―閑話―
82話 獣人魔族のお手入れ事情
イヴ達とのティータイムの後、さくらはネリー達と合流していた。
先程教師陣からは「化粧しなくていい」と言われたが、さくらも乙女。ほんとにそれでいいのかと考えていたのだ。合ったついでに彼女達にその話を振ってみると。
「えー、お化粧? 私はいいや!」
「私も。特にする意味がないし」
ネリーとモカからはばっさりと切り捨てられた。まあ種族違うし…と残った1人、他2名の面倒見役で少し大人びた印象のアイナに聞くもー。
「ごめんね、私もあまり…」
この有様である。確かに彼女達は可愛いし、肌つやもいいけど…。
ブツブツ言っているさくらを置いといて、モカが手をあげる。
「そうだ、私ケア用品買い足したかったんだ」
「ケア用品?」
「そう、獣人とか魔族って毛や翼が生えてるでしょ。それのお手入れに使う道具」
アイナに説明を受けながら、一行が向かったのはとあるお店、雑貨屋兼化粧品店のような出で立ちをしていた。どこか元の世界のドラッグストアを思い出す。
「ここのは安いから生徒がよく利用してるの。…ネリー、それは後でね」
店先に並んだお菓子に目を奪われていた彼女はモカのかけ声で慌ててついてきた。
店内には当然の如く様々な種族の客がいるが、特に多いのは獣人、魔族。モカを先頭に進んでいく。
「何買いに来たの?」
「んーと、まずブラシかな。今使っているの、先が駄目になっちゃって」
ついたコーナーにはブラシが沢山。いや本当に沢山。ヘアブラシは当然のことながら、ペットに使うようなブラシが多い。形大きさ様々な種類が並べられており、商品POPは「ごっそりとれる」や「全身のマッサージに!」など、およそ髪用とは思えない。そのほとんどが獣人用のブラシのようだ。
「これと…これ」
モカが手にしたのは尻尾用と獣耳用のブラシ。
「私はまだ耳と尻尾だけだからいいんだけど、全身に毛が生えている純粋獣人種はお手入れがすごく大変なんだって」
続いて向かったのは石鹸コーナー。ここもまた種類が豊富。モカによると、人によっては独特の獣臭がするため、獣人達は特に気を遣っているらしい。
「獣人って大変だよ」
彼女はそう小さくため息をついた。
「そういえばネリーちゃん、この間翼用のクリーム切れたって」
アイナの言葉に、なんとはなしにそこらのものを持ち上げ裏を見ていたネリーはハッとなる。
「あ、忘れてた!ありがとうアイナ!」
「翼ってお手入れいるんだ」
「いるよー。鳥人のふわふわな羽と違って、魔族の翼は敏感な皮膚みたいなものだから。服に入れてくとムレるし、外に出しておくと乾いちゃうから、体と同じく毎日綺麗にして、保湿クリーム塗っておかないとすぐにボロボロになっちゃう!」
メスト先輩の大きな翼もそうする必要があるのだろうか。少し大変そうだな、と思うさくら。この間気軽に翼が欲しいと言ったが、それを考えると少し敬遠してしまう。やっぱり浮遊魔術を覚えるか、あの箒を乗りこなすか…。いや無理そう…。
「おねーさんお会計お願いしまーす!」
翼用のクリームと、先程目をつけていたお菓子を手に、お会計に向かうネリー。
「はいはーい。学園の生徒さんね、学生証は?」
「ありまーす!」
「どれどれ、はいオッケー。学割効かせとくわね」
学割まであるのか。さっきモカが『この店はよく生徒が利用する』と言っていた理由がわかった。自分も化粧水ぐらい買っておこうかなと振り向くと。
「あれ、モカちゃんは?」
「あ、ほんとだいない」
いつの間にかふらりと消えている。と思いきやすぐに戻ってきた。
「買い忘れあった」
「何?」
つい聞いてしまう。彼女は普通に答えた。
「発情期を抑える薬」
「えっ!」
「獣人って獣と人間の合成種族だから、獣同様あるんだよ。生理の代わり」
「そ、そうなの…」
知らなかった。なら、いつかモカがちょっとエッチになっている姿が見れるのだろうか。そう妄想したさくらは慌てて頭を振る。なんだ私、おっさんみたいじゃないか。
店を出ると、モカは帽子をとり、早速買ったブラシを耳に当ててみる。
「うん、これは気持ちいい」
こしこしと獣耳を擦りながら彼女は頬を綻ばせる。さくらはそれを見て、そういえばと兼ねてからの疑問をぶつける。
「そういえばモカちゃんってなんでいつも帽子を被っているの?他の獣人の人達は普通に出してるけど」
「獣人としての能力で耳が良いから、それを抑えているのもあるんだけど…」
そう説明する彼女の頭にすうっとネリーの手が伸びる。そして耳裏をさわさわと撫でた。
「んっ…だしっぱだと、こんな風にネリーに弄られちゃうんだ。あっ くぅん…!」
色っぽい声を出すモカ。ぷるぷると体も少し震えている。
「ネリー、モカがくすぐたがっているからやめなさいよー」
流石に見てられなくなったのか、アイナが忠告する。
「え?あ、いつの間に手が!」
まさかの完全無意識らしい。見ると、アイナも撫でたいのか必死に自分の手を押さえつけている。
確かにさくらも触りたくなってきた。モカが帽子を再度被るまで欲望に囚われる3人だった。
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