110話 代表戦⑨

矢が射られる。返すように魔術を撃つ。未だ火が残る戦場の中、エルフの代表達とさくら達学園代表は戦っていた。


先程の乱入のおかげでクラウスが生き残り、人数差の心配は無くなった。だが、未だこちらが不利なのは変わらない。それに加えて足元が悪い。


先程獣人2人を追い払うために半ば怒り任せで放った魔術。その残り火がそこかしこにあり、邪魔なのだ。水精霊で消火を試みたいが、そちらに気を向けてしまうと隙ができてしまう。いくら広い闘技場とはいえ、足場を制限されてしまえば弓の独壇場。かなりマズい状況である。



まさに防戦一方、矢を防ぐので精一杯である。たまに出来る隙も、空を飛ぶ竜が襲い掛かってきて攻撃に出れない。


こんなことなら見栄を張らず、さっきの獣人達と共闘しておけば良かったと心の端で思ってしまう。


「―!」


さくらは思いっきり首を振る。ダメダメ。エルフの人達も共闘申し出を断ったということは、自力でなんとかできるという自負と誇りがあるということ。それなのにこっちが折れてはいけない。折れたくない。自分にそう言い聞かし、前を向く。




しかし…。さくらには気になっていたことがあった。

「なんで矢が尽きないんだろう?」


先程からずっと戦っているのに、彼らの矢は尽きることがない。獣人の乱入もあり、確実に消費させられているはず。今もそこいらには炎の矢なるものが残っている。


「魔力で矢自体を作り出している素振りもないし、どうやって?」



深呼吸をし、視野を広げて見てみる。すると、あることに気づいた。


「竜が、矢を…!」


さくら達が圧されているタイミングを見計らって、竜が地面に突き刺さる矢を回収していたのだ。


それはエルフの子達の足元に落とされ、彼らは隙を見て拾い、再利用していた。なんという抜群のチームワーク。だが、さくらはそこに一つの勝機を見出した。


「これを利用すれば一気に勝てるかも…!メスト先輩、クラウスくん、ちょっと思いついたことが…」




「なんだ?急に動きを変えた?」


エルフの代表達は面と向かっている学園代表が急に動き出したことに警戒を強める。火を大きく迂回しながらじりじりと距離を詰めてきた。


「やっぱり動きを制限するのは効果的ってことか。もっと火を追加してみる?」


「そうしよう。『炎の矢』!」


さくら達の周囲には続々と火矢が撃ち込まれ、迂闊に近寄れなくなる。さらに移動を繰り返すたびにすぐさま燃やされる。それを確認して、メストは微笑んだ。


「良かった、上手く乗ってきてくれたみたい。さくらさん大丈夫?中位精霊の使役は結構魔力使うけど、もちそう?」


「まだこれくらいなら大丈夫です。でも早めに動いて欲しい…」




副隊長妹は訝しんでいた。


「さくらさんが仕掛けてこない…?」


頭に浮かんだのは、お姉ちゃんから聞いた彼女の活躍ぶり。精霊術もさることながら、手持ちの武器で魔獣をいとも簡単に追い払ったと聞いている。逆にいえば、あの武器で何かをしてこない限り脅威度は低いということ。そんな彼女が精霊を出さず、他2人の代表に守られるように動いている。何か大技の準備でもしているのだろうか。



「早めに仕留めさせてもらいます。『曲の矢』!」


さくらにめがけて秘蔵の一矢が放たれる。クラウスが防御に動いたが、クイッとすり抜けてしまう。


「しまった…」


そのまま後ろにいたさくらにあわや当たる―!


キンッ!


「二度は通用しないよ!」


メストがすんでのところで弾き、難を逃れることができた。


「危なかった…。ありがとうございます」


「お安い御用さ。…そろそろだね。準備はいいかい?」


「はい!」




「そろそろ矢が減ってきたよ」


「みんな、お願い」


指示を聞き、竜達は矢の回収に向かう。既に学園代表がいなくなった地に刺さる矢を引っこ抜き、一本拾っては主人の足元に落としを繰り返す。エルフ達は牽制を行いながら、それを拾った。


「これ火がまだついているな」


「…? あれ、消せない…」


火矢の先についている火の魔術を消そうとするが、上手くいかない。それを見て、メストが号令をかけた。


「今ださくらさん!」


「精霊達、姿を現して!」


離れた位置にいるさくらの声はエルフ達には届かない。だが、代わりにメラメラと燃える火が蠢き形を成した。


ズッ…


「―!火の精霊!?」


副隊長妹が叫んだ時には時すでに遅く、精霊達は一斉にエルフの代表達それぞれのゼッケンに張り付いた。


そう。矢が燃えていたのは火の魔術のせいではなく、さくらが呼び出した精霊によるもの。移動を開始する直前、さくらは気づかれぬように火の中に精霊達を這わせ、矢に潜んでもらっていたのだ。



「ど、どうしよう!」


「竜は…しまった、矢の回収に!」


自身に矢を向けることはできず、竜は遠くに。そもそも懐に竜を潜らせ攻撃させたら自分にダメージが入る。対応が思いつかないうちに精霊はカッと輝き―。



ボンッ! ボンッ! ボンッ!



「きゅう…」


それぞれ倒れるエルフの3人。竜達は慌ててご主人達の元に戻り安否を確認するが、全員目を回し、ゼッケンも外れていた。



「勝った…勝てた…!」


獣人達の力を借りず、自らの力と作戦で勝ち取った勝利。思わずガッツポーズをとってしまうさくらだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る