街灯を仰ぐ街

國灯闇一

第1話

 濃密な夜を走る車は住宅街の道を縫っていく。車内ではお気に入りのロックバンドがシャウトさせながら重低音を響かせていた。車も人も少ない住宅街の道を独り占めしている気分を味わうために、優勝パレードで走る車のごとく進む。

 運転している新田昌大にったまさひろはVネックのゼブラ柄シャツに青いジーパン、首にはリングネックレス、長い髪はウェーブがかかっており、黒い髪が白い肌とのコントラストで清潔感を印象付けている。


 慣れた様子で住宅街の道を進んでいた車は、少しずつスピードを落として止まった。信号はなく、T字路を通過する他の車を待っているわけでもない。

 新田の視線は一点へ注がれている。驚いているわけじゃない。何度も見ていれば、驚きすらなくなる。通常行事、平常運転。しかしその光景は奇妙の一言に尽きる。

 新田は車内中央のパネルを一瞥いちべつする。


 午後10時を過ぎると必ずいる、。後ろ姿は普通の男性だ。カジュアルな私服で、駅前なんかで歩いてそうな、ごく一般的な人のように見える。毎晩必ずいるのだ、


 今じゃ大した光景じゃなくなった。その場でただただ街灯の明かりを見ているだけ。

 新田はゆっくりアクセルを踏む。車は意味不明な人達がいる道に入る。T字路を右へ曲がると、一方通行の道が続く。街灯が等間隔に並んでおり、1つの街灯につき、1人が街灯を見上げている。顔ぶれは世代も性別も関係ない。共通点があるとするなら、見た感じは成人した大人だ。

 その通りを避けて通っても良かったが、街灯を見上げる人はここだけではない。新田が住んでいる住宅街の中のどの道に行こうが、必ず見る羽目になることを知り、新田は考えるのをやめた。

 何度かこの奇妙な光景に出くわした。ただ通るだけなら特に何か言われることもないと知ってからは、大して考えもしなくなった。帰り道によく見る不思議な名物を観覧しながら、今日も車はライトを光らせ自宅を目指すのだった。

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