112話 代表戦⑪
「余計な真似を…!」
あと少しで勝てたところをまさかの乱入者、ゴスタリア代表を虐めていた相手は苦々し気に吐き捨てる。そんな協力者とは裏腹に、鳥人の子は平然と話しかけてきた。
「お前達がここに来たってことはエルフの連中は片付いたってわけだな?」
さくらがコクンと頷くと、彼は実に嬉しそうな声を出した。
「そりゃあいい!感謝するよ!ドワーフに続き、エルフまでとは。有難いばかりだ!」
それと同時にチームメイトであるもう一人の獣人もにやにやと笑った。
「できればそっちのチームも誰か離脱していてほしかったけどな」
「おい、何してる獣人共!戦え!」
まるで世間話をするかのような彼らに業を煮やしたのか、怒り交じりの檄が飛ぶ。
「チッ、まるで俺達を下僕か何かのように…寧ろ俺らであいつを仕留めたい気分だ」
「貴族の子なんだろ。他のチームメイトもあいつの横暴さに辟易しているみたいだしな」
そう友を宥め、鳥人の子は腕についた翼をバサッと全開まで広げた。
「ドワーフの粘着弾にエルフの弓術。目の上のたんこぶだった連中が負けてくれたおかげで自由に羽ばたける。そして他の鳥人の参加者は既にいない、空を飛ぶのは俺の専売特許になった!」
勢いよく飛び上がった彼は大空を舞う鳥そのもの。そのまま獲物を見つけた鷹のように急降下をしてきた。
「危ない!」
メストの号令で一斉に回避する。空を飛ぶ彼の姿に少し見とれていたさくらは反応が遅れ、その狙いすました一撃は彼女の髪先を少し切り落とした。
「危なっ!」
急いで反撃をしようと構えるクラウスとさくらだが、既に相手は空高く。歯噛みする彼らの背に声がかけられる。
「おいおい、こっちもいるんだぜ!」
背後から獣人の子によって奇襲がかけられる。メストが弾いて危うく難を逃れたが、そこに間髪を入れず鳥人が急降下。それを躱すと獣人が…。見事に連携のとれたヒット&アウェイ。相手は2人、こちらは3人。なのに翻弄されてしまう。
「これが俺達の戦い方だ!」
さくらは目まぐるしく動く彼らの姿を追うだけで精一杯。ゴスタリアの子達を助けに行きたいが、この状況で単独で飛び出せば間違いなく群れからはぐれた草食動物のように餌食となるだろう。どうにか打開できないか、そんな時、メストが口を開いた。
「さくらさん、クラウスくん。あの獣人の子の相手をお願い出来る?」
「えっ、はい! メスト先輩何を…」
「空を飛べるのは彼だけじゃないさ」
再度急降下してくる鳥人の子、メストはそれを迎え撃つように立ちはだかった。
「食らえ!」
絶好の機会とばかりに襲い掛かる相手にカウンターするよう、メストは土精霊を召喚。砂つぶてを浴びせかけた。
「ぐっ…」
たまらず彼は空に逃げる。安全な位置まであがり、一息つこうとしたその時だった。
バサンッ!
自分のものではない羽ばたき音、そして次の瞬間、
ビュッ!
レイピアによる突きが彼を襲ったのだ。
「なっ…!」
慌てて避ける鳥人の子。しかし躱しきれず、翼に当たり羽が数本ひらひらと落ちていった。距離をとり攻撃が来た方向を確認すると、そこには先程まで地上にいた魔族の女性が背の翼を大きく広げ浮かんでいた。
「魔族の翼、忘れてもらっては困るよ。ようやく僕も自由に動けそうだ!」
「くっ…だが、俺達ほど長くは飛べないだろう?」
彼が指摘した通り、いくら魔族が翼をもっているとしても、本来それは多少浮けるだけのもの。対するは空を自由に飛び回る鳥人族。差は明白である。
「ついてこられるか!」
煽りちち、鳥人の子は大きく旋回する。ただの魔族ではついていくことは至難の業であろう。だが、メストは違った。
「こうかい?」
足場魔法陣を作り出し、それを蹴りながら空中を翔ける彼女。その動きは鳥人の子と遜色ないほど。空中では2人の苛烈なドッグファイトが始まった。
「すげえな…鳥人に、しかもあいつに追いついているとは…」
残された獣人の子は空を見上げながら感嘆の息をつく。そしてさくら達に向き直った。
「あいつらと合流しないのか?」
クラウスが首で促す先にはゴスタリア代表達と睨み合う彼らの協力者達。それを見て、彼は苦笑いを浮かべた。
「いやぁ、できればあんな性悪に協力したくはないからな。勝手に潰し合ってくれれば俺らの目的は果たせたようなものだし。残った側を後でゆっくり狩ればいいだけだ」
どっちが性悪なんだろうか、だがそれも立派な作戦である。獣らしくはあるが。
「そうだ、俺からも礼を言わせてもらうぜ。ドワーフの罠やエルフの竜使役術は本当に厄介だったんだ」
彼はそう言いながら自らの得物を構え、態勢を整える。
「そんな学園の代表2人を相手どるのは少し怖いが、うち1人は力が尽きかけのようだしな。あいつがあの魔族の人を引きつけている間に仕留めさせてもらうぜ!」
ダッ!と虎の如く駆けてくる獣人相手にさくら達は武器を構え直すのだった。
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