103話 代表戦②
「まさか破ってくる子がいるなんて…僕も精進が足りないな」
無残にも穴が空けられた茨のドームを見て、メストは自分に活を入れ直す。とはいえ剛力を誇るはずのオーガ族の攻撃を防ぎ、他の箇所には傷すらついていない彼女の魔術。竜崎のお墨付きは伊達ではない。
「『限界突破機構』、あの様子だと一長一短だな。他にも持っている奴がいるのか?」
クラウスはそう聞いてくるが、残念ながらわからない。さくらは首を横に振る。
「あぁ、負けた負けた!」
「なあ、学園の。この後どうする気だ?」
むっくりと体を起こしたのはオーガ族。その顔には復讐心や絶望感などなく、さっぱりしている。むしろ学園代表達の行く先を心配してくれるほどだった。
「外の連中、壊すのは諦めたみたいだがずっとお前達を狙っているぞ?」
忠告された通り、外には幾つもの代表チーム達。ただでさえ脅威な相手なのに、全員オーガのチームをいとも簡単に倒したことで一層警戒が増したのだろう。出てきた瞬間倒せるように武器を構え続けていた。
「大丈夫です。作戦はあるんです」
さくらの自信満々な言葉に、彼らは首を傾げた。
茨の中からオグノトス代表達が出ていく。ゼッケンが既にないことをアピールするように両手を挙げながら、さくらの攻撃によって未だ目を回しているもう一人の代表をわっせわっせと運び安全な場所まで移動していった。
それを確認したメストは再度号令を出す。
「少し予定が狂っちゃったけど、計画通りにいこう。2人共準備は良い?」
「「はい!」」
「なんだ?中で何かしているぞ?」
代表の1人が異変に気づく。茨のせいで上手く見えないが、学園代表達が何かを詠唱しているらしい。その言葉で緊張は波及していった。
「ジョージ先生参考、『針鼠』!」
詠唱が終わったクラウスは、魔術が付与された剣を何度も突き出す。すると、一度行う度に槍先のような形の斬撃が空中に残り始めた。さくら達を囲うように設置されたそれが動き出すのを抑えるように、彼は剣に力を籠め待機する。
「よし。さくらさん、お願い」
「はい!『我、汝を解放せん―!』」
メストの合図で、さくらは封印解除呪文を詠唱。ラケットの持ち手上についていた限界突破機構がそれに応えカシャンと開く。そこに手を触れ、魔力を注ぎ込む。
立体魔法陣が起動し、バチバチと音を立て始める。やり過ぎないよう慎重に…。
「…風魔術、準備出来ました!」
「それじゃ、3人それぞれの『奥の手』合わせ技、初披露といこう!」
「出てくるぞ!」
幾重にも絡み合った茨がまた一つ、また一つと崩れるように消えていき、薔薇の花だけが地面に落ちていく。周囲で待機していた他代表達は仕掛ける覚悟を決めた。
そして、最後残った薄い壁が砕け散ると同時に…
「「『青薔薇の舞』!」」
さくらとクラウスの声が響く。その直後。
ゴウッ!!
突風と共に細かな茨と、槍の様な斬撃が彼らを襲った。
「なんで寝坊するんですかナディさん!さくらさんの晴れ舞台だというのに!」
「ごめんなさい!でもタマちゃんも一緒に寝てたじゃないですかぁ!」
「うっ…そうですけど…。ナディさんが寝ぼけて布団に引き込むから…!」
教師寮からコロッセオへの道を駆ける巨大な白い猫。そしてその背には眼鏡の女性。タマとナディである。
竜崎からナディの目覚ましを託されたタマだったのだが、ミイラ取りがミイラになってしまい気づけば試合開始時刻。2人揃って慌てて向かっているという訳である。
コロッセオの前に着き、小さくなったタマを抱きかかえ入場するナディ。階段を駆け上がり、息せき切りながら観客席に顔を出した瞬間だった。
ゴウッ!!
「わっ!」
突如強風が唸る音。流れ弾対策に張られた障壁に遮られ、ビシビシと音が鳴る。反射的に目を瞑った彼女が目を開くと―。
「わぁ…すごい…!」
青い薔薇の花びらが闘技場全体に舞い踊っていた。
メストの魔術が消える前に、さくらが突風を引き起こし茨と花を巻き上げて相手にぶつける。棘は攻撃することしか考えていなかった他代表達の体や顔にものの見事に刺さりまくり、細かな傷をつけていく。
「いたたたっ!」
「う、動けない…!」
花によって視界も奪われ、思わず怯んだ彼らの胸元にはクラウスが作り出した槍状の斬撃がクリティカルヒットしていった。
「ぐわぁ!」
「きゃうっ!」
「がふっ…」
次々と倒れていく代表者達。中にはなんとか凌いだ者もいたが…。
「隙あり!」
さくら達はそれを見逃さず次々と仕留めていった。
あっという間に学園代表を取り囲んでいた他チームは全滅。その見事な手際に観客席からは万雷の拍手が送られた。
だが、彼女達は気を抜かない。
「さくらさん、クラウスくん。魔力大丈夫?」
「まだ元気いっぱいです!」
「問題ありません!」
2人の答えを聞き、メストは離れたところで闘う他チームに標的を定めた。
「よし、攻撃に転じよう!まずはあそこのチームからだ!」
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