289話 予言者な祈祷師①
夕日が街を照らす中、馬車は王宮へとパカパカ走る。その中に乗っているのはさくらと竜崎であった。
「『予言者』って、あの?」
「そう。かつての戦争、それを終わらせる予言をした祈祷師だよ。そして、私の存在を見つけてくれた方でもあるんだ」
さくらの問いに竜崎はそう説明する。予言…
そして、それは見事叶った。だからこそ予言と言われているのだが。言ってしまえば、その祈祷師こそが世界を救った人物なのかもしれない。
さくらもその存在は知っており、少し気になりはしていたが、会う機会は無かった。
それが突然の顔合わせ。なんでも竜崎曰く、その祈祷師からさくらを連れてきて欲しいと頼まれたらしい。
いつ会わせようか悩んでいたらしい彼はそれを快諾。今に至るというわけである。
(一体どんな人なんだろう?)
馬車に揺られながら、さくらは想像を膨らませる。
予言を降ろすほどの人物なのだから、かなり
考えれば考えるほど正体はわけわからなくなり、緊張も増してくる。もうこうなったら聞いた方が早いと、さくらは正面に座る竜崎に問いかけた。
「竜崎さん、その祈祷師さんってどんな…。あっ」
日に暖められ、心地よく揺れる馬車。そんな場所に数日間ほぼ寝ていない人が乗ったらどうなるか、自明の理である。
「すぅ…すぅ…」
竜崎は思いっきり舟をこいでいた。普段ならニアロンがさくらの問いに答えるか、竜崎を叩き起こすかするだろうが、今回に限っては彼女も寝ている。
さくらは思わず両手で自らの口をパシリと押さえ、席に深く腰掛け直す。そして、先程貰った『身代わり人形』をそっと取り出した。
起こしてはいけない、自分とメストのためにこんな御守りを作ってくれたのだもの。身代わり人形をぐにぐにと動かし遊ぶさくらの顔は自然と綻んでいた。
「…でもこれ、私の髪の毛入りなのか…」
ふと材料を想起し苦笑いしてしまうさくら。更に彼女は思い出す。先のメストの言葉を。
「竜崎さんの血も入ってるんだよね…?」
さくらは恐る恐る人形を鼻に近づけ嗅いでみる。が、血の匂いはしない。というか無臭である。少し安心したさくらはそれを大切にしまった。
どれだけの血を注いだのかわからないが、これを作るのに相当な労力がかかったのは間違いない。有難いが、それよりも…。
「むにゃ…さくらさん…無茶しないで…」
「無茶してるのは竜崎さんのほうですよ…」
思わず竜崎の寝言に突っ込むさくらであった。
「いやー…ごめんね。寝ちゃってた…」
眠気を追っ払うように頭を振り、竜崎はさくらと共に馬車を降りる。なおニアロンは未だ夢の中らしく、竜崎の身体に近寄るとすうすうと小さな寝息が聞こえてくる。
案内の王宮兵に連れられ、着いた先は王宮の端の方にある尖塔。見上げるほどに高いその塔の最上階に預言者な祈祷師はいるらしい。
「登るの大変そうですね…」
手で夕日を遮りながら真上を見たさくらは呟く。階段で行くとするとどれだけかかることやら…。と、竜崎はそんな彼女に一言。
「あぁ、エレベーターあるから大丈夫だよ」
「本当にエレベーターだ…」
ゴンドラ式かつ非常にゆっくりとはいえ、自動で登っていくそれに感銘を受けるさくら。手を出さないようにねと注意を入れながら竜崎は説明してくれた。
「毎回階段で昇り降りするのは面倒そうだったしね。だいぶ前に取り付けさせてもらったんだ」
「この技術を伝えたのも竜崎さんなんですか?」
「いや、私はちょっとしたことしか伝えてないよ。錘で引っ張りあげるとか、周りにゴンドラを通すレール?があった方が良いとか程度。ほとんどはソフィアが構想して作ったものだよ」
流石は発明家、こんなものまで作り上げるとは。でも、わざわざエレベーターを作るほどなんて、待ち受けている祈祷師はいったい何者なのだろうか…! さくらは内心戦々恐々としていた。
エレベーターの終点は最上階、の一回下の階。そこには一つの扉が。竜崎はそこをノックした。
「竜崎です。さくらさんを連れてきました」
「はーい!」
中から聞こえてきたのは女性の声。次いでパタパタと小走りの音。そして扉がギィイと開いた。
「わざわざ来てくれてありがとね、さくらちゃん」
現れたのは、トランス状態の巫女でも、傲岸不遜な老爺でもヒステリックな老婆でもなく…ちょっとふくよかなおばちゃんだった。
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