4話 龍雲海沖海戦 2

アースティア暦 1000年・西暦2030年・4月3日・午前11時30分・龍雲海・ローラーナ帝国海軍・東洋方面艦隊所属・第120艦隊・旗艦バローナ号船内にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 艦隊司令アディーレとの会議で、ローラーナ帝国海軍東洋方面艦隊・第120艦隊は、未確認船舶への戦闘を仕掛ける事に成ると決まり、バレーティアン号へと急ぎ戻ったベンジョンは、直営指揮下に在るツカイ・パシリ大佐に第一艦隊の全速前進を命じた。


 ツカイ・パシリは、ベンジョンに通称パシリと呼ばれていた。


 そのパシリは、何故か何時も無茶を言う上司の下に付く事に成ると言う不運な目に遭う事で、物凄い有名な人物でも在ったりする。


 中でもベンジョンとは良く組まされている不幸な男であった。



 特に今回の任務はパシリの危機感知センサーと言うべき長年の経験から来る直感が、己に嫌な予感たる危険サインを告げていた。



「ううっ、何か嫌~な予感がする様な気がするな。こう言う時に限って死にそうな目に遭うんだよなぁ~」と独り言を呟くパシリ。



 その予感は間もなく的中するのであった。


 ローラーナ帝国海軍・東洋方面艦隊所属・第120艦隊の37隻は、あさくら号を拿捕しようと航路を東に向けながら帆に風を一杯に張って全速力で向っていた。



 木造式型帝国軍用船で在れば、最大大きさは50メートルほど在れば良い方である。



 地球では貨物船は最大で500メートル前後、最小で70メートル前後である。



 5倍もの大きさを誇る鉄船は、帝国に取って有り得ない代物だった。


 また、後続の全長が120メートルもの長さの有る7隻の竜空母艦や150メートルくらいの巨大を誇る古代技術で作られた陸上魔導戦艦。


 通称名を空挺と呼ばれる魔導空挺戦艦にも似たようなサイズな為か、帝国軍に取って300メートルは在ると言うあさくら号は物珍しい物に写ったのだろう。



そして、あさくら号に近付いた帝国海軍の右側の第三艦隊は、先頭の戦艦の艦首甲板に設置されて居る火薬式の大砲が発砲を開始。



 それが龍雲海沖海戦の戦端を開く合図と成った。


 アディーレ率いる第二艦隊は、船足を一時的に落として艦隊を分離し、あさくら号の左側に回って砲撃を開始。


 ベンジョンが指揮する第一艦隊に7隻の竜空母艦の指揮権が預けられ、艦隊の目となり周囲を警戒しつつ、第120艦隊の護衛を行うのである。



「第二艦隊っ!第三艦隊っ!砲撃始めえええええぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」



「全艦隊っ!砲撃始めっ!!撃てえええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」



帝国艦隊の砲撃が始まる。


 あさくら号は、行き成りの問答無用の砲撃に驚いて万が一に備え、エンジンを応急修理を終わらせる事に成功した事が幸いして、直に船を出す事が出来たのである。


 鉄船ことあさくら号を帝国海軍が追いかけて約2時間が経過して居た。



 帝国戦艦の艦隊は風向きが悪い為、船内の兵士に命じてオールを使いつつ、全力で船を漕がせて居た。



だが、帝国が誇る大砲でも鉄船を側面の装甲を打ち破る事が叶わなかった。



 一部ではあるが、帝国でもとても高等な技術で高価なガラスと思われる窓の破壊を確認している。



 100発近い砲弾を撃ち込んでは居るが、鉄船は一向に降伏の気配が全く無い。


 それ所か何かを待って居る気配があり、時間稼ぎをするかの様にして、兎に角逃げ惑って居る様子である。



「「「撃てえええええぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!」」」し大砲が次々と撃ち放たれて居た。



 アディーレは、此処までされれば、大概の船乗りは降伏し、金品を渡して命乞いをする姿を何度も目にして来た。



 それが頑丈な鉄の船の作りに自信が有るのかと、相手の真意が分からずに居た。




「変だ。此処まで追い詰められば、大抵の者は心が折れる物だ。何故だ?」



「蛮族のにしては、少々頑丈な船のようですが、なぁに、その内に降伏するでしょう。」



側に居る将校の一人が長年に渡る経験則から私見を述べて居た。



 彼は帝国選民主義者の様で、他国や先住民、他種族を下に見る傾向が強い物達の一人であった。



「ぐぬぬぬぬっ!!中々船が落ちんなっ!くそっ!相手の出方が分からん今は拿捕する為に飛竜隊が使えんっ!!」



「だが彼の船には、自衛の為に必要な武器や兵器が詰まれて居ない様子。ベンジョさ・・・」



「・・・・・・・・」と無言のままギロリとパシリを睨むベンジョン。


 パシリが、ベンジョンの名前を無意識に間違えそうになると、鬼の形相で彼を睨み付けて来た



「ベン・ジョンソン様っ!此処は飛竜隊を使って兵を直接乗り込ませては如何でしょうか?」



 するとパシリは慌てて名前を言い直し、機嫌を取りながら意見具申をしようとするのだった。



「おおっ、貴様にしては中々の思い付きだな。早速、アディーレ閣下に具申して見よう。」



(はぁ~、どうして何時もこう、私は使える主や上司に恵まれないんだろう?)




 パシリは、小さな声で愚痴を零して居た。



其処へ・・・・・・・・・・・・・・


「何か言ったか?」



「いいえ、それよりも急ぎませんと何が起こるか、分かりません。」



「おおっ、そうだったな。」



 単純なお人だなと思いつつ、その場を誤魔化すパシリ。


 ベンジョンは、パシリ作戦の実行の許可を取り付けるべくアディーレに、伝令の飛竜を飛ばしたのである。



「何?飛竜隊に、少数の兵を運ばせての船の制圧戦だと?」



「はっ、偵察の飛竜でも武装はしていない可能性が高いとの事であります。」



「それは確かなのか?」



「内部までは分かり兼ねますが、反撃するなら既にされて居る筈だと『ベン・ジョンソン様』が申されております。」



 どうやら出発前にハッキリと正しい名前を強調する様にと、この伝令官は言われたらしい。



「良しっ、その作戦の許可をする。」



「了解しました。」



 伝令官は、再び飛竜に跨るとバレーティアン号に戻り作戦許可を伝えた。



 同じくアディーレも自分の指揮下に有る艦隊に制圧部隊の編制と飛竜を飛ばす準備を命じたのである。



 其処へ東からある意味、見慣れた船の一団が現れたのである。



「報告っ!コヨミ皇国の水軍らしき軍船艦隊が、此方に向って来ますっ!」



 アディーレとベンジョンの下に新手の敵が現れたとの報告があがる。



「くっ、忌々しいコヨミの猪武者共か。」



「旗は嶋津の掛け十字の旗と真紅の三日月国旗のコヨミ国旗っ!」


「更にコヨミ国旗に真紅の桐の模様が在りますっ!全軍の指揮を執って居るのは、コヨミ皇国・第一皇女のクレハ皇女の物と思われます。」



「面倒なコヨミの小娘がしゃしゃり出て来たかっ?!」


「何時もっ!何時もっ!コヨミの巫女姫は、栄えある我が帝国覇業の邪魔ばかりしおってからにっ!!ぐぬぬぬぬぬぬぬっ!!」



 ズド~ンと言う轟音が聞えて来た。



 コヨミ水軍は、帝国海軍の武威なんてお構いなしで大砲を撃って来た。



 紅葉は幾つか前線への視察と言う名の国皇代理として最前線の戦場や国境近くに赴いた事があり、何れの戦地で紛争に発展するが、彼女が指揮を執り、奮戦すると全ての戦に勝利すると言う才を諸国に見せ付けた。


 そんな訳で、其れなりに紅葉の名はじゃじゃ馬娘として名が帝国や周辺諸国にま轟いて居たりするのだった。



 それでも、冷静に対処すれば30隻いる帝国海軍が優勢なのは間違いない。


 だが、紅葉にはコヨミ皇族の女系に脈々と受け継がれて来ている不思議な力である星読みの力が有る。



 その力のお陰で、彼女は如何なる戦でも滅多な事では負けが無い。


 それが運命と言う定めでは無い限りは・・・・・・・・・・・・・・・・・


「う、うっ、撃って来ましたよっ!」



 恐れをしらないコヨミ武士の行動に動揺するパシリ。



「うぬぬぬぬぬぬっ!!小生意気な小国の小娘癖にっ!!」


「我ら帝国に逆らったら、どうなるか思い知らせてやるっ!!!」



苛立ちの余りに、周りの者達に当り散らすベン・ジョンソンは、コヨミ水軍をどう対処するのか思案を巡らせ様とした時だった。



 伝令の竜騎兵の騎士が彼の前に現れた。



「申し上げます。南西方向から見慣れぬ艦隊を確認したとアディーレ司令官からの通達です。」



「何だと?」



 遠く東側の水平線の彼方から、ボオオオォォォォォーーーっと言う汽笛の音が聞えて来た。



 遂にあさくら号が待ちに待って居た、救援の海上自衛隊の到着だった。


 物凄い勢いで帝国艦隊の第二艦隊の真横に付けて来る。


 海自艦隊は、哨戒ヘリの報告で帆船船団があさくら号に攻撃を仕掛けて居る姿を発見し、その報告が為されると、艦隊を南西方向から北上させる形に航路を取った。


 少し遠回りをするが、最早、武装帆船船団と認定した船団への攻撃態勢を整える為に必要な事だった。



 海自艦隊は、アディーレが率いる帝国艦隊に気付かれずに真後ろから迫る形で艦隊の横に付けて行く。


「ええいっ!伝令で伝えいっ!制圧作戦の中止っ!」


「竜空母艦と各艦に搭載してある飛竜隊発艦させろっ!手始めに新たに現れた見慣れぬ艦隊を血祭りに上げろとな。」



「男爵さまっ!アディーレ閣下には何も言わないのですか?」



「それくらいの事は分かっておるわっ!」


「アディーレ閣下にはご自身は艦隊に対して水上戦闘命令を発して貰い。」


「残る第3艦隊には、引き続きあの鉄船への攻撃を続けるように申しあげろっ!急げえええぇぇぇーーっ!」



「ははっ!!」





最高指揮官を前線に立たせるなんて非常識も良い所だが、この場合は仕方の無い事だった。


 伝令達は各々の飛竜にまたがり各艦へと向って行く。


 同時に帝国海軍は新たに現れた謎の艦隊に対して60匹以上物の飛竜が飛び立って行くのであった。





 現場に到着した海上自衛隊の救援艦隊司令官たる鈴置洋一等海佐は、自衛隊の伝統的な決まり文句である警告と撤退勧告を告げるべくマイクに手を掛ける。



「あーっ!あーっ!こちらは日本国海上自衛隊であるっ!この海域で我が国の船舶を攻撃して居る艦隊に告げるっ!」


「速やかに戦闘停止し、撤退か交渉会談。」


「もしくは武装解除されたしっ!!」


「返答か戦闘停止が無ければ、我が方は貴艦隊らを全力で全艦撃沈、又は拿捕する。」



「我々は無用な戦闘を好まない。速やかな良い返答を期待する。以上だ。」



帝国海軍に対して行き成りの降伏勧告に等しい要求を付きけた日本国。


 自衛隊には国防に関する事以外に権限がない為、同然の事ながら日本政府は、万が一異世界の『武装勢力』との紛争状態又は自衛戦闘に入った場合に置いて成るべく為らば、相手方の『武装組織』に対しての被害を最小限に止める様に通達されて居た。



これは日本国が伝統的な平和主義の下での非戦主義を貫く為の詭弁であり、本音を掻い摘んで言うと、



(つーか、捕虜を取るのってめんどくさいーしっ!!そもそもそんな法律の整備しようとしたら、万年野党の連中と反戦団体がちょーうるせーのよっ!!)


(他にも人権が守れえええぇぇぇーっ!!とか、憲法9条を無視すんなあああぁぁぁーーーーっ!!とか言うしさぁ!!正直言って超メンドサいの。カッタりーし、それーに、余所者を養う余裕は家の国には無いつーのっ!!)


(ただでさえ、不景気に借金と低所得の貧乏な人達と残留邦人の面倒で手一杯だっつーのっ!!)


(だーかーら、成るべくなら追っ払ってきてね。よろよろ。)噛み砕いて言うとこんな感じである。



まぁ、実際にこんな事を言ったら内閣解散じゃ済まない大騒ぎに成るだろう。



 それはさて置き、英国海軍紳士の伝統を受け継ぐ日本国海上自衛隊は、どんな事があろうと戦闘後の救助はキチンと行うので安心して貰いたい。



さて、海自の撤退勧告を受けた帝国海軍は、そう簡単には引き下がらなかった。



 特に冷静な判断力を持って居たアディーレは、日本国から来た言う海上自衛隊なる海軍をその目で注視していた。


 何せ日本側は、絶対に帝国艦隊に勝てると宣言したのだ。



虚栄心とプライドの塊であるローラーナ帝国の皇族と貴族が聞いたら激昂して突撃して来るのは間違いなかった物言いである。


 彼女は日本海軍の戦艦と艦隊構成を良く観察する。


 良く見ると砲台と思われる場所が、各艦に一門ないし、二門程度しかなかった。


 それを見た彼女は、これなら勝てると、この世界の常識に従って命令を発した。



「戦闘続行せよっ!!」


「日本国なる海軍は恐れるに足らずっ!!彼の様な少数の軍艦と砲門に何が出来るっ!!」


「それに我が軍でさえ、この激しい荒波で大砲を当てるのに難儀して居るのに、どれ程に事ができようかっ!!」


「我が艦隊はコヨミ水軍と日本海軍の撃滅を命ずっ!!」


「勝利すれば、コヨミの第一皇女を捕虜に出来る。」


「それに分けの分からん余所者に、我が領海内で好き勝手にされてなるものかっ!!」


「勇敢なる者共よっ!!掛かれええぇぇぇっっ!!!掛かれええぇぇぇっっ!!!掛かれええぇぇぇっっ!!!」


 帝国海軍の戦艦の各艦長は、護衛艦が射程に完全に入るのを待って各艦発砲開始。


一斉に「撃てーッ」と命令する。



 すると一隻に配備されて居る20門は在る大砲、合計で200門の大砲が護衛艦を射程に捉えると次々と一斉に火を噴いた。



 既に海自の護衛艦隊は、護衛艦の中でも比較的新しい方の古株で、艦隊旗艦をも務めた事も有るしらね型護衛艦・しらねを先頭に帝国海軍から5キロ地点の真横に入りつつあった。


 護衛艦隊は、帝国海軍の返答があくまで戦闘続行と言う返事を鉄の玉で受け取ると鈴置一佐は各艦に対して「水上戦闘よーいっ!!」と告げた。


 この異世界に措いて、初の帆船型戦列戦艦と護衛艦による海戦が始まった瞬間である。


 

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