21話 ゼロから始める異世界の外交政策 6

 アースティア暦 1000年・西暦2030年・5月21日・午前9時15分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸・ユーラシナ大陸東側地方・コヨミ半島・コヨミ皇国・万代藩・万代港にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




港では漁師組合に来ている者や商会の事務所や店舗の船乗り、商人達が所要で訪れている。



その彼らが木造帆船よりも巨大な鉄の灰色船が万代港へと繰り返しやって来る度に、その目を丸くしながら見ていた。


 そして、大通りの入り口、港と市場の境付近の場所で、市井の人々が日本の使節団を見ながら、互いに感じた事を語り合い始めた。



「此処最近に成ってやって来る様に成った鉄船の船団は相変わらず、すっげぇ~なっ!!」


「ああ、本当にな。」



「見たか、あの巨大な鉄船を?」



「ああ、何て言ったか、あのデケェ鉄船を造ったって言う国の名は?」


「ニホホン、いいやニッコンだったか?」


「いいやどれも違うぞっ!確か・・・・・ニホンとか言ってたな。」



「ニホン?それって・・・・・一体、どの辺りに在る国だっ?!」



ここ数日の間に、万代市に訪れた者や戻ってきた出稼ぎ労働者や商人達らは、日本の存在を知らないのである。



「主上様と藩主様の発表じゃ、東に海に現れた異世界の国とか言う発表が有った筈だっ!」



「異世界?何言ってんだ。そんな御伽噺みたいな所なんて、在る訳ねぇだろよっ!!」



「それが在るらしいぞっ!!」



「南西国藩の藩主で在らせられる嶋津義隆様は、既に交易準備に入ってるとか言う話を万代市に商売にやって来た南西国藩の商人が言ってたぞっ!!!」



「おいおい、そりゃマジか?」



「ああ、それと龍雲海沖で帝国海軍が、ニホン客船の拿捕と領海権を巡って、ニホン海軍と紛争を起して、帝国海軍がコテンパンにやられてとか・・・・・・・・」



「何だって?!」



「帝国東洋領でも、ソコソコ有名な辺境侯爵であるアディーレ・グレッサは死亡したか、コヨミ皇国か転移して来た異世界の何処かの国の捕虜になった噂が流れてるぜっ!」



「ええっ!?アディーレ辺境侯爵がだと?」



「そう言えば、ここ数週間の間に港を始めとして見慣れねぇ連中や見たことねぇ鉄車を良く見掛けるよな。」



「それもニホンの発明らしいぞっ!」



「俺も見たぞ、馬や牛、果ては竜すら無いのに自走するんだっ!」



「俺もっ!俺もっ!見たぞっ!すっげぇっ!重たそうな鉄の柱を持ち上げてた。」



「ええーっっ!それは違うわよっ!土砂を沢山掘り返す奴と運搬する乗物よっ!」



市民達はどれも要領得ない情報に振り回されて居る。



 確かにどれもニホンの鉄の車だが、彼らが話して居る車を整理すると以下の通り。



 普通車と軽自動車、自衛隊の各移動用車両に施設科の各種車両。



 クレーン車にパワーシャベルに、特大ダンプカー等の民間建設会社の車両の事である。



 更に港には、クレーン船やコンテナクレーンまでもが在るので、今まで見たことも無い乗り物と道具を見た彼らが混乱しないのも無理は無いのだ。



沿道では賑やかに日本の噂話が続いていた。



「そうそう、ニホンの乗り物中には、鉄の箱の乗物が空を飛んでたぞ。」



「嘘だ~っ!空を飛べるのは亜人の連中か魔法使い。龍族や大国の魔導兵器だけだぜっ!」



「お前の情報は遅れてるな。」



「ニホンじゃ訓練次第で、お国から特別な許可証さえ有れば、空飛ぶ乗物に誰でも乗れるらしいぞっ!」




「そんな事を言って、どうせ位の高い貴族様や武家の人しか乗れない物に決まってる。」



「それもバカ高い金を支払って、手に入れる乗物だろう?」



「実はそうでも無いんだな。」


「俺が聞いた噂話じゃ、日本は皇帝以外の身分が全く無いらしい。」


「全ての市民が平等で、法に触れさえしなければ咎められる事は無い。」


「だからどんな乗物でも訓練して、国からの許可証を貰えば、乗りたい乗物に誰でも乗れるらしいぞっ!」



「おいおい、それは本当か?あんな便利な代物が手に入れば、今ある仕事が一変して一儲けが出きるぞっ!」



「俺は、あの鉄車が欲しいな。あれに乗って稼ぎが良くなれば田舎の家族が少しは楽に成るかも知れないな。」



「そりゃ、そうだがよ・・・・・・」



「ニホンの工匠商会で働いている奴が居るんだが、そいつが言うには、相当高い代物らしいぞ。」



「鉄車や空飛ぶ鉄の箱の許可証は日本政府しか発行してない。コヨミ皇国政府が許可証を発行するには、ニホンの制度と教官の育成にかなりの時間が掛かるんじゃないか?」


「それに許可証を取るにもお金が掛かる。一発で試験に受かれば良いが、落ちると数回分の試験費用が掛かるらしいぞっ!」




「そうか、それは残念だな。」




「そう落ち込むな。何年掛かるか分らないが、日本との貿易が盛んになれば何れチャンスは有るさ。」



落ち込む若い出稼ぎに来ている青年を励ます中年の漁師。



 すると違う男が声を上げた。



「おい、見てみろよ。日本軍の乗物がやって来るらしいぜっ!ありゃ何なんだ?」



男が指を指した方向の大通り入って来たのは、陸上自衛隊が誇る第一師団の第一偵察隊、普通科連隊の3部隊、特科大隊、第一高射特科隊、第一後方支援隊、第一通信大隊。


 16式機動戦闘車隊、89式装甲戦闘車隊、第一戦車大隊の74式戦車隊、90式戦車隊、10式戦車隊が支援車両共に市内の大通りを通行する。



もし、日本国民が見れば護衛にしては、やり過ぎだと言うだろう。



日本政府の思惑は、第一師団を含めた陸海空自衛隊の各部隊に、いっぱい目立って貰い。


 日本国の軍事力と国力を目立たせて、帝国に対する抑止力が有ると帝国にもシベリナ連合各国にも示す事だった。



 後は自衛隊の装備には、日本国の日本製品の凄いぞって所がたくさん使われいる。



 これをアピールすれば、民生品の売れ行きが何れ良くなると踏んで居るのであった。



「すげーっ!!これが日本軍か?」



「あれは・・・・使節団の護衛かな?世界各地域の諸外国に比べれば少ない気がするな。」



「バカか?それだけ強いって事だろっ!それにしても大砲の数が尋常じゃないぞ!」



「ああ、それに良く見てみると、部隊の半数が大砲だ。」



「大砲って、確か最近作られたばかりの兵器だろう?連射がし辛い代物って聞く。」



「第一、そんな物が役に立つのか?」



「そうだな。火薬式の大砲は、魔導砲が作れない国が持ち始めた代物だ。言わば魔導砲の代用品に過ぎない。」


「それにどちらも荒野や城塞防衛に海上での撃ち合いを目的に使用されて居る。」


「魔導砲と違って火薬と砲弾の装填に時間が掛かり過ぎるから、魔導兵器の前には殆んど役に立たないと来ているしな。」


「何しろ火薬式大砲はかなりの重量が在るから重いしな。」


「運用するには牛か重騎龍を使用するしかない。」



因みにこの世界では、火薬式の大砲と魔導式大砲が最近に成って作られたと言われているが、それは間違いだ。


 600年以上前にも、その二つは存在してたいが、当時の各国諸勢力の文明の差と、度重なる戦争のせいで、一時的にロストテクノロジーと化していた時もあるらしい。


 それを世界中の国々が必死に成って復刻再現させて、今日に至っているのである。



 そして、そんな大型で重量のある兵器は牛や馬、重騎龍と言う竜が運搬を担っていた。



 重騎龍の見た目は恐竜のトリケラトプスに似た竜で、この世界で言う戦車やトラックの代わりとして飼育されている生物である。


 だが、日本の転移後に出現した自動車に、その活躍を奪われ行くのである。



特に帝国がニホンと戦った陸自主力部隊と成った機甲師団である第7師団、最新式の戦車を持つ第2師団、第5旅団、第11旅団、東部方面隊の各戦車大隊と各特科火砲大隊に駆逐されて行く姿は帝国に取って悪夢であり。世界史上に残る出来事であった。



 だが、重騎龍を始めとする竜は、この世界全土で飼育されていた。



 全ての竜種が戦場で死絶え始めると、帝国は野生種の乱獲を続けて行く。


 

 その結果、竜種は戦場で死滅し消えて行った。



 その後、竜種の全てが絶滅危惧種にまで成ってしまう。



 戦後になって日本の環境省が各国に保護を訴え、竜種の保護をする国立公園を整備する等をした特別地域でしか見られなくなると言う悲劇が待っていた。



 それはさて置き、話は万代市内の大通りに戻る。


「じゃ、何でニホンは、こんなにも大砲を持ってるんだよ。」



「そりゃ、知らねぇけどよ。」



「ふふっ・・・・・・」



近くの行商の若い男が含み笑いをしながら語り始めた。



「そんな事も知らないのか?」


「俺が南西国藩の軍や軍出入りの商人から聞いた話しだが、何でもニホン軍の大砲命中率は、100発100中らしいぞっ!」



「それこそ嘘くさい。第一どんな人間が撃ったって、大砲の弾と言うは、明後日の方向へ命中するんだぞっ!!!」



「それがそうでも無いんだな。ニホン戦艦の大砲は高性能なカラクリ仕掛けで、撃ったら必ず狙った的へと中るって話だ。」


「更に陸軍の大砲も高性能で確実に敵に命中させる訓練を積んで居るらしいぞっ!!」


「だ・か・らっ!それは何故なんだっ!?」



「そんな事は俺でも、流石に其処までは知らないぞっ!又聞きの又聞きだからな。」



「何だよっ!結局の所は、何も真実を知らぇねのかよ。」



「南西国藩で水軍に入ってる兵士や出入り商人の連中からの話しを俺は又聞きしただけだからよ。詳しい事は知らないんだよ。」



「そりゃ多分、本当だな。」


「南の海・・・龍雲海の海戦の噂は、このコヨミ半島では知らない者はいない程の衝撃的な出来事だ。」


「なんだけどよっ!ニホンについての情報が少ないからな。」


「ニホンに付いての真実を知らない連中が多い。」



日本から帰国してきた南西国藩の水軍と嶋津義隆によって龍雲海での海戦に実情が又聞きの噂として市民らに広まっていたのである。



「おいおい、つて事はもしかして・・・・・」



「ああ、コヨミ皇国はニホンと同盟を組んで、帝国と本気で戦う積りかもしれねぇな。」



「そりゃっ!10年ぶりの大戦争に成りそうだぞっ!」



「と言う事は・・・・・・徴兵の件どうなるかな?」



「何を不安がってるんだ。戦で手柄を上げて名を上げられる好機だぞっ!」



「でもな、北西の藩主が帝国との戦争を避ける為に、密かに和平交渉してるって聞いて安心してたんだ。」



「その話は帝国に降るって話だろっ!冗談じゃないっ!」



そう、帝国に降れば、宗主国へたくさんの税金を納め、更に自国に税金を取られ、兵役や労役に男手を取られれば10年は帰ってこない。



 最悪、死んでる事が殆んどだと言う噂が立って居るが、大半が真実だった。



 例え戻ったとしても家族や知人の方が死絶えて居る事もある。


 若いを女は、通りすがりの貴族や兵士に奴隷や愛人として持って行かれる。


 性質の悪い奴は赤ん坊から10歳の子供を貴族や帝国商人に人身売買すると言う不届きな連中がいる。



それでも戦で死ぬよりはマシと考える者も少なからず居た。



 結局、何所の世界、何所の国でも事なかれ主義であり、厄介な事から目を背ければ自身には被害を受けない。


 此処に居る異世界の市民達もまた、日本の反戦平和主義者と変らない考えを持って居た。


帝国に飼われて死ぬか、帝国に歯向かって死ぬかと・・・・ 生き抜く、生き残ると言う少ない選択肢の考えしか彼らには無いのだ。



 対して日本での戦争に対する感情は、見えない、関わらない、知らないとしか言わないだろう。


 且つて、2010年代に就任していた総理が打ち立てた積極的平和主義は、今の日本では張りぼてに成って居るのだった。



2030年までに負傷自衛官が300人を駆けつけ警護や陣地防衛、日本の国境紛争で出て居るが、奇跡的に殉職者を出していない。



 その後に起きた政界の大政変で政党が分裂新生し、反戦運動が続いた。



 以前よりも酷くなったと言わざる終えない。


 ロシアによる民族・砲艦外交主義と中国覇権主義が世界中で台頭し続けている中で、日本だけが保守党中心に彼の国々に対して、米国を中心とした諸外国らと共に一歩も退かずに居たのは奇跡だろう。



 万代市内に住まう市民やコヨミ皇国民らが見て居る中で、日本使節団と自衛隊の一団は大通りを通り抜け去って行った。



「ふーっ、凄かったな。」



「ああ。」



「これからどうなるのかしら?」



「ひょっとしたら、俺達は歴史の生き証人に成ったのかもな。」



「そんな事はどうでも良いよ。大丈夫かなこのコヨミ皇国は・・・・・・・・」



 また、万代の町に賑やかさが戻り、互いを見知らぬ市民達は仕事や日常へと戻って行った。 


 この日の記録が後に瓦版に書き記されて居る。


 そのタイトルは、巨大鉄船の来航と題していた。


 後でこの瓦版を見た日本政府の関係者やこの話を聞いた学会のお偉方たちは、苦笑したと言う。


 何故なら200年くらい前に自国での体験そのままだったからである。


 皮肉にも異世界の黒船来航は、異世界の産業革命と維新革命を起す切っ掛けに成ったのである。

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