172話 白蛇暴走の真相

イヴによって捕まえられ動けなくなった蛇達の目を竜崎が洗い流し、メルティ―ソンが次々と沈静化させていく。どうやらこれで依頼達成のようである。さくらはその様子を少し離れた位置でニアロンと共に見ていた。


―なんとか上手くいって良かった。大分疲れたな―


さくらに憑りついたまま、ニアロンは伸びをして体をほぐす。霊体にコリなどあるのかはわからないが、終始さくらの周りに障壁を張り、ウルディーネの操作の補助をしていたのだ。疲れもするだろう。


「竜崎さんのところに戻らなくていいんですか?」


―今は作業中だし、後で良いだろう。それよかさくらは大丈夫か?かなりの荒業で空を飛んだから魔力を大分消費したはずだが―


先程、空を飛ぶ精霊霊獣を出した竜崎達とは違い、さくらだけはウルディーネに乗り空を翔けたのだ。その方法はニアロンが言った通りとんでもない荒業であった。


「空中に水の道を作って、それを泳いでいくなんて…そんな方法で飛べたんですね」


ウルディーネが水を生成、発射後即座に空中で固定。その作業を常に行いながら移動することで、さながらウォータースライダーのような状況を作り出していたのだ。正確に言えば飛んでいたわけではなく、泳いでいたというわけである。


―とんでもなく魔力を使うし、それが出来るならば浮遊魔術や風精霊で代用したほうが早いんだがな。今回は事情が事情だ。しかし…比較的簡単にウルディーネが応じてくれたんだが、さくら何かイメージしたか?―


「あ、昨日学院で見た『水流を自由自在に操る魔術士』さんを参考にこんなかなーって…」


―それだけでか?凄いもんだ。貯蔵魔力もまだまだ余裕がありそうだし、逸材だなほんとに―


ニアロンにそう褒められ、へへと照れるさくらの背に声がかけられた。


「お疲れ様さくらちゃん」


「あ、学園長さん」


その声の主は学園長(若い姿)。既に暴れていた人獣魔獣は全て討伐又は追い払いが済んだらしく、少し離れたところではオーガ族達が体を伸ばしていた。


「空中でハイタッチとはカッコいいことするわねぇ」


どうやら見えていたらしい。学園長はカラカラと笑った。


「リュウザキ先生とさくらちゃん、良いコンビね」


―私を忘れるな―


「おっと、トリオね」





竜崎達の元に向かう学園長、そして口々にさくらへお礼を言ってからそれを追う里長と白鬼を見送るさくら。自分も竜崎さんのところに戻ろうかな、そう思っていた時だった。


バシィン!


「きゃっ!」


突然背中を叩かれ、さくらは小さな悲鳴を挙げてしまう。この感覚、そしてここはオグノトス。もしや…


「よぉよぉ学園代表。すげえじゃないか!」


やはり、代表戦で相対したオグノトス代表選手だった。彼らも人獣魔獣退治に参加していたらしい。


「ウルディーネを召喚できて、ニアロン様と親しいなんてそりゃ俺達勝てないわ!」


アッハッハと笑う彼。それを聞きつけなんだなんだと寄ってきたのは他のオーガ族達だった。


「もしかしてこの子が?」


「そうだぜ。俺達を軽くのして、名だたる国の代表を次々と倒し、しまいには会場に大渦を作り出して残っていた代表をほとんど殲滅した子だ!」


いや間違っていない。間違っていないのだが…。その紹介っぷりは少々恥ずかしい。しかも相手は力自慢のオーガ族、そんな話を聞いたら血が騒ぐらしく…。


「俺と手合わせしてくれないか?」

「いや僕と」

「是非私と!」


大人も若者も、我先にと対戦希望者が押し寄せる。さくらは思わずニアロンに助けを求めた。


「ニ、ニアロンさん…」


―良いじゃないか、相手してやれば。やだか、仕方ないな。 お前達、さくらは疲れているんだ。また今度にしてやれ―





そうさくらが揉みくちゃになっている頃、巨大蛇の横、竜崎達。


「―。ふう…。解除、終わりました」


残り7つの首にかかっていた魔術を解き、メルティ―ソンは蛇の頭から降りる。だが余程疲弊したのか、先に解除された首1つを含め、白蛇達はイヴのゴーレムの手が離されても団子状のままぐったりとして動かない。気絶したかのように眠っているようだ。


「どうだったメルティ―ソン先生?」


「はい、やっぱり巨大化の原因も…」


「そう…。となると学園長に報告するべきね。丁度来たみたいだし」


竜崎達がそう会話を交えていると、そこに到着したのは学園長達。頭を深々と下げる白鬼を一旦止め、竜崎が改まった声で学園長達に向き直った。


「学園長方、少しお耳に入れておきたいことがあります」


「何かしらリュウザキ先生」


彼の様子に、学園長達の表情も真剣なものに。竜崎はイヴとメルティ―ソンに目で合図をしてから口を開いた。


「今回白蛇が暴走した理由、それは何者かによる魔術付与です」


「やはりそうでしたか」


ここまで想定内だったらしく、学園長は軽く返事を返す。だが竜崎はそこで更に声を真剣なものとした。


「その魔術に問題がありまして。かかっていた魔術は20年前の戦争、そこで良く用いられていた洗脳魔術のようなのです。メルティ―ソン先生による診断です、間違いないと」


それを聞いた学園長達の表情が俄かに強張る。そこにメルティ―ソンは追加で説明を挟む。


「白蛇さんが巨大化していた理由も恐らく同一人物によってかけられた魔術です。魔術の癖がところどころ似通っていました。そして…その洗脳化で、白蛇さんは使役を受けていた可能性があります」




「どういうことだ…!?」


友人ならぬ友蛇が何者かに操られていたかもしれない。それを聞いた白鬼は少し声を荒げる。彼を落ち着かせ、竜崎は言葉を繋いだ。


「最初にメルティ―ソン先生が魔術解除に向かった際、魔眼を使用する直前で逃げられてしまいました。しかし、その後に白蛇がとった行動は泥で目を潰すこと。そこがおかしいのです。白蛇は相手が何者かを全く認識しない状態で暴れていました。当然、メルティ―ソン先生の魔眼については認識していない、しかも発動していなかったので存在すらわかっていなかったはずです。しかし、それなのに急に泥で目を隠しました。これは、何者かが魔眼の存在を知っており、対策として命じた可能性が大いにあるのです」


そこに更にイヴが付け加えた。


「恐らく、やけに多かった人獣達も余所から連れてこられたのでしょう。そこで倒れている人獣に付着していた土を確かめましたが、この辺りのものとは明らかに違いましたわ。最も、ログ先生ほどの知識がないので場所まではわかりませんが…」


霊獣を巨大化、洗脳し、使役。さらには大量の魔獣達をも操る謎の存在。その場にいた全員がただ事ではないと認識を改めた。



「となると、魔王から通達があった『正体不明の魔術士』の可能性が高いということか…」


里長の呟きに、その場にいた皆の頭にはその情報が浮かび上がる。正体不明の魔術士。以前竜崎が魔界に行った折、とある村で同じく洗脳魔術をかけ姿をくらました存在である。更にはアリシャバージルにも姿を現し、盗賊を脱獄させ盗んだ機動鎧をあげて学園に押し入らせもした。幸いその時は賢者によって追い払われたらしいが、賢者の力をもってしてもその正体は未だ不明のままである。


「暫く警戒を強めよう。見つけ次第、容赦なく叩き潰してやる」


友達の目が潰されかけたことに憤りを感じているらしく、白鬼はそう息巻いた。

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