28話 ダバード・ロード王国の会議は踊る 1

 アースティア暦1000年・4月20日・午前10時00分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸・ユーラシナ大陸中央部地方・シベリナ中央地方・ダバード・ロード王国・イングラード州・王都インディクス・インディクス城にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 この日、魔法と魔導技術大国であるダバード・ロード王国は、国家元首たるアーヤ・シュチュ―ド女王を中心に、異界から現れたと言う国家、日本と言う国に対して、どう対応すべきなのか。


また、彼の国と国交開設をするのかどうかを話し合うべく、必要な首脳陣や官僚らを緊急招集して会議が行われ様としていた。



 日本と言う国の存在を報せて来たのは、コヨミ皇国政府と同地に駐在する自国の大使からであった。


その日本なる異世界からの転移国家の詳細な情報が、在コヨミ大使館から齎されると、ダバード・ロード王国政府は、半身半疑ながらも信じるに至ったのは、自国の大使館の大使と職員達が入手した有るモノが有ったからだった。


それは日本国が各国の政府と大使館宛に配った日本に付いて書かれている文面と各種紹介写真が載せられて居る分厚いカタログの様な紹介本だった。



 数百ページにも及ぶ紹介覧の内容は、異世界各国が腰を抜かすほどの好評価だった。


 中でも日本の各種産業に付いての紹介覧は目を見張るものがあった。



立体式高速街道(高速道路)、高速運搬車両(鉄道)、大型鉄船、飛行機械、自動機械車両、各種生産設備は自動化と効率的な生産力。



 その他の各種産業も喉から手が出るほどに欲しいものばかりである。


 正に異世界の国々は、こう思った事だろう「本当に日本国は凄い~デス~ネ。」と言う言葉を口々に言ってしまう程の内容であった。



最後の一覧に載って居た自衛隊の項目に目を通した女王であるアーヤが、日本との即時に国交交渉を閣僚と議会に命じるのには、十分すぎる内容と言えた。


 現在のこの国は、大河の向こう側に有った南部の領土を完全に帝国に攻め落とされて居る状況にある。


 ダバード・ロード王国政府は、この状況を打開し、何としてでも旧領地を奪還したい構えだが、軍事技術には自信が有るが、兵力的な戦力差が有る為に歯痒い思いをしている。


此処は何としてでも日本と国交を結び、軍事支援と経済支援と技術支援を引き出したい想いだった。



 会議室では、今コヨミ皇国に派遣されて来ている日本の大陸調査団と護衛のニホン軍(自衛隊)に付いての対応と報告に付いての会議の真っ最中であった。



「以上が我が国の在コヨミ皇国ダバード・ロード王国大使から送られて来て居るニホン国に付いての報告書と意見書だ。」



御前会議でアーヤに最初の報告したのはダバード・ロード王国の外務省経由の報告書を基にした情報である。



 この報告書を読み上げて居るのは、ダバード・ロード王国の女性の外務大臣のユウ・カイダーンである。


ユウ外相は30歳で、外相に抜擢された女性であった。


口が多少悪い所が有るが、部下の面倒見が良い姉御肌で有る事で知られていた人物だった。



コヨミ皇国の駐在する自国の大使からあさくら号事件の一報を受け、その動向を追っていた。


 そして、その後も日本国成る国の動向を追って居たダバード・ロード王国外務省は、続報の緊急報告を受けた。


 日本国が、遂にユーラシナ大陸の調査を行う為、外交調査団と軍の派遣を決めたと言うのだ。


 数日中には、コヨミ皇国の港や街道を自国に準じた物へと作り変える為に、先遣隊を派遣するとの一報も報告書に書かれて居た。


 その数日後、在コヨミ皇国大使館を経由して日本国からのフルカラーの分厚い紹介冊子を30冊ほど送られて来たのだ。



 此処に居る閣僚らは日本の資料を精査して、どうするべきなのかを決められずに居た。


 女王であるアーヤが元首として鶴の一声で決めても良いのだが、それでは後々に成って国中の者達に取って、お互いの思想的な禍根を産み兼ねない。


 此処で会議を行い、その結果を持って意思統一した上で、日本からの支援を受ける方向に持って行きたいと彼女は考えていた。


 アーヤは、ハッキリ言って日本の各種支援が喉から手が出るほどに欲しいと思って居る。


しかし、ある共通の事実が有って即断出きずに居たのである。



 それをユウ外務大臣は、周りの者達がハッキリと言わない事に苛立ち、この場の沈黙を破った。



「陛下、そして、この場に居る皆も分かっているだろうから、ハッキリと言わせてもらう。これは劇薬だ!」



「ユウ殿、もう少し、穏便な言い方をした方が、」




髭を蓄えた中年の産業大臣が彼女を宥める様に答えているが、捲くし立てる様に更に話を続けた。



「いいや、此の儘では、この会議をただひたすらに踊りを続けるだけだ。そんな下らん会議は私の性分では我慢ならん。」


「良いかっ!!これは極めて重要な会議だっ!!」


「シベリナ連合の各国の中で逸早くニホンへの対応に動いて居るのは、報せを寄越して来たコヨミ皇国を除けば、恐らく我が王国だけだっ!!」


「アセリナの翼人らは軍と官僚が統一されて居る制度の為に、直には動けまい。」


「アルガスは南部の防衛で手一杯で、直ぐにも閣僚や官僚を二ホン国へと使節団送っての国交交渉所ではない。」


「ドラグリアは竜人族と言う種族の性質状、のんびりとした動きになると思われる。ラクロアナは、地理的に二ホンに近い東部に位置する国では在るが、今はレビル国王陛下は、病で臥せって居られる。」


「政務を代行して居られるフランシェスカ王女殿下も、レビル国王陛下に成り代わっての政治的な即決の決断をさせるには、まだまだお若過ぎるし、その動きも鈍い事に成るだろう。」



「我が国は早期に確立した連絡網の一つである竜郵便のお陰で、比較的早く、この情報を手にして居る。」


「この冊子はシベリナ連合各国に配られて居るが、それが届くには、後数日掛かる筈だ。」


「それとだ、オローシャのコヨミ皇国大使から序でに本国に資料を届けて欲しいと頼まれている。」


「彼の国はシベリナ連合の西端に位置して居て、二ホン国に付いての情報も入り辛いと思われる。」


「今後の事を考えるなら、日本から遠いオローシャ帝国も国交交渉をするように働き掛けるべきだろう。」


「更には、我が国が二ホン国に付いての得た情報をオローシャ帝国に提供する手伝いをする事も必要に成るだろう。」


「其処で提案が有る。」


「二ホン国を含む、この世界たるアースティアに転移して来て居る異世界国家群との国交交渉を希望する反帝国同盟諸国や帝国と相容れない国是と考えて居る国々を引き連れて、二ホン国に近い大きな町での国際会議を開こうと提案するのは、どうだろうか?」




「なんとも大胆な提案だなユウ外務大臣。」



「それでは何かね。君はシベリナ連合各国の全てを連れて、ニホンとの交渉するべきと言いたいのかね。」と食料産業大臣は冷淡な口調で、年若い女性外務大臣に言って居る。




「彼の国のとの交渉は、何れも難航を極めるかも知れんぞっ!」




「いや、その前にっ!このままニホンと交易を結べば我が国の経済と産業がどうなる分からん。」




「それどころか、ニホンに経済と産業その物が乗っ取られかねんっ!」



各大臣や軍の幹部らはバラバラな発言で騒ぎ始めた。


 そう、この国の基本産業基盤は手工芸と手工業が中心だ。


 更に魔鉱石と普通の各種鉱物石を加工した製品を使って、日々の日常を暮らして居る。


 それにダバード・ロード王国は、アースティア世界に措いて、世界有数の魔導技術立国であり、魔導工廠工業大国でも在るのだ。


  軍事技術の大半も自国で全てを賄えられるほどに優れており、隣国のオローシャ帝国も同等の魔導技術を有して居る。



 その為に、オローシャ帝国とは技術提携条約を結んで、量産型兵器生産の統一生産を行って居るのだ。


 其処へ・・・・それらの製品を真っ向から否定し、より生産効率の良い品物が新たに入って来ると、ダバード・ロード王国だけで無く、生産提携している同盟各国の経済に影響が及び、かなり大きく、更には一時的な利益率の大損が出てしまう恐れがあるのだ。


 ダバード・ロード王国の主だった政府首脳陣達は、それでは戦争所では無くなるのでは無いかと心配して居るのだ。


 特に此処に居る貴族諸侯に属する者達は、国内工業に関わる出資をして居る。


 日本からの支援を受けた後と戦後、自分達の投資の回収と居場所の事を特に気にして居たのであった。


 下手をすれば、大損した挙句に、路頭に迷うことを恐れていた。


 ダバード・ロード王国に取って日本からの支援投資とは、紛れもなく劇薬と言えた。



 そんな煮え切らない会議に出席している首脳陣達、其処へテーブルをバンと思い切り叩きつけて啖呵を切ったユウが叫ぶ。




「喧しい!!!! あんた等の心配は分かってるし、最もだよっ!!確かに私も皆もが言った通りニホンは劇薬だ。」


「それも病気と怪我で弱ってる子供の国に向かって、酒精の強い酒と一緒に口苦い強い薬を一緒に一気飲みさせる行為だって事は、この場に居る誰もが十分に理解して居るんだろう?」


「成らば、こう言う時こそ、国を預かる物が全員で責任を取るのが筋だろう?」


「それに二ホン国との交渉は私が必ず悪い様にはしない形で、決着を付けて見せる。これならば此処に居る全員が文句は無い筈だ。」



「後は皆の腹を決めるだけれだ。さぁ、どうする?」



「そ、そっそれは・・・・・・・・・・」




「じゃなきゃ、決まらんし、何も始まらん。」




 ユウは決められない年配の閣僚らに一括を言った上で、日本との直接交渉は、ユウ自ら交渉の矢面に立つと言い切った。



 彼女は奇異の目で日本の紹介情報冊子資料に目を通す閣僚らと違って彼女はしかっりと最後まで資料に目を通して居た。



 其処で幾つかの日本との取引になりそうな物と自国に利益に成り得るページを見付けていた。




「私はアイサ宰相と共に資料を見比べて、我が国の産業でも何か取引出きないか、売り込む物は無いかと、この会議までの間に考えました。」


「其処で私達は、閣僚の先輩方とは違った部分に注目しました。」


「確かに日本国の各種工業製品は凄い!ハッキリ言って我が国では太刀打ち出きないほど優れて居る。だけど、ある欠点を抱えて居ます。」




「して、その欠点とは?」




「それはあたしが話しましょう。」




今度は宰相のアイサ・ノートがユウと交代になる形で話し始めた。


 宰相大臣であるアイサは、ユウと同じく三十歳の若さで宰相に抜擢された女性である。


 だが、この人事も人手不足から来る抜擢でも有った。


 近年、何処の国でも軍部と省庁でも男子出生率の低さから来る若い女性の政治と軍内部への偏った幹部登用は当たり前と成りつつある。



 これは戦地では前線へと、どうしても出て行かざる負えない中間層から戦死し、中央の政治では中間の官僚と政治家が地方を立て直す為に、各地方へと飛ばされて居る為だった。


 そして、居残るのは年を取ったベテランと新人のルーキーしか残らなくなる。



 地方の政治では、上手く仕事をこなす先輩の少なさと、ド新人で使えない人材が居ると言う配置の状態のせいで、現場では大変な混乱を招いていた。



 その中で、アイサとユウの二人は、アーヤの肝いりで名指し指名されて閣僚入りした優秀な人材だったのであった。




「ニホン国は島国で、その製品を作り出す資源を8割近くを持って居ないのです。その殆んどが、輸入に頼り切って居ます。」


「彼の国は、輸入した資源を加工して、加工した物を売って生計を立てて居るのです。」


「更に食料自給率も7割から6割程度で、足りない残りの物もまた、輸入で賄って居ます。」



「これは狭い国土に人口が増え続け、海外貿易を行う上で必要に成った工業化と農業生産とのパワーバランスが崩れている構造故の弊害なのでしょうね。」




「其処で我が国は先ず、二ホン国に食料をシベリナ連合各国と共同で輸出します。この輸出する農作物もニホンの要望に応える形にしたいと思って居ます。」


「そして、資源の輸出、これは各種鉱物ですが、我々が使う事も無い黒い燃える水や毒霧、異世界国家の間では石油と天然ガスと言う物を採掘採取権を売り出し、その利益の3割を我が国が、残りを採掘した国と作業を担当する商会で山分けと言う形を取る予定で居ます。」


「アイサ宰相殿、ちょっと待って欲しい。それでは我が国の利益が少ないのではないかな。」


「そうだぞ、それでは利益を多く得て得をするのは権利を譲渡してしまう外国たけに成ってしまうではないか?」


「責めて自国を6割か半分の利益にしないと、国内に措いて反発が出てしまうぞっ!!」


 この言い分は、最もな意見だった。


 たが、閣僚等が言う意見は、オイルとガスマネーの利益が通常の鉱物と同等であると言う間違った認識から来ていたと言う意見から来るものであったからだった。


「皆様の言いたい事は分かります。ですが、石油と天然ガスと言う物質は、宝石や金塊等の鉱物以上に価値の有る物なのです。」


「それに採掘と輸送に関わる投資はある程度、資金に余裕が無いとやって行けないそうです。」


「それに元々採掘技術も無い我が国に、それら二つを掘り起こす事は無理ですし、貯蔵方法も特殊で、それらに掛かる費用を込みで考えますと、妥当だと言わざる負えないのです。」


「何?そんなにも扱いが難しい物質なのか?」


「なるほど、だから土地を持って居る方が利益が少なめなのか?」


「はい。何れ我が国の方でも技術の習得はして行く積りですが、今は外国に頼った方が無難なのです。」


「それに、この採掘条件の中身に付いてですが、採掘地の土地権利を持って居る当事国が外国商会との商取引で利益を、その外国商会が採掘とその採掘物を欲している諸外国と売買をして利益を得て、最後に外国商会の国元が税金を得る事で、同等の利益が分配される形と成ります。」


「成程、今の説明で得心が行った。それならば致し方あるまい。」


「ですが、ご安心を石油と天然ガスは費用はある程度嵩み、自国への利益が少なく見えますが、入って来る利益は莫大です。何せ国家血液とも言われて居るらしいですので。」


「「「「「えっ?!」」」」」



 後にダバード・ロード王国閣僚等は驚く事に成る。


 それは悲鳴を上げるが如く、嬉しい声で笑う姿が有ったと言う。


 オイルマネー恐るべしとね。


「話が脱線しましたが、対帝国との戦争継続と国内工業の改革と一新をする為には、鉱物加工製品が優れている日本へと輸出する。」


「それを実現するには、日本との膨大な地下資源の取引網を築く。」


「その為には、我が国とドラグリア、オローシャ、アセリア、ラクロアナ王国の4ヵ国で産出される魔鉱石とシベリナ全体で産出される各種鉱石、更にまだ我々が未確認または未使用の地下資源の採掘権を売りに出す事を提案する方向で交渉を進めたいと考えて居る所です。」




「次にそれらを輸送に必要な港を二ホン国の使用に合わせた形で整備と拡張をし、更には空港と鉄道と呼ばれる交通設備や関連施設を建設します。」



「その次には、街道と移動車両の配備と運用する法律の整備です。」




 とある閣僚が、その手が有ったかと言う顔で言う。




「なるほど、確かにこれならば、両国にそれなりに利益の分配が可能となり、我が国でも柔軟な対応が可能ですな。」




「しかし、これだけでは我が国への利益が少ないのでは無いですかな?」




 その疑問にアイサは温和な雰囲気を壊さずに冷静に答えた。




「はい、それではニホン側の利益が凡そ8割になるでしょう。」


「これを我が国は、将来的に4割に持ち込むのが当面の目標です。と言ってもニホンとの貿易で得られる収益は、目に映るグラフでは分かり辛いですが、我が国でも十分な額だと予想されます。」




「これは仕方が無い事だ。あちら側の国力の方が高すぎる事から来るものだ。」


「事は外交交渉が絡んで来る事だが、資源と食料の輸出の交渉は概ね上手く行くと、私は考えて居る。問題はニホンの工場と商社と呼ばれる組織との交渉だ。」




ユウはとあるページを開いた。




「これはニホンの商社と工場、つまり我が国の商会と工匠商会にあたる民間組織に付いて描かれて居る紹介ページだ。この中で私はとあるに工匠商会に目を付けた。」




ユウが指差した写真は大企業が経営する工場の写真ではなく、日本各地に良く見られる小さな中小の町工場だった。




「これはどう言う工房なのですか?」




「これらはニホンでは中小企業と呼ばれている小さな規模で経営している工匠商会の工房の紹介絵図だ。私はこれらの工房を我が国に積極的に誘致したいと考えている。」




「ユウ外務大臣、何故なのですかな。誘致するならば、もっと大きな所に来て貰う方が良いのでは?」




とある閣僚が疑問を抱くもの最もな疑問の一つだろう。


 それに大手企業ならお金と設備をたくさん持って来てくれる筈だとね。


 その利益も莫大になる筈。


 それなのにユウ達若手の閣僚らは、資金振りにも困って居て、海外展開すら土台無理な感じで、明日を知れない中小企業を誘致しようとしていた。



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