241話 勝負の行方は

「ネリーちゃん、計算済んだ?」


「うん!アイナにも確認してもらったし間違いないよ!」


指定した制限時間が過ぎ、さくら達は学園にある治癒魔術講師の控室で合流。結果の集計をしていた。


「こっちの点数凄いよ~! 噂を聞きつけた街の人がこぞって集まってきたんだもん、おかげで休憩する暇すらなかったし!」


「こっちだって負けてないよ!」


競い合うネリーとさくら。後ろで待っているシベル達もソワソワである。


「「せーの!」」


満を持して、結果を見せ合う。そこに書かれていた点数は…。


「え」

「わ」

「「嘘…!」」


「「「「ピッタリ同じ…!?」」」」





「数え間違えはないのか?」

「記録漏れとかはありませんか?」


思わずさくら達に詰め寄るシベルとマーサ。勿論そんなことをした覚えはない。一応彼らも計測用紙を確認したが、結果は変わらずであった。



「マーサ、不正はしてないだろうな」


「えぇ。メサイア様に誓って。シベルこそどうなんです?」


「ならば俺はリュウザキ先生に誓おう。不正なぞするものか」


互いにフンッと鼻を鳴らすシベル達。怪我の度合いは低く数も少ないが人数が多い街中、人数は少ないものの怪我の度合いは高く数も多い調査隊本部。意外とバランスがとれていたのだろう。


「くっ…まさか互角だとはな」

「これで通算2勝2敗1引き分けですね…」


ならば次はどうするかを議論するシベル達。どう止めようか悩むさくら達だったが、突然部屋の扉が開いた。


「おい。シベル、マーサ」


現れたのは竜崎の代理講師も務めるエルフの女性、エルフリーデ。普段は学院や騎士団に在籍しているはずだが…。


「どうした?」


顔馴染みなのか、シベル達は軽く返事をする。すると、エルフリーデはハァ…と大きな溜息をついた。


「先程『辻癒し勝負』をしていたみたいだが、許可は取ったんだろうな?」






「「あっ…」」


同時に言葉を漏らすシベルとマーサ。そんなものが必要と聞いていなかったさくら達は狼狽えた。


「要るんですか…?許可」


「勿論。学園長と賢者様と王様の許可が必要だ。根本はあいつらの子供じみた勝負といえども、人の命を預かることになるからな」


まさかそこまで大事だったとは。当然と言えば当然であるが。さくら達がチラリとシベル達の方を見やると、2人共顔面蒼白だった。


「正座」


「「はい…」」


エルフリーデのきつめの一言で、シベルとマーサは床に正座する。恐らくエルフリーデの方が若いだろうが、今の2人は怖い姉に怒られている弟妹達であった。


「一体何度言ったらわかるんだ?リュウザキ先生に必要以上に迷惑をかけるなと。それでも学園の教師か?先生の教え子か?」


「「すみません…」」


「そうやって毎度謝るは良いが、暫くしたらまた喧嘩するだろう。一体お互いの何が気に入らないんだ」


「「何か気に入らなくて…。あと、治癒魔術の専攻が違うのが…」」


「なんだその理由、子供か!」


ガミガミと叱られるシベル達が見るに堪えず、さりとて部屋から出ていける雰囲気ではないさくら達。そんな中、ふとさくらはとあることに気づいた。



「あれ…?でもエルフリーデさん、広場でやった時も調査隊本部でやった時も誰も咎めませんでしたけど…」


あれだけ人が集まったのだ、騎士達も学院の人達も気が付かないわけはない。実際、広場にいる警ら兵達は面白そうに眺めているだけであった。


それにわざわざエルフリーデが来たということは、学院か騎士団からの使いということなのだろう。にしては叱る内容が少々


「ふぅ…さくら、それはもう少し後で言ってほしかったな」


「え、ご、ごめんなさい…?」


仕方ない、と息を吐いたエルフリーデは懐を探る。取り出されたのは一枚の書類だった。そこに書かれていたのは…。


「『学園教員による治癒魔術実地研修』の許可証…!?」


どうやらそれが『辻癒し勝負』の書面上の名称らしい。そのまま下の方に目を降ろしていくと…。


「あっ!学園長のサイン!」

「王様と賢者様のもあるよ!」


ということは許可は出ているということ。ネリー達も驚いている。勿論覚えがないシベル達は大口を開け呆けていた。


「おかしいなぁ。お前達がこの書類を出していないなら一体誰がこれを出したんだろうなぁ」


わざとらしく、にっこり笑うエルフリーデ。この辻癒し勝負を行う事を知っている他の人物、考えられるのはただ一人。シベルとマーサはこわごわ答えを口にした。


「もしかして…」

「リュウザキ先生…ですか?」


「もしかしなくても、だ!」


書類の一番下を指さすエルフリーデ。そこに書かれていたのは、間違いなく竜崎のサインだった。


「やっぱり…」


さくらは少し前の会話を思い出す。竜崎は確かに『あの二人のすることはだいたい予想がつく』と言っていた。恐らく、いや絶対こうなることも読めていたのだろう。故に先んじて許可をとっていたのだろう。


「勝負は終わったのだろう?ならリュウザキ先生に謝りに行け!今なら精霊術講師の控室に戻ってきている。ほら駆け足!」


「「は、はい!!」」


急ぎ立ち上がり、部屋を飛び出すシベルとマーサ。エルフリーデは再度溜息をつき、さくら達に謝った。


「すまなかったな皆、あの2人が暴走して。色々面倒事に付き合わされただろう」


「あはは…まあでも、勉強になりました」


さくらはエルフリーデにそう返す。間近で傷が癒えていく様子をみることができたのだ。これもまた元の世界では出来ないこと。ちょっと治癒魔術を頑張ってみようと思うさくらであった。

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