250話 スライムの倒し方

「まだまだ出てくるのぅ。盗賊連中、よほど獣母の搬送に手間取っていると見える」


他人事のような賢者。ふと竜崎達が戦っているのを見て思いついたのか、さくら達の方にくるりと向き直った。


「丁度よい、お前さん達にスライムの倒し方を教えておこうかの」



「スライムの…」

「倒し方…ですか?」


「そうじゃ、知っているものはおるかの?」


賢者の問いに、誰も手を挙げない。その様子を見た賢者は軽く笑った。


「まあじゃろうなぁ。スライムは強いが寿命は短く生成も手間じゃて、戦い以外で見ることは稀な存在。授業で戦い方を教えるには後回しになるしの」


と、賢者は手を開き何かを詠唱する。するとポムポムと現れたのは小さな手乗りスライム達だった。


「ほれ、触ってみなされ」


投げ渡されたスライムをさくら達が恐る恐る突いてみると、プルンプルンと身体を震わせた。意外と可愛らしいのかもしれない…?


「それが通常状態じゃ。移動、待機などは手で持てるほどに固まっている。しかしひとたび戦闘状態に入ると…」


にやりと微笑み賢者は指を振る。すると次の瞬間プルプルだったスライムはドロリと溶けだし持っていた手を覆ったのだ。


「わっキモッ!」


ネリーが正直な感想を漏らす。確かにこれは気持ち悪い。さくら達は取り除こうとするが…


「あれ…!手から…!」

「離れない…!?」


いくらこそげ落とそうとしても、スライムはぬたりぬたりとくっつき離れない。それどころか近づけたもう片方の手までも飲み込み、両手は思うように動かせなくなってしまった。


「手足にとりつけば動きが制限され、口や鼻を塞がれてしまえばすぐさま窒息死となる。スライムは言ってしまえば対生物最強の魔物じゃな」





「さて、倒し方じゃが…最も簡単な方法は『魔術か属性の力を付与した武器で粉々に散らせる』というものじゃ。一度細かくちぎってしまえばよほど近くに集まらない限り復活はしないからの」


「でも、賢者様。身体に纏わりつかれた場合はどうするんですか?」


スライムに両手を捕らえられながら、クラウスは問う。確かにこの状態ならば武器は持てず、魔術をぶつければ身が焼けるのみだろう。すると賢者は至って平然と答えた。


「同じじゃよ。爆破なり水流なり、とにかく吹き飛ばせばいい」


「「「えぇ…」」」


超荒業を提案されて困惑するさくら達。賢者はふぉっふぉっと笑い皆を宥めた。


「安心せい、とりついたスライム自体が防御壁となり肌まで届かん。怖がることなく対処するようにの。じゃが、口を塞がれた際には詠唱に支障が出る。その対策に口を使わぬ魔術や、魔力を注ぐだけで属性の力を起こせる精霊石を用意しておくべきじゃな」




賢者に言われた通りの方法を試してみるさくら達。確かに軽い爆破や火でスライムは溶け落ち、肌には火傷の一つも残らなかった。


「意外と簡単ですね…」


対生物最強の魔物と言うには正直弱いのではないか?そんなさくらの心を読んだかのように、賢者はにやつきながら地上を指さした。


「さあ、問題は大きさじゃ。その小さいサイズならばちょいと魔術を齧った者なら簡単に倒せるじゃろうて。しかし今リュウザキ達が戦っている人間サイズのスライムならどうかの?」


彼の指を追い、さくら達は真下を見やる。そこにいたのは調査隊の他面子。竜崎達のところから漏れ出た魔獣達を狩っていたらしいが…。と、何かに気づいたネリーが声をあげた。


「あ!あれ!誰かがスライムに呑み込まれてる!」





「くそっ…!魔導剣が効かない!」


「私の魔術じゃ…!」


呑み込まれた仲間を救出するため戦う調査隊メンバー。しかし彼らは苦戦していた。しっかりと魔術や属性を付与した武器を振るっているのだが、それらの攻撃は全て流動なるスライムの身体に吸収されてしまっていた。


「何で…!?」

「賢者様、あれマズいんじゃ…!」


困惑するさくら達。しかし賢者は慌てることなく指をピッと振った。


ドゴォン!


刹那、人を呑み込んだスライムが大きな爆炎に包まれる。炎が消えた後に残ったのは、呑み込まれていた人がゲホゲホとえずく姿だけだった。


「スライムは大きければ大きいほど魔術への抵抗がつく。生半可な魔術は無効化されてしまうのがオチでのぅ、ちょっと腕に自信がある程度では勝てんのじゃよ」


スライムに殺されたくなければ鍛錬を怠るのではないぞ?そんな賢者の言葉に、さくら達は一斉に頷いた。





「そういえばリュウザキ先生達はどう対処してるんだろ」


と、ネリーが改めて目を下に動かす。さくら達が賢者に講釈を受けている間も、当然ながら彼らは戦っていた。


「確かに、もしかしたら参考になるかもな」


クラウスの言葉に、一同は再度竜崎達を注視する。幸運なことに、彼らは丁度スライムと相対していた。





「『剛炎刃』―。」


まずはジョージ。敵の只中で何かを詠唱していた彼の剣に宿ったのは、刀身まで揺らめくほどの紅蓮の炎。その剣技にさくらは見覚えがあった。ゴスタリアの騎士団長、バルスタインが使っていた技である。


「行きますぞ!」


彼は迫る巨大スライム達に突貫。一刀の元両断した。すると恐るべきことが。切られた断面から業火が噴き出し、スライムはいとも簡単に溶け消えてしまったのだ。


だが切られたのはスライムだけではない。堅そうなゴーレム、空中を飛び回る精霊達も瞬く間にたたっ切られ燃え崩れていく。ジョージの通った後に残るは焼け野原だけであった。





「うーん。やっぱり暴走人獣達には使役術の効きが悪いわね…」


お次はグレミリオ。どうやら悩んでいるらしい。自らの使役下に置いた魔獣達に囲まれ首を捻っていた。


「あらスライム。丁度いいところに」


と、近寄ってきたスライム達をみつけた彼(彼女)は鞭杖でバシリバシリと叩いていく。流動体の彼ら相手でも使役を奪うことが可能らしく、スライム達は即座に暴走人獣達に向かっていった。


「ガ…ゴボッ」


強化された人獣なんのその。スライムはいともたやすく包み込み、窒息死させていく。強力な敵は自らの味方につければ良いだけ、そう言わんばかりのグレミリオは従えた魔獣達による蹂躙を進めていくのだった。





―清人、増援みたいだぞ―


「だな。薙ぎ払え、精霊達!」


そして竜崎。蠢くスライム達に向け発射されたのは上位精霊達の強力な光線光弾。スライムどころか増援に来たゴーレム召喚獣達までもが一瞬にて存在を消滅させられていた。


その隙を突き、竜崎達は近場のスライムに肉薄。何をするかと思えば…。


―弾けろっ!―


ニアロンによる光輝くパンチ。当たったスライムはパァンと音を立て砕け散った。


―今のとこ私達が一歩リードだ。この勢いのままなら勝てるな!―


カラカラ笑う彼女を連れ、竜崎は上位精霊を指揮し再び魔物の群れへと飛び込んでいった。





「「「参考にならない…!!!」」」


強者3人の活躍にそう零すさくら達。調査隊の他面子が苦戦するスライム達をもののついでのように屠り去っていく竜崎達の動きなぞ、真似できるわけがない。


「3人共、伊達に先の戦争で活躍しとらんからのぅ。それよりほれ、もっと見ごたえのあるのが来たぞい」


賢者の言葉にさくら達は眉を潜める。一体何がと視線を写した時だった。


ブオッ!


「わっ!?」

「風が…!」


突如吹き付けたのは身体が吹き飛びそうなほどの強風。賢者が固定してくれていたおかげで服が多少まくれあがった程度で済んだ。


「さっき街で食らった風に似てるな…」


ワルワスがぼそりと呟く。と、モカがある一点を指さした。


「皆!あそこ!」


先程増援が出てきた森があっという間に燃え盛る。ノシリノシリと現れたのは巨大な火蜥蜴。そう、サラマンドである。しかも、彼だけではなかった。


「あそこ飛んでいるのってシルブじゃない!?」


「あの光っているのって雷の上位精霊ポルクリッツだろ!?」


火、水、風、土、雷、氷…。現れたのは一匹だけで災害をも引き起こす各種上位精霊達。しかもそれぞれ何匹もいるではないか。


「…あれ、どう見ても竜崎さんの召喚した精霊じゃない…」


竜崎が普段召喚する上位精霊達よりも数段猛っている彼らを見て、確信するさくら。間違いない、あれは誰かが召喚した『敵』である。

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