107話 代表戦⑥

「さくらさん、ここで討たせてもらいます!」


キリキリと矢を番える副隊長の妹と他2人。お供の小型竜達も空を飛び威嚇をしてきた。控室での様子はどこへやら、闘士に相応しい目をしていた。


「3人共弓使いか…」


クラウスは少し苦い顔をする。流石に遠距離相手は分が悪いのだろう。


「この距離じゃ向こうが有利だ。近づこう」


精霊や魔術を飛ばし、飛んでくる矢に当たらぬよう注意を払いながら距離を詰めていく。相手も逃げるが、ここは闘技場。森のような入り組んだ場所ではないため、見失うことはない。



ある程度近づいたところでエルフ代表達は詠唱をし始めた。


「『煙の矢』!」


ボムッ!


「また煙幕…!」


ドワーフに続き、エルフも使ってくるとは。とはいえこちらが煙の中にいるということは相手も見えないということ。それは弓使いには大きなデメリット。場所を特定されないよう、先程いた位置からすぐに離れる。


と、謎の声が聞こえる。

「クオオオオオル!」


「なに!?」


驚いたさくらがを見ると、ボッと煙に穴を開け外に出ていく竜の姿。どうやら声の主は彼らしい。


「やっぱりそうくるか、二人とも危ない!」


メストはさくら達を抱きかかえるように守りながら最低限の茨ドームを作る。その瞬間。


ストトトト!


さくら達の位置に寸分の狂いなく矢が打ち込まれてきた。


「な、なんで!?」


「これがエルフの竜使役弓術の怖いところだよ。小型竜が観測手として合図することで鬱蒼とした茂みのなかだろうがこんな煙の中だろうが正確に撃てるんだ」


つまり、この状況はこちら側の圧倒的な不利ということらしい。これが副隊長が言っていた小型竜を使ったテクニックか。少し冷や汗をかいてしまうさくらだった。




「やったか…!?」


副隊長妹は空を飛んでいる竜を見る。その反応は―。


「…ううん、まだ!」


ボッ!


煙の中を突っ切るように、さくら達は出てくる。


「来た!」


警戒を怠っていなかったエルフ達は即座に迎撃してきた。


「「「『幻の矢』!」」」」


合わせて3本放たれた矢が数十本に分身する。


「危ない!」


クラウスは迫ってくる矢に驚き大きく避けるが、メストとさくらはそのまま突っ込んだ。


「なっ…!」


さくら達の体に当たるはずの矢は、ぶつかると跡形もなくスッと消えた。


「えっ!バレてる!」


「撤退!」


本当ならばそれで怯んでいる間に距離を取ろうとしたのだろう。急いで逃げるエルフ達をそのまま追いかけながら、メストは不思議そうに質問してきた。


「さくらさんこの技知ってたのかい?『幻の矢』はただの幻影だって」


「エルフの国で副隊長さん達が見せてくれたんです。…正直ちょっと怖かったんですけど、メスト先輩が飛び込んでいったから思わず」


「勇気あるね…」



そんな時だった。


「クオオオ!」

と、副隊長妹が使役している竜が一声鳴く。それと同時にクラウスの声が響いた。


「『地裂』!」


ドドドドドッ!


1人だけ離れていた彼がエルフ達の死角に回り込んでいたのだ。竜の警告でいち早く気づいた副隊長妹はすぐさま回避するが、反応が遅れた残り2人は巻き込まれ、転んでしまう。



「上手いよクラウスくん!」


その隙を逃さずメストとさくらは肉薄する。


「ウルルル!」

「グルウウ!」


そこに降りてきたのは主人を守ろうとする御供竜達。さくらは上手く捌けず足を止められてしまったが、メストはそれを切り抜けた。


「『曲の矢』!」


副隊長妹の声が響き、魔術を纏った矢が風を斬る。メストはそれを弾こうと武器を向けるが―。


ぐんっ!


まるで生き物のように、矢が曲がったのだ。


「しまった…!」


メストは反射的にゼッケンを腕で守る。矢は見事に突き刺さった。


「っ…!」


痛みと驚きで態勢を崩した彼女の元に竜が飛び掛かってくる。その間に転んだ2人は立ち上がり離れていった。




さくらと合流したメストは矢を引き抜く。そこからは血がツーッと垂れてきた。


「大丈夫ですか!?」


「心配いらないさ。模擬矢だからそこまで深く刺さっていないよ。クラウスくんと合流しよう」


さくらが頷き離れた位置にいるクラウスの方を向くと…。


「うっ…」


突如、彼は膝をついていた。


「魔力を使い過ぎて眩暈が…」


そんな絶好の機会、相手が見逃すわけなかった。


「行って!」


「クエエウ!」


指示を聞き副隊長妹の竜が一直線に突っ込む。クラウスも力を振り絞って応戦しようとするが、間に合わない。あわややられる…!



そんな時だった。


ビュウッ!


何者かが空中から接近。迫る竜を蹴り飛ばした。


「ギャウ!」


竜は痛そうな声を出しながら一目散に主のもとに帰っていった。


「誰だ…?」


ようやく眩暈が収まったクラウスはふらつきながらも立ち上がり、目の前に着地した相手にそう問う。その人物は腕から翼を生やした獣人族の一種、「鳥人」の男の子だった。


「ドワーフ達を倒してくれて感謝するよ。あいつらの粘着弾、邪魔で仕方なかったんだ。これはお礼代わりだ」


それに少し遅れながら、獣人がもう一人到着する。


「おい、なにしてんだ!折角学園の戦力を減らせるチャンスだったろう!こっちは1人やられてるんだぞ!」


「いいだろ別に。こいつらがドワーフを倒してくれていなかったら俺達全滅していたんだ。ま、というわけだ。俺達も交らせてもらうぜ。ここから先は敵味方なんてないからな、次に隙を見せたら狩るぞ」


そう言い放ち、彼らは交戦しているさくら達の元へと乱入していく。クラウスも急いでその渦中へと入っていった。

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