249話 学園の強き教師達
「手筈通り、大きく3等分と行きますかな。吾輩は真ん中を頂きましょう」
自らの剣をスラリと抜き、両手で構えるジョージ。グレミリオは短杖を取り出しペンのようにくるくると回した。
「私は右ね」
―なら清人は左だな。誰が一番最初に片付けるか勝負と行こうか。最下位は今度の呑み代全負担でどうだ―
「こらニアロン、そんなことを…」
竜崎が呆れる様子でニアロンを窘めようとしたが…。
「「乗った!」」
我先にと駆け出すおじさん教師2人。唖然とする竜崎をあざ笑うかのように、ニアロンは彼の頭を叩いた。
―ほらお前も急げ、負けるぞ?―
「…大体、呑み代の大半はお前が飲み食いしている分だろ。そんなのお二人に払わせるわけにいかないよ」
―お、今の内から負けの言い訳か? さくらも見てるぞ?―
「はぁ…もう…。詠唱補助を頼む」
―勿論、任せとけ―
「おぉお…!!」
「すごい…!」
「あれが先生達の力…!」
上空から見下ろすさくら達は盛大な歓声をあげていた。山ほどいる魔獣達が端からバッタバッタと片付けられていくその様子は、実に壮観である。
しかも、当然だが3教師それぞれ戦い方が違う。例えば竜崎ならば、遠くでもわかるほどにカラフルな各精霊達が光線や光弾を打ちだし魔獣達を薙ぎ払っている。まだ日が出ているというのに綺麗なイルミネーションである。
そして、剣術指南役ジョージと召喚・使役魔術講師グレミリオの戦い方だが…。
「ハァッ!」
鎧を纏い、愚直に剣を振るうジョージの姿はまさに騎士というに相応しい。現在は騎士団長を引退している身のはずだが、その動きにいささかの乱れ無し。
一本の剣で万といる魔獣を相手取るのは無謀? 立ちどころに物量で押し負ける? いや、そんなことは無い。なぜなら…。
ズバスッ!
スパンッ!
一太刀振るうごとに発生するは飛ぶ斬撃。押し寄せる魔獣達は片っ端から両断されていく。しかも両隣りにいる竜崎達の獲物をとらないよう、斬撃は自らの割り当て分だけを切り裂き消え失せていった。調整まで自由自在らしい。
学園長の娘で魔王の右腕であるラヴィ・マハトリーも同じような技を使っていた。彼女は持ち前の馬鹿力と巨大斧により斬撃を作り出していたが、ジョージにそれらは無い。それでもなお、彼女と同等なほどの斬撃を放つ彼にさくらが驚いていると、横にいたクラウスがぼそりと呟いた。
「ジョージ先生、全く技使ってない…。ただ『剣の型』を繰り返しているだけだ…」
「えっ…!?」
まさか技ですらなく、練習に用いられる動きだけで魔獣達を殲滅しているとは…。しかしジョージの背に驕っている様子はない。ただ上空にいる生徒達や他の兵達に『剣術を究めればここまで出来る』ということを示すかのようであった。
「~♪ ~♪」
一方のグレミリオ。鼻歌交じりにしゃなりしゃなりと魔獣達の中に歩いていく。そして…。
バシンッ!
ビシンッ!
彼(彼女)が手にしている短杖の先から鞭の様なものが伸び、周囲にいる敵を次々と引っぱたいた。人獣、魔獣、精霊、召喚獣、ゴーレム…何一つお構いなしである。
「グ…」
「ガガ…」
叩かれた相手の様子がおかしい。動きが鈍り、だらんと力が抜けたように。と、グレミリオは手にした鞭杖で地面をパシンと叩いた。
「裏切っちゃいなさい♪」
「グオオ!」
「ガルルル!」
その言葉を聞いた瞬間、鞭で叩かれた獣達は一斉に振り返り後ろの仲間へと襲い掛かる。場は瞬く間に混乱の渦へと陥った。それを見ていた賢者は懐かしむように口を開いた。
「グレミリオの使役術はあれで終わりはせんぞい。ワシらも手を焼かされたもんじゃ」
彼の言葉にさくら達は目を凝らす。すると、驚くべきことが起きたのだ。それはグレミリオに使役された魔獣達が他の魔獣達に攻撃した時だった。
「グルル!」
「ガッ…ガガ」
グレミリオが手を下していないのにも関わらず、攻撃をされた魔獣達は使役されていく。どうやら、彼に直接鞭打たれた者達は使役の力を伝播させることができるらしい。グレミリオ側に寝返らされた魔獣達はどんどんと数を増やし、あっという間に大軍となった。
「えげつない…」
さくらは思わずそう漏らす。いくら大量の敵がいたとしても、それを味方に取り込んでしまえば戦況は一瞬にして逆転する。そんな簡単かつ超難題をグレミリオは自らの魔術のみで易々と成し遂げているのだ。元魔王軍幹部は伊達ではない。
「…なんか凄すぎるな、学園の教師達って…」
一騎当千の竜崎達を見ながら、そう言葉を絞り出すワルワス。彼らの学校…もとい訓練所にも手練れな教員は沢山いるだろう。しかしここまでとなると…。なんと返したらよいかわからずただ苦笑いを浮かべるさくら達だったが、突然ネリーが叫んだ。
「あ!あれ見て!」
彼女が指さした先には、森の木々をなぎ倒しながら現れた増援。ゴーレムや召喚獣、スライムといった魔術により呼び出された又は作り出された魔物達が大挙して現れたのだ。
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