第6話 韓国人

運命的な出会い、と勝手に思っているのが日本に6年住んでいたと言う韓国人女性。当時の日記があるので引用させてもらう。


『細い路地に座って、頭が痛くなるような甘さのシェイクと糞不味いタイのタバコを飲んでいた僕に頭上から声がかかる。

「タバコをもらえる?切らしちゃって」

流暢な英語が聞こえた。

「どうぞ」

拙い英語でタバコを渡し、火を点けながら彼女を見た。

黒髪のボブの可愛らしい子だ。

「日本の方でしょ?」

関西訛りの日本語で話す。

「ええ。貴方も日本ですか?」

「私は韓国よ。でも中学高校は神戸にいたの。父親の仕事の関係で。」

そう話す彼女とコンビニで買ったシンハーを一緒に飲む。色んな事を話した。お互いの国の事、政治、宗教、サッカーまで。彼女は言った。

「私とあなたはこうして一緒にビールを飲めて話をする事が出来る。

でもやっぱり在日や、日本に住んでる韓国の人は差別や偏見があったりする。

不思議よね。こうしてタイの汚い街では何の壁も無くビールを飲めるのに。貴方は日本が好き?私は韓国が好きよ。でも色んな国ではジャパニーズには尊敬の目、コリアンには偏見の目があるの。

貴方と私は何が違う?同じ日本語を話して同じ食べ物を食べて同じビールを飲んでるじゃない。生まれた場所が少し違うだけじゃない。馬鹿みたいね。私と貴方は同じだけど違う。そう思わない?私は全てがフラットで全てを許すこの街が好き。この街にいる私は日本でも韓国でもタイでもない、私っていう人間だけなの。」

3本目のシンハーを飲んで5本目のタバコを吸った時に彼女は言った。言葉が見つからない。彼女の部屋を出る時に何とも言えない恥ずかしさと焦燥感に襲われた。僕は彼女の気持ちを理解出来るのかな?

もう少し旅を続けようと思った。』


恥ずかしい日記なのだが、この女性はすごく魅力的な人だった、見た目も含めて。

イブラヒムはこの女性と会ったばかりで韓国語の愛の言葉を単語でバンバン浴びせていた、そういうところが嫌われるんだ。

彼女になんて言ってるの?と尋ねたら韓国語で好きだとか愛してるとか結婚しようとか単語単語で言ってるって教えてくれた。コイツうざくてごめんねと僕が謝る羽目になった。

日記ではぼかしてあるが、無理やりイブラヒムは帰らせ、僕は彼女のホテルへお邪魔してなんというか、そういう雰囲気になってしまったんだ。タイの気候とか色々と気分的なモノもお互いあったと思う。

結局、彼女の事は何も知らないんだけど、今でもまた会えたらいいなと思っている。

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