してるよ。
最初はこんな危険な場所じゃなくて、ゲートキーで最下層のボス部屋に行こうとしたんだけどね。
でもゲートが発動しなかったんだ。どうやらダンジョン内は同じフロアじゃないと駄目みたいだ。使えね〜。
しかしA〜A+ランクの下級竜が1フロアーに最低15頭はいる。この階層ではこのクラスでモブ扱いだ。図体がデカイから探知に引っかかりやすいからいいが、頻繁に探知を掛けないと突然上から下級火竜と下級風竜が現れるからな。まあ滅魔を放つと墜落して勝手にダメージ負ってくれるから楽だけど。
もうね、このスキルチート過ぎ。逆にヴェロキラプトルみたいなのが何十頭も現れた時の方が怖いくらいだ。そのために通路全体に滅魔のスキルを放って範囲発動の練習してるんだけどね。イマイチ通路にある少ないトラップ相手だとしっくりこない。
一応下級竜を見つけたら狩るようにしているんだけど、恐らく黒竜のとこにいた骸たちは回避しながら進んでいたんだと思う。下級竜の魔石はAランクで人の頭ほどの大きさがあるんだけどさ、かき集めたバッグに300個くらいしか入ってなかったんだよね。
基本探知で見つけて回避するかやり過ごして、空から来たのだけに対応してたんじゃないだろうか? それと魔石を諦めて下層に行くのを優先したとか? 俺は貧乏性だからしっかり回収するけど。
いや〜しかしこの黒竜の魔石、全然魔力満タンにならないわ。
直径1mほどのひし形の黒い魔石なんだけどさ。黒と濁った白色の魔石は無属性で、黒の方が魔力が多いとは聞いたことあるんだけど全然色が濃くならない。
黒竜倒す時に全部吸収しちゃったからな。余裕ある時は左手に抱えて滅魔で魔力譲渡してるんだけど、薄っすい黒が、黒かな?って程度にやっとなったくらいだ。売れば億は行きそうなだけに諦めきれん。
お? 階段見つけた! このフロアは4日で見つかった! いい感じいい感じ……ん? 次は10階層ってことはボス部屋か? やべっ! ヴリトラに近いレベルのがいるのか?
俺は階段を上り恐る恐る探知を掛けた……が、探知が途中で遮断された。
「え? 今までこんなことなかったぞ? なんでだ? 」
俺は不思議に思いながら階段を上り、上階にたどり着くところで階段の出口にフタがされているのが見えた。
「はあ? え? なんで? 上れないの? え? ……あっ! ボス部屋か! 」
ボスを倒したら現れる階段……つまりボスが上にいるから階段が塞がってるってことか。あのフタが探知を遮断してたんだな。って!違う! これじゃ俺は一生ここを出れないじゃん! やべえ! マジでやべえ!
俺は誰かがこの上のボスを倒さないと階段を上れないことに気付き、冗談じゃないと背負っていた魔鉄製の両手剣を抜き、フタを壊してでも上に上がろうと階段を駆け上がった。
そしてそのままの勢いでフタに向かって剣を突き刺そうと踏み込んだ瞬間。
突然階段を塞いでいたフタが消えて俺は剣を突き出した姿勢のままその勢いに流され、そしてそのまま地上に飛び出た。
「わっ! ととととっ! なんだよ自動ドアかよ! 焦って損した! ったく…………あら?……」
《 グゴォォォ! 》
俺が崩れた姿勢を立て直すと、そこには体長40mはありそうな真紅の鱗を見にまとった火竜が俺を見下ろしていた。
階段はどうやらボス部屋中央に繋がっていたらしい。
「ほ、宝物庫とかじゃないんですね……し、『身体強化』!! 」
《 ゴォォォォォ! 》
俺は大きく息を吸う火竜の仕草を見て、熟練度Ⅲにまで上げた身体強化スキルをなんとか発動して全力で出てきた階段に飛び込んだ。
「あ、アチっ! 痛っ! あ、危ねえ! あとちょっと遅かったらモロに食らってたわ……こ、この野郎! もうビビんねえぞ! 喰らえ! 『滅魔』! 」
俺は階段を再度駆け上がり外に出て、火竜へ滅魔のスキルを放った。
俺のスキルで火竜から魔力を抜くと同時に大気に魔力譲渡を終えると、火竜は大きく体勢を崩し横に倒れた。
俺は続いて胸にある魔石から魔力を抜こうとした。が、火竜が動かないことに気付きスキルの発動を見送った。
「ん? 魔石の魔力は抜いてないんだけどな。身体の魔力を抜かれても動いていたヴリトラが異常だったってことか? まあ、あのヴリトラでさえ怠そうに動いていたからな。それより下位の竜なら動けないか。なら……」
俺はそのまま横たわる火竜の身体を駆け上がり、頭の上にまで登って火竜の目に魔力を込めた剣を深々と突き刺した。そして念のため何度も捻った。
《 グオォォォォォ………… 》
「『氷河期』 ……よしっ! これで大丈夫そうだな。しかしデカイ魔物には有効過ぎだろこのスキル」
俺が剣を突き刺し脳を破壊すると、火竜は断末魔の叫びをした後にそのまま完全に動かなくなった。
俺は念のために火竜から離れその頭を氷漬けにした。
そして次々と入ってくる経験値をその身に受けながら、魔力を込めた魔鉄製の大剣で火竜の胸を切り裂きヴリトラと同じサイズの真紅の魔石を取り出した。
「デカっ! やっぱコイツも相当なランクっぽいな。本当は最初に見るべきだったんだけどそんな暇無かったからな。一応見ておくか……『鑑定』 」
種族:竜種
体力:S+
魔力:SS-
力:S+
素早さ:S+
器用さ:SS-
種族魔法:竜魔法【魔法障壁】、【ブレス】、【威圧】
備考:
「王種? ヴリトラがなんだったのかあの時は見えなかったからな〜。ん? 王と下級がいるってことは、上級もノーマルのもいるって事だよな。こんなのがまだまだいるのか……次は気を付けないとな」
ちょっと焦ったしちびったけど、もう俺はあの時の俺じゃない。俺には竜殺しと呼んでも差し支えないこの滅魔のスキルにその他強力なスキルと、切れ味抜群のこの剣がある。それにいざとなったらブレス1回は防げそうな結界スキルだってあるからな。試すの怖いから試したくないけど。
「さて、俺の方はランク上がったかな? 『鑑定』 」
阿久津 光 (あくつ こう)
種族:人族
体力:S+
魔力:SS-
力:S+
素早さ:S+
器用さ:SS-
取得ユニークスキル: 【滅魔】.【結界】
取得スキル: 【鑑定 Ⅲ 】. 【探知 Ⅲ 】. 【暗視 Ⅱ 】. 【身体強化 Ⅲ 】. 【スモールヒール Ⅱ 】.【錬金 Ⅰ 】.【調合 Ⅰ 】.【風刃 Ⅰ 】. 【硬化 Ⅱ 】 .【炎槍 Ⅲ 】 .【氷槍 Ⅱ 】. 【ミドルヒール Ⅱ 】 . 【氷河期 Ⅲ 】 .【圧壊 Ⅲ 】.【地形操作 Ⅱ 】.【 千本槍 Ⅱ 】.【鷹の目Ⅲ 】.【遮音 Ⅱ 】.【 隠蔽 Ⅲ 】
備考: 【魔を統べる者】
「 おっ! やっとS+がSS-に上がった! 2ヶ月の間に下級竜あんだけ乱獲して火竜王倒してやっと1ランクアップか。やっぱこのクラスになると上がり難いんだな。鑑定がⅢになって現れた、備考欄にあるこれは未だになんなのかわからんけど。称号かね? 滅魔のスキルと関係してんのかな? 」
いちいち厨二っぽいがダンジョンだしな。そういう仕様なんだろう。
それにしてもS-だったものは下級竜を倒しているうちにSになって今回の火竜王でS+になったが、元々S+だった魔力とかは下級竜だけではSS-にはまったく上がっていなかった。今回この大物を倒してやっとだ。
ランクが上に行くほど上がりにくくなるとは聞いていたから別に不思議ではないけど、経験値独り占めしてこれだもんな。
パーティやレイドで経験値が分散したら、SSクラスになるのは一生かかるんじゃないか?
ああ、だからあの骸たちは停滞の指輪をしていたのか。確かに300年とか掛ければなれそうだ。
「しかしこのランクってなんなんだろうな。力が火竜王と同じS+でも、絶対力比べしたら勝てないと思うんだよな。てか潰される。ランクはその種族でこの強さって意味っぽいな。質量があるってそれだけで武器だしな。そこにSとかSSとか関係ないだろうしな」
うーんわからん。まだダンジョンが出現して2年ちょいだ。ここまで強い魔物と戦った奴なんて俺くらいだろ。情報不足だな。
俺はこのランクというものに対して自分なりに考察しつつ、火竜を空間収納の腕輪に収納したのだった。
すると火竜がいた場所に金色に輝く宝箱があった。これを股に挟んで守っていたってことか? 宝物庫があった方が楽なんだけどな。
俺は念のため結界を張ってから宝箱を開けた。
「キタッ! 白い分厚いスキル書! 上級クラスの回復スキルに違いない! ポーションと一緒に入ってるとか確定だろ! 」
俺はレアスキルと言われる回復系のスキル書が出て興奮していた。中級クラスのミドルヒールでも下級竜に試したら凄い効果だった。なんと尻尾を斬ってもくっ付いたんだ。そのミドルヒールのスキル書より分厚いって事はその上のスキルに違いない。
俺は期待に胸をときめかせながら鑑定をした。
【 ラージヒールのスキル書】
「ラージ? ラージって大きいって意味だったよな? ミドルが中だから大ヒールか! 」
俺は期待通りのスキル書が出て興奮し、さっそくスキル書を開いて覚えた。
「よっし! 期待通りだ! このスキルは欠損部位が復活する。しかも造血機能付き! これは熟練度上げ最優先だな」
俺の頭の中には怪我が完治するイメージに、欠損した腕や足がゆっくり生えてくるイメージと、造血のイメージが流れてきた。
恐らくこのスキルは最高位の回復スキルだろう。熟練度を上げれば瞬時に傷が塞がり腕がニョキッと生えるようになるはず。それはそれで怖いが。
「わはははは! 良いスキルを覚えたぜ! ポーションも2等級が6本も入ってたし! よ〜し、ここからはペース上げていくぞ! トラップに引っ掛からない分俺は早く出れるはずだ! さっさと外に出るぞ! 」
この時の俺はこのダンジョンを舐めていた。
まさかこのダンジョンが100階層もあるなどとは夢にも思っていなかった。
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