224話 スープは空に
「…こんなところか。その後、魔王軍はレドルブから撤退。元レドルブ兵でできた死霊兵を時間稼ぎに用い魔界へと退いていった。奪還は成功したというわけだ」
時は戻り、魔王城の庭。かつての主戦場の記憶を語り終えた魔王はぬるくなったスープを一息で飲み干す。
「直後のレドルブの有様は惨たらしいものだった。そこいらに敵味方問わず死体は山積みとなり、建物はほとんどが廃墟に。人界側の軍も総じて疲弊していた。辛勝と言っても差し支えない。『勇者一行』がいなければ勝つことすらままならなかっただろうな」
しみじみと語る魔王の言葉に、さくらは先日行ったばかりのレドルブを思い返す。元戦場だと言われなければわからないほどに復興したあの都市を友達と共に歩いたが、その下には数多の遺体があると思うと背筋がゾッとしてしまう。
そんな気持ちを振り払うように、さくらは魔王に一つ質問をした。
「幹部の人達はどうなったんですか?」
「勿論その後も幾たびか刃を交えた。だが、魔王の討伐後、先の話に名を出した連中は忽然と姿を消し、今も見つかっていない。昼のような元魔王軍の反乱にも参加することなく、生きているかすらもわからない」
ふと、魔王はそこで言葉を止める。そしてふう…と息を吐いた。
「なあキヨトよ、我は…私はお前との約束を果たせているだろうか。反乱が起きるたびに思う。先代の、父の亡霊を打ち払えないでいるのではないかと。私は『魔王』の器足り得ないのではないかとな…」
空となったスープの椀に目を落とす魔王。先程まで威厳とカリスマに満ち溢れていた彼の姿は、今はどこか小さく見えた。
そんな魔王…アルサーに、竜崎は優しく首を振った。
「いいや、アルサー。君は立派にやっているさ。たった20年でほとんどの村や街を復興し終え、各国との手の取り合いを確かなものとした。君の治世下で今幸せに暮らしている元魔王軍の人達も沢山いる。誇ってくれ、君は正しき魔界の王だ」
微笑む竜崎。彼に同意するように、ソフィアと賢者もうんうんと頷いた。
と、勇者が竜崎の肩を揺すった。
「キヨト、もう無い」
「ん?あ、全部食べたの? おかわりを…」
「もう無い。ごちそうさま」
勇者のその言葉にさくらは鍋を覗き込む。先程まで結構あったはずのスープは全て無くなっていた。
「いつの間に…」
苦笑いを浮かべる竜崎に代わり、ニアロンが勇者に問う。
―もう満腹になったか?―
「ん。でも、甘い物が食べたい」
―だとよ、魔王様―
「フッ、すぐに用意させよう」
立ち上がる魔王。と、そこにスタンと現れる人物が。ラヴィである。
「魔王様、来賓の方々がお探しです。そろそろ室内に」
「丁度戻るところだ。いつも済まないなラヴィ」
「お気になさらず。 あ、少し失礼します」
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