31話 とある村②

メストとさくらは観光がてら調査にでていた。竜崎は別用があるらしくどこかに行ってしまったため、さくらの護衛はメストだけとなる。


「さくらさん、僕から離れないで」


万が一を考え、さくらの肩を引き寄せ自身に密着させるメスト。少女漫画の王子か騎士のような対応に少しドキドキしてしまった。


祭りの開催まで残り数時間となっており、ほとんどの屋台の設営は終わっていた。最後の詰めとばかりに精霊に捧げる歌や踊りを一生懸命練習している子供達の姿はなんとも微笑ましい。この村にも当然の如くある機動鎧も、ガシャンガシャンと一か所に集められていた。何かするらしい。





例の儀式台に近寄ってみる。薪が積まれていることと、ウルディーネの鱗が大きめの平杯の中に安置されていること以外には変なところはないように思えた。


だが、メストは目敏く何かにきづいたようだ。


「あの杯、やけに汚れてる…」


さくらも目を凝らしてみてみると、確かに黒ずんでいる。


近づいて見てみると、赤黒い染みがところどころにこびりついている。これはまるで―

「「血の跡…!」」




「ちょっと!嬢ちゃんたち!そこでなにしてるんだ!」


と、叱りつけるように村人が駆けてくる。2人は急いで後ろに下がった。



「なんだい?見ない顔だな。いや、そっちの魔族の嬢ちゃんは見たことある気が…」


「すみません、僕達は旅人です。本日この村に宿泊させていただいております」


「そうか。これには近づいちゃいけねえよ」

その言葉で思い出すのを諦め、鱗を体で隠すように立ちはだかる村人。メストは一応探りを入れる。


「これってなんですか?」


「それは…秘密だ秘密!さあとっとと散った」


けんもほろろに追い払われる。だが、やはり何かあることが確信できた。



さくら達は今度は住宅が軒を連ねる裏通りに入る。家の前で遊ぶ子供達はお祭りで何を食べようか、親の目を盗んで機動鎧に乗ってみようかと楽し気に話し合っている。


「メスト先輩、なんか家おかしくありません?」


物珍しさから忙しなく視点を動かしていたさくらがあることに気づく。全て家の天井が焼け焦げている。中には修復した跡がある家もあれば、穴が空きっぱの家も。


「本当だ、よく気づいたね。これも先生に報告しよう」


新たな情報を掴んだ彼女達が宿へ踵を返す際、ふと、祭り会場を眺める暗い表情の青年と出会う。メストやベルンと同じぐらいの年のようだが、目に光がなかった。そんな彼にメストは快活に話しかけた。


「やあ、この村の子かい?体調でも悪いのかな?」


聞きなれぬ声にビクッと体を震わす青年。

「いえ…。旅の方ですか? お気になさらず…」


その声にも生気がない。少し不気味に感じたさくらは無意識的にメストの服を引っ張り、その場を去ろうとする。


だがメストは思うところがあるらしく、優しい声を崩さぬまま話しかけ続ける。


「不安なことがあったら相談してみて。これでも僕、色んな子の相談に乗っているんだ」


青年は口を開きかけるが、かぶりを振り逃げ去ってしまう。


「あっ!待って!」

メストも追いかけるが地元の土地勘には敵わず、すぐに見失ってしまった。


置き去りにされまいと頑張ってついてきたさくらは意識の外なのか、メストは彼が消えた道先を見つめながらポツリと呟く。


「あの目…。昔の僕に似ている…!」




一方の竜崎、彼は領主の家を訪ねていた。が息子ベルンに玄関で追い返されていた。


「申し訳ございません、リュウザキ様。父上は先程急に体調を崩しまして。お引き取りください」


「そうか、それは仕方ないな。領主殿にお伝えください。この竜崎、いつでもご相談に乗りますと」


半ば追い出すように扉が閉じられ、竜崎は後にする。


「どう思うニアロン」


空中に語り掛けるような素振りの竜崎。すると今まで隠れていたニアロンがするりと現れた。


―間違いないな。あのベルンとやら、


「やっぱりか。村全体の雰囲気といい、嫌な予感は的中だな」



そんな会話を交わす彼らの様子を遠巻きに見ている姿があった。


―清人、右後方―


「わかってる、村の女の子だな。気づかないフリで通そう」


竜崎はそのまま、宿へ。謎の女の子は、「あの方なら…」と呟きどこかへと消えていった。






竜崎達3人は宿に戻ると顔を突き合わせ情報共有をすることに。メスト側は儀式台、住宅の屋根、思いつめた青年の話を。竜崎はおかしな様子の領主息子について。


「おかみさんの様子から、おそらく何かが起きるとしたら祭りが終わった後だろう。閉幕後宿に戻り待機。寝たふりで監視を誤魔化し、隙をついて行動を開始する。私達の存在が抑止力になりそうだし、祭りには参加しよう」


「「はい!」」


それまでは休憩時間。さくらは部屋に戻りベッドに身を投げ出す。だがこの街でなにが起こるのか、不安で心が休まらなかった。





夜も更け、祭りの開催を知らせる花火があがる。それを合図に3人は広場に繰り出した。


近隣の村からも参加客が来ているらしく、意外と村内は混んでいた。櫓からは小気味のいい祭囃子が聞こえてくる。さくらは否応にも無く楽しい気分になってきた。


広場中央部では村の少年少女たちの歌や踊りなど様々な演目が開かれている。


「あっ、あのロボットが」


と、機動鎧を使った演目が始まる。一機が水が入った巨大な甕を持ち上げ、他の機体がその周囲を回りながら踊り始める。それが終わると、甕を持った機動鎧は集まった人に近づく。もう一体の機動鎧が柄杓を持ち、人々が差し出した手に水を分けていく。どうやらそれが一連の儀式らしい。受け取った人達は有難そうに水を飲んでいた。水の精霊を敬う祭りなだけある。


「さくらさんこれ美味しいよ」


いつの間にか屋台から何かを買ってきた竜崎は、メストとさくらにそれを渡す。見た目は草餅だったが、一口食べると口の中で甘い水が湧きだした。


「~! なんですかこれ!」


その疑問にはメストが答えてくれた。

「万水の地近隣の特産、『万水草』を使ったお饅頭さ。僕の家でも育てているよ」



その後も屋台飯やくじ引きなどを堪能するさくら達。下手すれば任務を忘れてしまいそうだった。


「この世界って綿あめありますか?」


「確かあっちの屋台にあったよ」


足取り軽やかに歩く3人、とそこに女の子がぶつかってくる。


「おっと、大丈夫?怪我はない?」


竜崎に支えられた女の子は自ら地面に膝をつき、竜崎を拝むように嘆願した。


「リュウザキ様!お願いします!あの子を…私の友達を助けてください!」

泣きそうな勢いで必死に頼み込む女の子。事情を聞こうとする竜崎だったが―


「先生…」


「竜崎さん…!」


その時には既に村の荒くれものや力自慢な連中に取り囲まれていた。さくらを庇ったメストにはナイフや剣が幾つも突きつけられている。


女の子はその内数名に連れていかれる。彼女は必死で抵抗するが、勝てずに連れ去られてしまった。それを隠すように数機の機動鎧が更に立ちはだかった。


「意外と良い動きをするもんだね」

予想以上に統率がとれた動きに感心する竜崎。メストはレイピアに手をかける。が、それを竜崎は目で静止した。


「申し訳ございません、リュウザキ様」

人をかき分け出てきたのはベルン。ニヤニヤと笑っていた。


「明日には解放させていただきます。それまではどうか牢でお休みを」




3人が連れてこられたのは自警団詰め所の地下牢。3人は武器の類を全て回収されてしまった。さくらのラケットも残念ながら武器判定を食らってしまったようだ。


「こちらへ!」

入れられた牢には先客の姿が。入ってきた竜崎の顔を見ると、彼らは目を輝かせた。


「「リュウザキ先生!」」


「やあ2人とも、ここにいたか。良かった、怪我はなさそうだね」

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