106話 代表戦⑤

ドワーフの子達が打ち出してくる魔術をどうにか弾きながら、さくら達は身を寄せ合い策を練る。


相手の魔力切れを待つのも一つの手。実際、火炎放射器を使っていた子は限界突破機構を使用したことにより息切れをしている。


だが、学園代表がこうも身動きとれなくなっているのが他の代表者に気づかれたら間違いなく総攻撃を食らうだろう。それまでになんとかしなければならないのだ。悠長なことは言ってられない。


「メスト先輩が空を飛んで、とかはどうです?」


「そうしたいのは山々なんだけど、どうやら対策されているみたい」


見ると、彼らはこちらへの攻撃の合間に武器からシャボン玉のようなものを撃ちだしている。試しにさくらが精霊を近づけてみると、吸いついてきた。


ペトリ。ネトッ。


「あっ!ネバネバに…!」


もがく精霊を慌てて帰らせる。トリモチ的なものらしく、そんなところで翼を広げようものなら絡めとられるのは目に見えていた。




こんなとき、映画や漫画では罠をどう見つけていただろう。さくらは過去の、元の世界の記憶を辿る。


「誰かを犠牲にする…?」


一番簡単に思いついたのは、そんな非人道的な方法。その呟きを聞いたクラウスが顔をしかめる。


「おい、まさか…」


「いやそんなことしないよ!? でも…」


でも、今さくらは精霊術が使える。少々胸は痛むが…


「ごめんね。精霊達、力を貸して!」


呼び出された精霊達を近場の罠に触れさせ、発動させていく。軽いと発動しない罠は中位精霊を呼び出し、力をかけてもらう。彼らは嫌がることなく、嬉々として指示を聞いてくれた。


ガシャン!

バチン!

ボゴン!


次々と起動していく罠は様々。虎ばさみ、草結び、捕縛魔術、巻き付く縄に落とし穴。中には何故かクイズが仕掛けられているものも。間違いなくあのお騒がせドワーフ卒業生、ロニ・トーニルの入れ知恵ということは一目でわかった。だが…。


「全然減らない…」

よくもまあこんなにしかけたものだ。足元に多少の余裕は出来たが、未だ狙われ放題の状況は変わっていない。


「俺も…!」

クラウスも『地裂』を発動させ、地面を隆起させる。直線状にあったスイッチは壊れ、更に幾つかの罠は無効化されていった。


「おっ!」


かなりの効果あり。俄かに喜ぶさくらだったが―。


シュルルルルル…ポコッ


間髪いれずドワーフ達の方から地を這う魔術。また同じようにスイッチが形成された。


「駄目か…」




と、攻撃をいなしつつ様子を見ていたメストが口を開いた。


「きっと彼らは罠自体を即座に生成することはできないんだ。もしそれができるなら、直接仕掛けてくるチャンスはいくらでもあった。恐らく今使っているのは隠蔽魔術と起動するための魔術、ならあのシャボン玉と今ある地面の罠をなんとかできれば勝機はある」


彼女の言う通り、展開した罠はそのまま。直ることなくとっ散らかっている。また、クラウスが壊した罠の地点も新しく作られることなく放置されていた。


「でもどうやって…?」


「ちょっと思いついたことがあるんだ。上手くいくかはわからないけど、試してみていい?」




「水精霊!」


さくらは中位精霊を呼び出す。メスト自身も同じく召喚し、自分の周囲に纏わせる。彼女は先程スキュルビィ代表がやってきたような水の膜に包まれた。


「よし、クラウスくん。お願い」


「行きます!『地裂』!」


ボゴゴゴゴゴッ!


地面が隆起し始め、一直線にドワーフの元に進む。そしてメストは―。


「はっ!」


なんとその隆起の上に飛び乗り、走り始めた。確かにそこは罠の起動魔術が壊された安全な一本道。新しく起動魔術が飛んでくる時間も与えない。



「嘘でしょ!?」

予想外の行動をとられ、慌てるドワーフの2人。泡ついている間にメストは罠地帯を抜け目の前まで接近してきた。


「くっ…!」


ポポポポポとさらに粘着シャボン玉を出すが、それらは水の障壁に全て飲み込まれる。


「火を…!」


もう一人は急いでメイスを起動させ火焔石を出す。しかし魔力は少ないらしくそこまで大きな火は出ない。そんな火も水精霊によって消火されてしまった。


「もらったよ!」


ドッ!ドッ!


面食らっている中まともに対応できるわけもなく、彼らはメストの手によってあっという間に屠られてしまった。


それと同時に隠蔽魔術が解け、全ての罠の位置が明らかになった。これで安全に抜け出すことができる。


「流石メスト先輩!」


喜ぶさくらの横でクラウスが大きく息をついた。


「どうしたの?」


「ちょっと魔力を使い過ぎた…。『地裂』は結構負担が大きいんだ…。てか、なんでお前はそんなに精霊をほいほい呼び出して魔力尽きないんだよ。限界突破なんちゃらも使っただろ」


「私、保持できる魔力量が人より多いんだって」


「羨ましいな…」



罠を踏まないように気を付けながらメストに合流する。すると彼女はそのまま警戒態勢に入った。


「休憩したいとこだけど、もうお次が来たみたいだ。気をつけて」


ヒュッ!


風切り音を立てながら飛んでくる矢をメストは弾く。こちらを狙っていたのはエルフの代表達だった。

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