外伝14話 故郷にて、そして、姫将軍の来日とトラブルメーカーの一幕  前編

  アースティア暦 1000年・西暦2030年・6月4日・午後17時30分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸・ユーラシナ大陸中央地域・シベリナ中央地方・アルガス公国・アルガス公国北部・キグ・ミノ州・州都・キグミン市・シュヴァインハウス本店にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


此処はレンガと木材を使って建てられた建物で、いっぱいの地方都市でにして、・キグ・ミノ州・州都でもあるキグミン市。


 とても平和で、長閑な雰囲気漂う、農業と商業が共に盛んなアルガス公国の地方州都市である。


このキグミン市は、この国の約3割の農産と畜産物の食料生産を誇り、その生産を成し遂げた農場商会であるシュヴァインハウスが在る創業の地。


その創業者の名は、ガム・シュヴァインと言うお茶好きの元軍人である。


 軍を定年の手前で辞め、故郷へと戻ると趣味であるお茶を何時でも飲める喫茶店を始めるが、経営が上手く行かずに右往左往して居ると、軍の会計官職をしていた息子のユキヒロ・シュヴァインが、突然に実家へと帰って来たのであった。


彼はアルガス軍内での会計仕事を見事な仕事ぶりだと認められ、内勤での出世が順調に行く筈の人物であった。


 どうやら父親の商売が上手く行って居ないとの噂を聞き付けて、態々勤務していた国防省の在る首都から駆け付けた来たのである。


帰るなり息子は、父親に対して「親父のやり方じゃ借金塗れに成る」と言い経営を手伝い始めた。


 ユキヒロは、軍を辞めた時の退職金と恩給を使い喫茶店をレストランに切り替えた。


夜はディナーを出しながら同時にバーを始める。すると忽ち経営が上向きに成って成功するのだった。


 経営が上向き始めると、食材の仕入れに苦慮し始めたユキヒロは、それならと、今度は空いて居る土地を安く買い取って農場を始めた。


 天候の変化が少ないキグミン市、多彩な野菜と家畜が常に豊富に育てられる環境下に有った。ユキヒロは、其処に商売の目を付けたのである。



 レストラン・シュヴァインハウスは、野菜と家畜を一括して、自ら育て調理すると言う、この世界で全く新しい商売を始めたのであった。


料理の食材を生産から調理までを一手に行うこの商売方法は、次第に評判を呼び、出資と販路を広げ、レストランだけでなく。


 農場と牧場、青果店と生肉店、その流通経路に至るまで行うまでに、商会を一気に国内有数の規模の商会へと成長させて行ったのである。


店の経営が軌道に乗り、5年の月日が流れたある日のこと、息子に嫁が出きて娘が生まれていた。


 シュヴァインハウスの創業者であるガムは、夕焼けの公園で孫娘のチノン・シュヴァインが、近所の幼馴染の男の子1人と女の子併せて3人で、遊んでいる姿を見守っていた。


「はぁ~、店の経営は息子に取られて、する事がねぇ~な。」


「趣味で始め、老後の静かな日々を楽しもうとして居たのに、そう上手くいかねぇか・・・・・・・・」


「はぁ~。」


其処へ、ぶぅ、ぶう、ぶぅと鳴いて通ってくるミニ豚がいた。


 仕入れ業者が間違って送りつけたペット用のミニ豚である。


 送り返そうとした所をチノンが気に入り、それ以来、ペットして可愛がっている。


「何だ、ハッピーじゃねぇか、お前は良いよな。気楽で・・・・・・・」


「わしも豚に、成れたらどんなに気楽な事か・・・・・・・・・」


其処へチノンがキャッチし損ねたボールが転がって来ると・・・・・・・


「おじいちゃーんっ!」


近くに建てられて居るからくり式の時計を見上げると、時刻が間も無く18時に成ろうとしていた。


「そろそろ帰えらないと、あの子達の両親も心配するな。」


「それじゃ、帰えろか、ハッピー。」


それから10年・・・・・・ガムは天寿を全うし世を去っていった。


 彼の名前は食料品を扱い、多数の店を展開する国内一の商会、シュヴァインハウスの創業者として名を残す事に成るのであった。


 そして、この話は本編には一切関係ない。


 本当の本編は、この商会の一人娘であるチノン・シュヴァインに付いて語ろう。


 彼女が15歳の時に、祖父のガムが老衰で亡くなった年の事。


 彼女は故郷で引き篭もって居るのが、とても性に合わなく、身体を動かして暴れまわるお転婆娘として成長していた。


 彼女は自信の将来を見据えて学費がタダな上に、給料が入ってくる士官学校に進学した。


 チノンは士官学校に入るのは、ある理由からであった。


 近所に住んでいる幼馴染みのトシアキ・ルシヤンと言う男、あだ名がトシヤンと呼ばれて居る。


 その彼が王都に働き口として軍に入隊する為に、士官学校へ入学するらしく、この町を出て行くのと言うのだ。


彼の家は、チノンの家とは正反対に貧困であった。


 その家族はと言うと、シュヴァインハウスの従業員である。


 冒険者にでもなれば、賞金で食い繋ぐ事も考えたが、お金を稼げる様に成るまでに時間が掛かり過ぎる。


 其処で彼は、高卒資格も同時に取れて、給料も出してくれる士官学校に入ると決めた。


 卒業後は地方の警備隊にでも進んで志願すれば、極端に厳しい最前戦線に回される事も少ないと言う。


 軍の仕事は、恩給や退職金もソコソコ高いオイシイ仕事でもある。


 近年は帝国軍の進軍速度の動向は、比較的緩やかで、激しい大軍同士の戦いも少なく落ち着いた情勢かに有る。



 アルガスの一部の貧乏な若者達には、とても金銭的に美味しい仕事でも有るのだ。


まあ、こう言う条件でも付けない限り、士官学校への入学や軍への直接の志願が少ないだろう。


 アルガス公国も東西の交易で潤って居るので、財政面ではまあまあ良いと言える。


 この国はその昔は、南にも其れなりの領土を持って居たが、ローラーナ帝国に奪われ、この国の首都はグラダマ市から北部のリガ・ミリィー・ディーナ市に還都されて居た。



そして・・・・今、時代は動く。東方に異界より転移して現れた日本によって・・・・・・・・




 誰も居ない店内で、静に紅茶を啜りながらお客を待っているダンディな40代の男が店番をしている。



 今日のバイトのシフトが入るのは、夜からであった。


 静かな風景、静かな時間、それがこの店に売りでもある。


 農場や各店舗での会計書類の仕事は、妻に任せて居るので、この支配人の男は安心して調理や接客に専念していた。


 この男こそシュヴァインハウスの2代目支配人であるユキヒロ・シュヴァインその人である。


 ご近所でも評判のイケメンで、ダンディな親父でもあった。


 その静かなレストランの店に有る人物が飛び込んできた。


「ユキヒロさ~ん、大変です。はぁはぁはぁはぁ・・・・・」


「どうしたんだい?サオリ君。」


 彼女はコヨミ皇国人の血を引いて居るサオリ・グリーンマウンテン(コヨミ式に言うと緑山)と言う女性である。


 昼は図書館で司書をして夜は、この店で働いて居る人物でもある。


「さっき、噂で聞いたんですけど、南で戦争に成りそうだって聞いたんですよ。」


「そんな話なら何時もの事じゃないのかい?」


 軍に居た彼にとって国境付近での紛争や小競り合い等は、日常茶飯事である。


 然したる心配も、余ほどの事が起こらない限り心配をして居なかったのである。


「そ、そうなんですけど、その戦争が起こるって場所、チノンちゃんの配属先の近くの辺りなんですよ。」


「何だ、そんな事か。」


自分の娘が殺されるかも知れないのに、父親であるユキヒロは、ちっとも動じては居なかった。


 寧ろ、冷静で落ち着いていた。


「えっ、チノンちゃん達が心配じゃ無いんですか?」


「家を出て、軍に入ると決めた時から覚悟はして居る。」


「お国の為に何かしろとは言っていないし、いざと成れば逃げ帰って来いとも言ってある。」


「心配するだけ、無駄さ。」


「それに、このご時勢だ、それなりに食い扶持を稼ぐとなると、危険を覚悟しなきゃ、やって行けない。」


「でも・・・・・・・」


其処へ、背の高いロングの藍色の髪をした女性が入って来た。


 軍服を着て居て、しっかりとした姿勢で歩き、クールな雰囲気と眼つきをしていた。


「失礼する。」


「今度はロゼ君か・・・・・」


「ユキヒロさん、もう、噂話くらいは聞いては居るだろが、チノン達の居る辺りが最前線に成りそうだ。」


「其処で提案なのだが、この町の警備隊に転属するよう親父と一緒に願いでる積りで居る。」


「其処で貴方にも手紙を一筆書いて貰いたい。」


現れたのはロゼ・リーザ、この町の軍の司令官の娘で、少佐の階級章を付けている軍人だ。


 21歳でチノン達の年上の幼馴染みでもある。


「残念だか、それはお断りする。」


「何故だ?今なら間に合うぞっ!!」


「私はあいつ等が殺される所を黙って見過ごせ事は出来ない。」


「アイツ、君の親父さんも俺に気を使って無茶な事をしないで欲しいな。」


「それにチノン達だけ、逃がす様な真似をするのは、他の軍のご家族の人達に対しても、申し訳無いんだよ。」


「ロゼ君の気持だけで十分だよ。」


 そう言うと仕事を黙々と続ける店の主人は、それっきり黙り込んでしまった。


「くっ」と言う台詞を穿き捨てたロゼは、そのまま黙って立ち去り、サオリは少し早いが、直ぐにバイトのシフトへと入って行った。


 戦争が日常のと成って居る世界の現実とは、斯くも厳しい物である。


 親しい肉親、友人に知人等が、ある日突然、戦火に巻き込まれるのだ。


 この地方都市に住まう彼らの親しい人達も、戦地に居るであろう人達の無事を祈るしか無いのである。


 戦禍の風と業火は無傷で平和なこの地にも、忍び寄って居るのであった。





 


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