第5話 遺物
うおっ! ここは戦利品置き場か!?
俺が扉の中を覗くと広い部屋のそこら中に青白く光る鎧や剣や槍に上等そうな弓、そしてアクセサリーの数々と金貨や宝石といったものが乱雑に置かれていた。
恐らくあの黒いドラゴンに挑んで敗れた者たちから回収した物なのだろう。
そしてその奥に人が入れるくらいの大きさの、青白く光っている宝箱っぽいものが3つ鎮座していた。
部屋は天井に浮かぶ玉が発光していて、これが部屋全体を照らしているからかなり明るい。
ドラゴンの戦利品置き場兼宝物庫的なところか? しかし見事に光り物ばかりだな。
それに外に出れる魔法陣的なものは無さそうだな……
マジか〜ドラゴンの前を通るしかないのか。死ぬ……死んでしまう。
ならせめて耐久性のある装備とか、足が速くなるアイテムとか身に付けて逃げるしかないな。この部屋にいてもドラゴンが起きたらいずれ見つかる。たとえ蚊1匹だとしても、戦利品置き場に侵入した俺を見逃してはくれないだろう。
あの青白く光る宝箱は気になるが、開けたらドラゴンが察知する仕組みとかになってるとかないよな?
それだったら怖いからやめておくか?
いや、ドラゴンの部屋にある宝箱だ。しかもゴブリンのダンジョンで見た腐った木製の宝箱とは材質が段違いだ。絶対いいアイテムが入ってるはず。こういうのはお決まりなんだ。
でもミミックってことはないよな? 存在するのかは知らないけど。
とりあえずここに転がってる装備で良さそうなのを身に付けて、一番最後に開けよう。
俺はとりあえず少しでも危険がありそうな物は後回しにして、できるだけ自分の能力の底上げを先にすることにした。
なによりもまずはスキル書だ。鑑定のスキル書さえあれば、熟練度最低の『 Ⅰ 』でもここにある装備やアイテムの性能が少しはわかるようになる。熟練度『 Ⅲ 』もあればたいていのアイテム効果がわかるらしいが、こればっかりは仕方ない。
まずは鑑定のスキル書を探そう。最初は骸から回収したバッグとポーチの中にないか探すか。
回収した時にそれらしき物はあったんだけど、俺は今までスキルを得たことがない。だからもしスキルを習得する時に、魔力的なものがスキル書から出てドラゴンに気付かれたら怖いからやらなかった。
俺は骸から回収したマジックポーチ3つとマジックバッグ1つを前に置き、バッグから順に手を突っ込んでスキル書スキル書と念じた。
すると手の中に薄い本から分厚い本まで次々と現れ、俺はせっせとそれらを外に並べていった。
同じくポーチにも手を突っ込みスキル書を取り出した。
当然ドラゴンから死角になるように扉の裏側に隠れてだ。
こういった収納系のアイテムは中が見た目より広いので、入っている物をイメージすると手の中に入るようになっている。あまりアバウトなイメージだと違うものが出たりもする。まあそのおかげで本みたいなのがあったのに気付けたんだが。
こんなベテラン風に言ってはいるが、知識だけあってやったのはさっきポーションを出した時が初めてだ。
なにげに静かに感動していたのはナイショだ。
そしてマジックポーチとバッグに入っているスキル書を全て出し終わり、その場に並べて表紙を見ると見覚えのあるものがいくつかあった。
おお〜、テレビで見たやつだ……これは探知でこれは風刃だな。これは身体強化でこれはフレイムスピアだったか? 日本では炎槍って名称だったな。確かかなり強力なスキルだったはずだ。
これはつららか? 氷の槍かな? あっ! これはもしかしてレアスキルのヒール系じゃないか? これは助かる。
文字は全く読めないが表紙に絵が書いてあるから助かるわ。なんとなくわかるし。
このほか土っぽい絵のやつや凍った街の絵とかあったが、それがなんなのかはわからなかった。
しかしついにお目当ての物を俺は見つけることができた。
あった! これだ! この虫眼鏡? 片眼鏡? みたいなやつは鑑定のスキル書だ。絶対あると思ったよ。中級ダンジョンでよく見つかるって聞いてたからな。
俺はドラゴンに気付かれないよう声を出すのを我慢し、内心で歓喜していた。
そして鑑定のスキル書を開くと、俺の頭の中で『鑑定』と念じれば知りたい物の名前と効果がわかるというイメージが流れてきた。
よしよし、ネットの情報通りだ。半信半疑だったけど異世界言語的な言葉で説明されなくてよかったわ。
確か鑑定には魔力を使うんだよな。俺のゴミのような魔力でいくつ鑑定できるんだろ?
命がかかってるからな。ここはまず自分のステータスの把握を……する必要ないなうん。オールF
そして次に防具だな。武器は俺のランクでドラゴンに傷を負わせるのは不可能だから、防具を見繕って魔力に余裕があれば鑑定して探すか。命大事に作戦だ。
それから俺はスキル書を片っ端から開いた。どれも鑑定のスキルを覚えた時と同じで、どんな効果が発生するスキルなのかイメージが頭の中に流れてきた。
土のやつは物質を硬くするものだった。街が凍ってるやつはそのまんまで、広範囲を凍らせるスキルだった。厨二病が発症しそうだ。
全てのスキルを覚えた俺は次に自分を鑑定した。
阿久津 光 (あくつ こう)
種族:人族
体力:F-
魔力:F+
力:F-
素早さ:F
器用さ:F
取得スキル: 【鑑定 Ⅰ 】. 【探知 Ⅰ 】. 【暗視 Ⅰ 】. 【身体強化 Ⅰ 】. 【スモールヒール Ⅰ 】
使用制限 : 【風刃 Ⅰ 】. 【硬化 Ⅰ 】.【炎槍 Ⅰ 】 .【氷槍 Ⅰ 】. 【ミドルヒール Ⅰ 】 .【氷河期 Ⅰ 】
ステータスは思ってたより良かった。剣を振り回していたのに魔力がF-じゃなくてF+なのは、俺は物理よりスキル多用系の方が才能あるってことか? でも剣に魔力を通して斬ってたからなぁ。わからん。
それより使用制限てのがあるのをすっかり忘れてた。確か海外のネットの掲示板では攻撃系のスキルで強力なものは、魔力がある程度のランクにならないと使えないって書いてあった。自動翻訳機能使ったからわかりにくかったけど。
炎槍は火系の攻撃スキルで中級クラスらしく、確かDかCランクにならないと使えなかったと思う。氷槍も同じレベルの魔法じゃないかな?
氷河期とミドルヒールはわからん。とりあえずみんな覚えたてのレベルⅠだから頻繁に使ってレベルを上げないとな。
って違う! 攻撃系のスキル使えないじゃん! 頻繁に使うにもレベル上げるにもここから出なきゃ無理じゃん! 身体強化もⅡランクはないとそこまで強くなれないって聞いた。スモールヒールがあるのは助かるけど、ドラゴンに瞬殺されたら使う暇ないよな。
くそっ! スキルで強化は無理か。
なら強そうな装備を見繕って鑑定して身に付けるか。
俺は足音を立てないようハイハイをして、部屋のあちこちに散乱する鎧などを物色した。
ドラゴンが起きないか気になったが、ここで焦って鎧とか落として大きな音を立てたら人生終了だ。
焦らず若干開き直る気分でゆっくりと探すことにした。
そしてこれだと思う防御力の高そうな鎧や盾を見つけ鑑定すると、オリハルコンの全身鎧とか、オリハルコンの盾とかとってもファンタジーで聞き覚えのある材質の物で、しかもドラゴンと戦った後とは思えないほどの真新しさだった。
俺はこれで生きてここを出れると歓喜してその鎧を身に着けようとしたが……付け方がわからなかった。しかも重かった。
うん、ドラゴンに挑むレベルの人が身に付けてたもんだしな。そりゃ力がF-で身体強化覚えたての俺が装備したとしても動けるわけないよな。全身鎧、確かフルプレートアーマーって言うんだっけ? まあこんな物の付け方もわかんないし。
盾ならなんとかと思ったが、とてもじゃないけど持って走れるものでもなかった。
俺はもっと軽くて頑丈そうな物を探そうと、五円玉みたいな色をしたオリハルコンの鎧と盾から離れた。
所詮は五円玉よと負け惜しみを口ずさみながら。
それからオリハルコンより軽くて丈夫そうな魔鉄のハーフプレイトアーマーと、白銀に輝くミスリルのハーフプレイトアーマーを見つけた。
俺は青白く光る魔鉄のハーフプレイトアーマーを装備することにして、音を立てないようゆっくりと装備した。両方とも同じ重さだったんだよね。色がなんか勇者っぽいし宝箱と同じ材質みたいだからこっちにしたんだ。
鑑定のスキルで消費する魔力は思ったより少なかったから助かった。これなら20回は使えそうだ。
ほかにもヘルムとか欲しかったがここにはなかったので、俺は次に武器を物色することにした。
これもアホみたいに重い剣ばかりだったけど、ハーフプレイトアーマーと同じ材質の両手剣があったからそれにすることにした。まあ重いからそんなに振り回せないけど、使えそうな片手剣がなかったんだよね。
そのほかシミターみたいな曲がった独特な剣があったけど、使い方知らないから叩き斬るように使う普通の剣にした。そして短剣類もたくさんあったから、1本を剣に引っかかっていた剣帯に装備した。残りは全部回収してマジックバッグに入れた。
しかしこの剣は持ってないと歩きにくそうだ。
さて、もうちょっと探すか。
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