彼女とBAR3p

「あの、すみませんが、ライターをお貸しいただけませんか?」

 いきなりかけられた男の声に驚いたのか、女はびくりと体を震わせると、ゆっくりと男の方を振り返った。

 男は、振り返った女の顔を見てゴクリと唾を飲み込んだ。

 女は美人だった。

 歳は、二十代前半くらいだろうか。やや化粧が濃い目だが、女の、流す様な視線で上目遣いに男を見る様子は、実に色気を感じる。さらに、雨で濡れた女の体は、彼女の魅力を引き出すのに十分効果を発していた。

(いい女だ)

 男はニヤついた顔で女を眺めた。

「いやぁ、凄い雨でしたね。俺は傘を持たずに、いきなり降られたので、ここに雨宿りに……あなたも、ですか? ずいぶんな格好ですね。大変でしょうそれ……」

「ライター、どうぞ」

 一言そう言って、 女は一方的に喋りだした男に向かって自分のライターを放り投げると、直ぐに男に背中を向けた。

 男は、片手でキャッチしたライターに視線を落として苦笑いする。

(相手にしないって事か)

 声をかけた美人に素っ気なくされた男が取る態度といったら、きっぱりと諦めるか、しつこく食い下がるかだが、男が取ったのは後者の方だ。

 女の方も美人だが、男もそれなりに見栄するルックスをしている。

 いわゆる所のモテル方である男は、そんな自分が女に軽くあしらわれた事でプライドを刺激されたらしく、断りもなく女の隣の席に座った。

「どういうつもり?」

 女の眉間にしわが寄る。

「いや、どうやらこの店の客は、雨に降られた俺らだけみたいなんで、これも何かの縁かもしれないし、せっかくだから一緒に飲まないかなって思ってね。あっ、もちろん俺の奢りで。どうかな?」

「私がアナタタチと?」

「? ああ、ダメかな?」

「ダメね。お断りだわ。私は今、一人で静かに飲みたい気分なのよ。そういう訳だから……」

「それにしても、君、ずいぶん濡れたね。体が冷えているんじゃないかい?」

「私は一人で飲みたいの。あなた、日本語分かった?」

「君、 何を飲んでいるの? ブルーのカクテルだなんて……ああっ! チャイナタウンかな?」

「………………」

 誘いを断っているにもかかわらず、しつこく話しかけてくる男に、女はウンザリした。

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