102話 代表戦①
「ネリーよ。其方、代表戦を見にくるのは始めてか?」
あわあわするネリーに対して、エルフの女王はそう聞いてくる。
「は、はい。あれって…」
「毎年の風物詩よ。学園の代表は手強い。だからこそ初手で潰しに動く国が多いのだ。それをいかに捌けるかが肝だが…さて、彼らはどう動くかな?」
我こそが首をとらんと襲い来る代表達を見て、さくらとクラウスは溜息をつく。
「やっぱり竜崎さんやジョージ先生から聞いていた通りなんだ…」
「騎士道精神もへったくれもないやつらめ」
「まあまあ、それだけ脅威と見られているってことさ。さて、作戦通りにいくよ」
メストの号令に合わせ、守るように武器を構える2人。それを確認し、彼女は詠唱を始めた。
「なにかしてくるぞ!」
気づいた誰かが魔術を撃ちこんでくるが、さくらはそれを叩き落とす。
「メスト先輩、どうですか?」
「~~~~。…うん、出来たよ。距離は…よし、『青き薔薇よ、我らを守れ!』」
彼女の言葉を合図に、3人から少しだけ離れた地点に幾つもの魔法陣が展開しはじめた。
「なんだ!?」
思わず足を止める他代表チーム。そこから伸びてきたのは、メストが捕縛魔術として使っている青い薔薇を付けた茨。
シュルシュルシュルシュル…ミキバキミキ…
それも一本や二本ではない。何重にも重なり、侵入者を拒む壁のように広がった茨はそのままさくら達を包み込み半円状のドーム型となった。
「なんだこれ!」
他のチームは茨ドームを壊そうと魔術を撃ち、矢を放ち、剣で切りかかるが、びくともしない。
「くそっ!これ堅いぞ!」
「どいて!植物なら火が効くはず!」
1人の子が火の魔術を詠唱。ふっかけてくるが…。
「えぇっ!なんで!?」
火が消えた後も変わらず健在、焦げ1つない。魔力によって作り出された代物なので、燃えはしないのだ。
「すごい…!この程度の攻撃だったら通さないんですね」
茨の隙間から見える相手を見ながら、さくらはそう呟く。眠れる森の美女のような気分だ。呪いではなく、自発的に行ったわけだが。
「これがメスト先輩の『奥の手』の一つ…流石です!」
クラウスもその腕に惚れ惚れしている。彼女はほっと溜息をついた。
「良かった上手くいって」
なんとか攻略しようと躍起になる代表選手達だったが、そこに威勢の良い声が飛んできた。
「おいおいおい、それは俺達の獲物だ!」
試合中にも関わらず悠然と近づいてきたのは『オーガの里 オグノトス』の代表3人。思わず何名かが武器を向けるが、彼らは気にも留めない。
「どうする?かなり手強そうだけど」
「とりあえず力試しといこうぜ」
そう仲間同士で会話を交わし、さくらと握手を交わしたオーガが代表して自身の武器である大剣を振り上げる。そして、力任せに振り下ろした。
「うぉりゃああ!」
バキキッ!
表面が少し折れたが、堅牢なる茨壁は穴すら開かない。オーガ族の剛力でも壊せないのかと、代表選手の中には少し絶望した顔を浮かべる子もいた。
「こりゃ堅えな、壊しがいがある。少し早いけど、あれ使っていいか?」
仲間に許可をとり、彼は甲冑の篭手のようなものをつける。その手のひら部分には謎の機構。さくらはそれを見て思わず声を出す。
「あれってやっぱり、『限界突破機構』!」
「いくぜ…!」
手の上に小さな魔法陣が浮かび上がり、バチバチと輝く。明らかに危険だと察し、近くにいた他チームは思わず距離をとった。
「おい!俺を無視するな!」
と、どこかの国の代表が走ってくる。どうやら先程までオグノトス代表達と戦っていた子らしい。仲間が止める声を聞かず、1人で手甲持ちに攻撃を仕掛けた。
「邪魔すんじゃねえよ」
ガキィン!
剣と手甲がぶつかる音が響く。そのままオーガ族の子は力いっぱい武器を弾き、相手は思わず態勢を崩してしまった。
「丁度いい、この力見せてやる。食らえ!」
浮かび上がる立体魔法陣を握るように拳を固め、彼は勢いよく殴りつけた。
ボッ!
「ぐああっ!」
正拳突きが的確に入り、相手はそのまま大きく吹っ飛ばされる。ズシャッと地面に投げ出された際には、ゼッケンが外れていた。
「強い…」
思わずざわつく代表選手達と観客席。だが、相応の代償はあるらしく、オーガ族の子は肩で息をしていた。
「ハア…ハア…やっぱりこれ、魔力をとんでもなく持ってかれるな…」
「おい、悪いけど力尽きる前にこれを壊してくれ」
「わかってるよ。ハアアア…!」
再度、機構を起動する。気合と魔力を溜め、茨に向け彼は勢いよくラッシュを敢行した。
「オラァ!オラァ!オラオラオラオラオラオラァ!」
バキキ…ビキキッ…!ボコォ!
次第に茨は千切れ飛び、ようやく人が通れるほどの大穴が空いた。
「まじかよ…こんだけ殴ってようやくかよ…」
手甲持ちはその場に膝をついてしまう。かなりの魔力を消費したようだ。
「少し休んどけ。あとは任せろ!」
ダッと穴をくぐる残り2人のオーガ。中にいたさくら達に向け、武器を振るう。
「学園代表!そのゼッケン、貰ったぁ!」
ドッ!
武器が肉体に当たる音が響く。が…。
「ぐぁ…!」
「まじかよ…」
ゼッケンが剥がれ落ちたのは、オーガ達のほうだった。
「力任せの攻撃だけでは僕達に勝てないよ」
「ジョージ先生の太刀筋に比べたらこんなもの…!」
メストとクラウスが相手の攻撃を躱し、渾身の一刀を叩きこんでいたのだ。キン、と武器を収める音と同時に、オーガの2人は倒れこんだ。
「あの馬鹿共、何負けてやがる…」
座り込んでいたオーガはふらふらと立ち上がる。その時だった。
ビュンッ!
「なっ…!」
そこに飛んできたのは、さくらが打ち出した魔力テニスボール。避ける間もなく顔面に当たり、悶える彼の胸元に中位精霊が忍び込み―。
「やっちゃって!」
「―!」
ドンッ!
爆発が起き、オーガ族の子は後ろ向きに倒れる。その場にはひらひらとゼッケンが舞った。
「ほう、そうきたか。今年の子達は強いな。特にメスト・アレハルオと言ったか?かなりの腕を持っているな」
エルフの女王の称賛に、ネリーが鼻を高くする。
「自慢の先輩なんです!さくらちゃんと同じくリュウザキ先生の教え子でもあるんですよ!」
そんな彼女を女王は膝の上に乗せ、孫のように撫でる。
「そうだったか、なら強いのは当然だな。だが、未だ囲まれたまま。其方の友人達はこの後どう動くと思う?オーガの子らが開けた穴からのこのこと入ってくるは奴はおらんだろう。逆に彼らがそこから脱出しようとすれば、集中攻撃を受ける。見ものだぞ」
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