3話 竜雲海沖海戦 1

 アースティア暦 1000年・西暦2030年・4月3日・午後11時30分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸東側地方・西太平洋地域・日本列島・日本国・南西諸島・沖縄諸島・沖縄県・那覇市内郊外にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 この日、夜間の当直勤務を終えた航空自衛官の長谷川健児一尉は、二つ年上の早瀬美加一尉と一緒にデートをしながら帰える所だった。


 相手の早瀬は空自基地の航空管制官の通信士で、真面目な性格だが気遣いも出来る女性で、頑固な一面をも持ち合わせて居る人物であった。


 翌日は非番予定だある為に、やや眠いが空自隊員として忙しい日々を送って居る二人に取って、偶にある休日は貴重なデート時間であり、長谷川はあわよくば早瀬を何方の家に入り込んでそのままベットへと・・・考えていた。


 そう二人は、付き合い始めて3年が経とうとして居るのだが、肉体関係はと言うと・・・・・・まだである。


 本人達もそろそろ肉体的関係も欲しい所だが、気がつけば口論になり、仕事でのすれ違いも多々あったが、ケンカするほど仲が良く、二人の周囲からは、もう夫婦で良いんじゃないか?と揶揄されて居た。


 そんな長谷川は、今日こそはと家に連れ込む決意を固めていた。


 そんな二人の出会いは最悪で、早瀬のしっかりした大人びた感じの雰囲気が通信を通じて感じて言った長谷川の一言が「何です?このおばさんっ!」と言う恐れ知らずな一言であった。


 当時の長谷川の自衛官としての階級は二尉たったので尚更である。


 そして、とうとう、やっとやっと・・・この日がやってきたと長谷川は思って居たのだった。


 一方の早瀬も数日前から非番の日や朝からそわそわして居るを見て、ひょっとしてと思って期待していた。


「みっ美加っ!きょっっ!今日さ・・・・家にこなぁ・・」


「えっ?」と赤らめる早瀬。


「ぴーっぴーっぴーっ」と無情にも、二人のスマホが鳴り響く。


 ええーーっっ!!何なんだよっ!この空気を読まないオチはっ!!


 天は二人をラブコメから大人の世界に連れ込もうとはしないかっ!!


 二人は不機嫌な顔してスマホをとる。


 手にしたスマホ画面を見ると、先輩であり自養子でも在る神谷一佐の名が出て居る事に、嫌な予感しかなかった。


「よぉっ!健児ぃっ!今日はこれから非番だったな?」


「先輩?・・・・・そうですけど・・・・・・」



 電話の主は自衛隊学校時代の先輩の神谷晶一等空佐であった。


 パイロットとしての腕が良く、出世しまくって居る空自航空隊のエースで、あの青い彗星と称さる池田秀三空将補の後を継げるかも知れないとの評判が立って居る。


 だがしかし、酒癖の悪さとと豪快な性格の性もあって曲者扱いに成って居る人物であった。


 一方の早瀬の方には、同僚の小野原一尉から残業扱いで戻れと言う命令が来ていた。


「どうしたぁ、何やら不機嫌そうだな?」


「ああ、そうかっ!そうかっ!早瀬の奴とヤル寸前だったか?そいつは残念だったな?がははははははっ!!」


「せっ、先輩っ!今は酔ってませんよね?」


「バーローっ!!!酒が怖くて戦ができるかっていっ!!!」


「だが、此処は日本だっ!」


「アニメか映画でもない限りそんな非常識ができるかぁっっ!!!」


「其れよりもだっ!ツイさっき家の部隊に、スクランブルが入った。」


「それもマジもマジ、大マジで戦闘付だぞっ!!」


「分かったら、とっと早瀬と基地に帰ってい来いっ!」


「分かりましたよ~」


「あっ!そうそう。」


「見っとも無いから、早瀬の下着姿で鼻を伸ばした顔を治して来いよ。それじゃな健児。がははははははっ!!」



 神谷は下品な捨てセリフを最後に電話を切った。


 お互いに電話を終えて振り返ると、二人はゲッソリとした顔に成り、ガックリとして肩を落として居た。


「ひょっとして、神谷一佐?」


「そう、ごめん行かなきゃ。」


「絶対に帰って来てね。私まだあなたと・・・・・」


「そっから先はパイロットに取っては、物凄く縁起が良くないから言わないでね。」



「昔からパインサラダと恋人の帰える約束と結婚話は戦闘機パイロットの禁句だからさ。」


「うん。」


「じゃ、もどろっか。」



 この二人の結婚と夜の営みは何時に成るのだろうか?



こうして、航空自衛隊那覇基地は戦闘態勢に移行したのである。




 アースティア暦 1000年・西暦2030年・4月3日・午後12時30分頃・アースティア世界・ユーラシナ大陸東側地方・西太平洋地域・日本列島・日本国・南西諸島・沖縄諸島・沖縄県・那覇市・航空自衛隊・那覇基地・格納庫内にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 デート先から長谷川健児一尉が大急ぎで那覇基地へと戻り、パイロットスーツに着替えて格納庫に来ると、既に戦闘機のパイロット達が集まって居た所だった。



直ぐに神谷一佐が集合を掛けると、そのままブリフィーングが始まる。



「遅れました。」



「構わんっ!さっさと並べっ!」



「敬礼っ!」



「休めっ!」



「さて、今回は安元総理や小西防衛大臣から直々の命令が出て居る。取り敢えずはこれを見てくれ。」



 本来なら危険と判断したなら即断するのが国防組織の使命である。



 その国防組織たる我が国の自衛隊は 陸海空の各地方部隊が自己判断の自主出動と言う事態は、他国の制度や体制に世論等の事情とは異なるのだ。


 そう、我が国の国民の目はとても厳しく、余り良い体裁では無い為に、素早い対応が迫られ、それに即応対処するべく、日本政府は緊急事態と言う建前を使って即時出撃を決めたらしい。



 神谷がパソコンを操作して、隊員達の目の前に用意されて居るスクリーンに映し出したのは、防衛省が今回の一件に伴い、調べられる限りの資料を掻き集める過程で入手した資料である。


 其処には那覇基地に送られた民間フェリーあさくら号の写真と詳しい概要の項目とこれまでの経緯が書かれて居た。



「コイツは民間船フェリー・あさくら号だっ!」


「このあさくら号は、一週間も前から突然に行方が分からなく成って居たが、つい最近に成ってから、救難救助要請を寄こして来た。」



「最初にSOSをキャッチしたのは、海保の巡視船だったが、現場に向うのに準備と空きの巡視船を現場に回すのに手間取って3日ほど掛かって居た。」


「そして、ようやく救助が向う事が可能な巡視船が見つかったんだが、今日に成ってあさくら号に向かって来る不審な帆船船団が確認された。」


「あさくら号は現在、異世界転移の影響のせいか、エンジンを損傷して居るが、故障具合は軽微で、応急処置で航行して居る。」



「さて、此処で問題なのは、その帆船船団だっ!」



「帆船船団は、武装して居るらしく。その武装して居る姿をあさくら号の船員が双眼鏡などで確認して居る。」


「武装は西洋風な甲冑姿で、帆船には多数の大砲も在るらしい。」



「最新の情報では、件の船団はあさくら号に接近するなり、行き成り発砲して来たと、先ほどあさくら号から続報での救援要請での通信にて、連絡して来て居る。」


「政府は既にあさくら号の護衛と救助をさせるべく、海自にも臨時の救援艦隊を二日前に結成させて出港させて居る。」


「その二日前に出発して居る護衛艦隊に対して、防衛省は新たに命令変更を伝えた。」



「詰まり、救助から救援に切り替える事と成った。」



「だが、どんなに頑張ったとしてもだ、護衛艦隊が現場への到着には、今暫くの時間が掛かるだろう。」


「俺達の任務は海自の都合次第たが、二通りを想定して居る。」


「一つは俺達が先に突入して武装船団をある程度、黙らせる事と。」


「二つ目は海自の艦隊が間に合い、俺達が支援に回る事だ。以上が今起きて居る状況説明だ。」


「何か質問は有るか?」



「有りません。」




「そうか。奇しくもこれがお前達と俺に取っても初の実戦だっ!」


「気が引ける奴、迷いの有る奴は、今からでも遅くない腹痛でも何でも良いっ!」


「悪い様にはしないから、出撃を止めて置けっ!」




 本来ならこんな事を言うのは不味いし、組織的にご法度な事だろう。



 神谷は気を利かせて初の実戦前に際して、部下らに出撃拒否の温情かけた積もりだった。



「居ないか?成らばヨシっ!」


「全員搭乗準備に掛かれっ!整備班は念入りに機体を整備をしてくれっ!」


「それでは解散っ!!」



「くくっ、心配は要らない様だったな。」



自衛官の任務とは言え、自衛官らも一人の人間でも有るのだ。


 上は総理から下は命令権持った上官等は、人を撃ち殺すと言う命令を部下達に言わなければ為らない。


 それも遠距離から・・・・引き金やボタン一つで・・・・ 神谷は隊員らの精神状態を心配しての問い掛けだったが、如何やら要らぬ心配だったらしい。



整備隊員らが整備を終わらせると、トーイングカーでF-15J戦闘機を倉庫から引っ張り出し、全ての機体にパイロットが乗り込む。


 第9航空団那覇基地所属のF‐15J戦闘機から成る航空隊は、出動が掛かって居る15機で編制された101小隊・202小隊・303小隊から成る小隊部隊は、正午を回った日差しが強く照り付ける中の滑走路に向って、一機づつ走しり出して行く。



「こちら那覇基地管制塔の小野原一尉です。」


「進路クリア、滑走路の使用を許可します。」



「101小隊、発進どうぞっ!」



「了解っ!サシバ01っ!、神谷晶一佐っ!101小隊っ!出撃するっ!」



 神谷一佐と彼が率いる第一小隊は、青い空へとアフターバーナーを勢い良く噴かして大空へと飛び立って行く。



「続いて202小隊、長谷川一尉っ!サシバ02どうぞっ!」



 声の主は早瀬一尉である。しっかりとした声で管制官としての役目を果たそうとしているが、少しだけ長谷川の部隊の時だけ声が震えている感じが出ていた。初の実戦に赴く彼が心配で堪らないのだ。



「了解っ!長谷川一尉っ!。202小隊っ!サシバ02発進しますっっ!」



「気をつけて・・・・・・」



 早瀬は小さく呟いて、彼の乗るF-15J戦闘機が飛び立つのを見送ったのだった。


 続く202小隊の隊員も大空へと出撃して行き、その後に速水勝二尉と303小隊と共に後に続いて出撃して行った。



 飛行隊は光り輝く太陽に照らされながら戦い赴いて行くのであった。






アースティア暦 1000年・西暦2030年・4月1日・早朝未明・アースティア世界・ユーラシナ大陸・ユーラシナ大陸東側地方・ロートレア地方・ドラグナー皇国(おうこく)・首都・新王都・ニューサリヴァン市・ニューサリヴァン港にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 此処は日本の沖縄県から南西へ約1300キロ。



 台湾から約250キロの位置に在る大陸国家、ドラグナー皇国。


 この国は聖なる龍と呼称されて居る聖龍と契約を結び、互いを支え合う聖龍騎士のパートナーとして戦う屈強な騎士達が活躍し、ドラグナー地方と国家を守る国としての名が、諸外国を知られて居た。



 この日、帝国東方領土であるシャッポロ領から龍雲海の帝国側領海の警戒をする為に、定期警戒任務に向かう艦隊が来訪して居た。



 新王都サリヴァン市・サリヴァン港を訪れたのは、アディーレ・グレッサ辺境侯爵艦隊司令官(少将)が率いるローラーナ帝国海軍東洋方面艦隊・第120艦隊は、30隻の艦隊と7隻の竜空母艦を率いて、サリヴァン港に寄港して来て居た。



 北には龍雲海の内陸海が広がり、シャッポロ領まで広がる景色は絶景で、その名はシャッポロ湾と呼ばれて居た。



 良く晴れた日には、対岸であるコヨミ皇国の北西部地方が、良く見える事もあり、稀に蜃気楼も見える事も在った。



 港に入港したアディーレら一行は、この国の第一皇女にして姫将軍たるヴァロニカ・サークラ・レアモンの出迎えと歓迎の言葉を受ける。



 軽い挨拶を交わした後に、ヴァロニカと別れたアディーレは、警戒任務前に行う為、最後の補給準備に追われて居た。


 この国は10年前に帝国に敗戦して属国の扱いを受けて居る。



 そして、現在は従属同盟に格上げこそ、されては居る物の、従属国と変わらぬ尚も酷い扱いを強いられて居た。


 港の半分や旧都、更に国内には帝国軍の軍事要塞や軍事施設が多く在り、ドラグナー皇国は自国内では、帝国に由って如何なる施設をも、好き勝手に建てられ事を強いられて居るのであった。


 その姿は丸でガン細胞に蝕まれた病人とも言えるだろう。



 帝国に成すが儘にされ、国内の統治が立ち行かなく成れば、その国は必然的に帝国に飲まれてしまう定めだ。


 王族の断絶、王族の親族としての同族化、そして国家破綻等がそれに当たる。


 況してや国内反乱や内戦などをすれば、それを理由にして帝国軍が派兵され、完全に乗っ取られてしまう事すら有るのだから厄介な事この上ない。


 



アースティア暦 1000年・西暦2030年・4月3日・午前9時00分・アースティア世界・ユーラシナ大陸・ユーラシナ大陸東側地方・ロートレア地方・ドラグナー皇国(おうこく)・首都・新王都・ニューサリヴァン市・ニューサリヴァン港にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 




 全ての準備が間も無く完了しようとしていた。



 ベン・ジョンソンと言うこの艦隊の副司令官を勤める男が、アディーレが居る部屋へと入り、全ての準備の進捗状況を報告をしにやって来ていた。



「侯爵閣下、間も無く出港準備が整いますぞっ!」



「分かった。」



静に返事をしたアディーレは、サリヴァン港の一番に良い区画を陣取って居る帝国海軍基地庁舎の一室に在るベランダから、出港準備に追われる海軍仕官達の作業の様子を見て居た。


 

 其処から見える景色には、ベランダから直ぐ目の前に港の船着場が広がって居る。



 地面を石畳みで綺麗に整えられた港を、海軍兵士と本国と属領徴兵された作業員や現地で雇われたドラグナー皇国の作業員が忙しなく動いて居た。



 50メートルある戦列艦の木造船と150メートルは在ろうと言う7隻の竜空母艦には、古の昔からワイバーンと呼ばれる騎乗する為に飼育された飛竜が積み込まれて居る。


 アディーレの艦隊がこの港に立ち寄り、敵との遭遇に備えて、多くの必要な補給物資を欲して居た。


 如何やらアディーレの艦隊は、母港であるシャッポロ領での補充する分の補給物資の調達が、上手くい行かなかったからだ。


 特に食料関係で、帝国のどの戦線にも潤沢に有る戦略的物資だが、どの軍属や軍団に艦隊等は物資の独り占めをしたがる輩は少なくない。


 下級将校の一人であるアディーレも、そんな出世競争と手柄の奪い合いの争いに苦慮して居る人物の一人だ。



 そんな訳で、比較的補給物資の手に入り易いドラグナー皇国に配備されて居た物資で賄われる事と成った。



 この世界での水上・海上・大河で戦艦を用いての戦争は、船数と大砲に弓矢に魔導師などの射撃武器と大砲を含めた大型兵器。


そして、竜と言う飼育された家畜兵器を多く揃えられるかに掛かって居る。


 定期警戒任務とは言え、かなりの量の矢と砲弾、水と食料を積み込んでいく。



 中には予備の槍や剣、弓の入った箱も見受けれられて居た。



 最後に最低限の船の補修材も積み込み終えると、いよいよ出港である。



「出港よーいっ!」



「海竜を港から出させろおおおぉぉぉーーーっ!!!」




 海竜とは海に生息する竜で、正式名称の名前はシードラゴンと言う。



 その姿は真っ青で首長竜に似ていた。



 更に首長で翼を広げた蒼色の竜、ハイ・シードラゴンの二種類が居る。


 船を引っ張って曳航させるに使うのはシードラゴンである。



 その泣き声は、イルカに近い鳴き声をして居た。



 港には寄港用と曳航用の2使用目的のシードラゴンが配備されて居る。


 艦隊の船は全長が約20メートル前後のシードラゴンに曳航され、龍雲海へと赴くローラーナ帝国海軍東洋方面艦隊第120艦隊。


 7隻の竜空母艦隊は、その船体の大きさからシードラゴンを1頭に曳航されながら航行している。



「全艦隊、艦隊陣形を整え終わりましたっ!」




 アディーレは副官の女性騎士に報告を受け、出港の号令を言った。



「全艦隊っ!龍雲海に向けて全速前進いいいいぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーんんっ!!!」



「了解っ!!全艦隊、龍雲海に向けて全速前進いいいいぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーんんっ!!!」



各艦の艦長も出港の号令を下した。



 出港準備と成った帝国艦隊は、龍雲海に向けて出撃して行ったのである。


 アディーレはこの出来事が切っ掛けで、彼女の人生を左右する動乱のへと巻き込まれてしまうのであった。




 アースティア暦 1000年・西暦2030年・4月3日・午前11時00分・アースティア世界・ユーラシナ大陸・ユーラシナ大陸東側地方・龍雲海・ローラーナ帝国海軍・東洋方面艦隊所属・第120艦隊 旗艦バローナ号船内にて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 午前9時に出発したローラーナ帝国海軍・東洋方面艦隊所属・第120艦隊は、龍雲海の名前が指し示す通り、霧が発生する中を羅針盤と船乗りの経験を頼りに、大海原を突き進んでいた。


 龍雲海の霧は昼でも濃い霧が出る事も在る海域だ。


 その厄介な海域を警戒監視をしなければ為らないローラーナ帝国海軍は、稀に起きるコヨミ皇国との遭遇戦を警戒して居た。


「くっ、相変わらず春先の龍雲海は霧が濃いな。」



 艦隊を指揮している女性の紹介がまだであったので、此処で紹介して置こう。



 彼女の名はアディーレ・グレッサ。


 ローラーナ帝国海軍東洋方面艦隊の第120艦隊司令官である。


 ロングの赤髪を海風が翻りながら指揮を取る姿と帝国にしては珍しい誠実で実直な性格で有る人柄。


 その人柄で在るが故に、指揮下に在る部下達からの信頼は、とても厚い人物で知られて居る。



「侯爵閣下っ!大自然を相手に文句を言っても仕方の無い事です。」



副官の女性騎士も濃い霧を忌々しく思って居る様だった。



 時間が経ち、日が大分昇った、お昼である正午を前にした時だった。



 ローラーナ帝国海軍東洋方面艦隊の視界を遮って居た霧が晴れ始めて来る。



「おお、これは運が良いな。段々と霧が晴れて来たぞっ!!」



「者共っ!周囲の警戒を厳にせよっ!!」



各艦の見張りの兵士らと数の少ない望遠鏡を片手に見る航海士と騎士らは、目を凝らして全ての方角に異常が無いかを探った。



 この龍雲海では、霧が発生する事が多い為、出会い頭の遭遇戦も珍しくないのである。



 艦隊は縦三列の従陣を敷いて居る。



 先頭から10隻つづ戦艦で固められ、後方に竜空母艦を配置して居た。



 それぞれの列の中央には旗艦が航行して居り、バローナ号は中央の艦隊に位置されて居る。



「ベンジョンさまっ!!」


「哨戒に出ていた飛竜隊の竜騎士からの報告で有りますっ!」


「東北の方角に見た事も無い船体の姿をした大きな鉄船を発見したとの事ですっ!」



 伝令の兵士が報告を副司令官たるベン・ジョンソンに伝えに来ていた。



「だーかーらーっ!!私の名はベン・ジョンソンと言っているだろうがっ!!!」



「何度言えば分かるのだっ!お前達はっ!!」



「はっ、申し訳ありません。ベンジョンさまっ!!」と部下はわざと言って居るかと突っ込みを入れてしまい兼ねない漫才染みた返答をしてしまって居る。



「くううううっっっ!!ぐぬぬぬぬぬぬっ!!!」とこの兵士は、ワザと言っているのだろうか? とか思ってしまうベンジョンは唸り声を上げてしまう。


 さて、何時も何時も名前を他者からベンジョンと言う風に、名前を間違えられて居るこの男に付いても解説して置こう。


 見るからに無駄に鼻の下に伸びきったカール状の髭とアゴ下の髭を髭を生やしていて、それを海風に靡かせながら、とてもお金の掛かった軍服を来て居る典型的なギャグマンガの様なキャラクター染みた風貌の顔付き。


 胸には貢いで手にしたであろう煌びやかな勲章が付けられて居るこの男は、成金で成り上がりの副司令官ベン・ジョンソン男爵。


 身分の上下を問うわずに、良く名前をベンジョンと間違えられる不憫で、しかもやられ悪役の定形の見本みたいな感じの男である。


 しかも、笑えるのか厄介なのかは分からないが、しぶといと言うスキル持ちだったりする。


 彼の副官として控えて居るのは、冴えない感じの男で、これまたギャグ漫画に出てくる様な風貌の顔付き。


 その風貌は見たまんまの使い走りみたいな男で、第一艦隊旗艦のバレーティアン号艦長のツカイ・パシリ大佐。


 丸で物語冒頭部分の第一回に登場するやられキャラクター様な三人と多数の指揮官の下で37隻の艦隊は動いて居るのである。



「それは兎も角。(良くないが今は任務が優先だ。)」


「アディーレ閣下には、この事を伝えたのか?」



「はっ!既に伝令の飛竜を飛ばして有ります!!」



 

 一方のバローナ号のアディーレは、ベンジョンからの伝令の報せを聞き付けて、自身の飛竜隊にも、発見したと言う鉄船に向けて哨戒偵察をさせていた。


 件の謎の鉄船こと、あさくら号の様子を哨戒偵察した竜騎士は、その巨大な鉄船を見て驚きを隠せない様子であった。



「確かに、ベンジョンさまの仰られた通りの報告だな。」


 

 あ~あ~、此処でも下級の仕官にベンジョンって言われる。



「隊長殿、此処は本隊へと一旦報告に戻りましょう。」


「あの船が民間船であれ、軍用であれ、我が艦隊が仕掛ければ、相手側からも大砲か弓矢での応戦は有り得ると思われます。」



「そうだな。良しっ!!各員っ!!一旦下がるぞおおぉぉぉーーーーっ!!!」



 隊長の号令の下、5騎の飛竜隊は艦隊へと帰還する。


 昔の地球でも、この異世界でも商船は大砲や傭兵を雇って航路での安全を確保するのが当たり前である。


 そんな常識が有る為か、竜史があさくら号船員達を説得力した事によりあさくら号は、偶然にも飛竜隊の空襲を避ける事が出きたのであった。


 飛竜隊がバローナ号に戻ると、ベンジョンが戦闘前のミーティング会議の為に飛竜に乗ってバローナ号を訪れていた。



「これはベンジョンさま。」



 飛竜隊の隊長が帝国式の敬礼を取る。



 だがしかし・・・・・ベンジョンは、名前を間違えた隊長を怒鳴りつけた。



「だ~か~ら~、私はっ、ベン・ジョン・・・・」と言い掛ける



「ベンジョ、済まないが後にしてくれないか?大尉、報告を頼む。」



「ぐぬぬぬぬぬぬっ!!」


ぷぷぷっ、今度はベン・ジョンで名前が切れて居る。



 こう言うやり取りのせいで、すっかり彼の名前がベンジョ成ってしまうとか、言い辛い事も有るとか無いとか。



「はっ!ご報告を致しますっ!!」


「この先を航行して居るのは巨大な鉄船で間違い有りませんっ!!」


「なお、彼の鉄船の国籍が分かる旗等は不明で、ハッキリして居ませんっ!!」


「国旗に見える様な旗は掲げられて居ますが、旗には白地に赤丸で描かれて居り、そんな旗を掲げて居る国はこの世界の何所にも在りません。」


「ですが、船体にはコヨミ文字が書かれて居りました。」



 コヨミ文字とはコヨミ皇国の文字で、日本語と同じ言語の事である。



「そうか。」


「しかし、我が帝国でも、大国に当たる他国でもすらも、巨大な鉄の船が新たに建造された話は聞いた事も無い。」


「となると、南方の亜人連合が極秘裏に建造でもしていのか、はたまたシベリナ連合が合同で全く新しい船を建造したのか・・・・・・」


「何れにしても疑問が残るが、どの道民間船の可能性は低いな。」


「此処は臨検して、敵勢力側であり尚且つ軍艦に適して居た場合は、接収も考えるべきだろう。」


「何所の組織か国かは知らないが、国籍がコヨミ文字。」


「通称暦文字と呼ばれるコヨミ皇国の文字を使用して居るのは、我が帝国の属国であるドラグナー皇国や敵方のシベリナ連合との関わりが有る国だろう。」



「その状況から考えれらるとするならば、敵国の可能性が極めて高いと思われるな。」


「ベンジョっ!貴様はどう思うか?」



「(くそっ、高が帝国の名のある格式高い貴族の出の小娘の癖にっ!!この俺の名前をベンジョンなどと真顔で間違って呼びおってからにっ!!ぐぬぬぬぬぬぬぬっっ!!!!)



「ベンジョっ!!おいっ!!ベンジョっ!!聞いて居るのか?」



「はっ!ですからっ侯爵閣下っ!!私はの名はベン・ジョンソンとっ!!」



 等々呼ばれる名前がベンジョ扱いで定着しちゃった。


 可哀そうに、実に笑える話だ。



「それは良いから、件の鉄船の事を貴様は、どう思うか?」



「(ぐぬぬぬっ!!此処は仕事を優先、優先。我慢、我慢っと・・・)」


「見慣れぬ船ならば、このまま乗り込んで取り押さえた方が手っ取り早いかと・・・・・・・・・・」



怒り心頭で沸騰しそうな真っ赤な顔に成りそうなのを必死に抑えるベンジョ、いやいや、ベン・ジョンソン。



「決まりだな。全艦隊に告げるっ!!全艦は帆をいっぱいに張り、全速前進せよっ!!」



「はっ!全艦っ!全速前進しますっ!!!全員配置に付けええええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!」


「鐘を鳴らせっ!角笛を吹き鳴らせええええええぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!いっぱに帆を張れええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!全速前進せよおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!!」



カンカンっ!!!カンカンっ!!!カンカンっ!!!カンカンっ!!!と銅鐘が鳴り響き、竜の角で作られた角笛が吹き鳴らせされた。



 これが、この世界での戦闘開始の合図だった。


 コヨミ皇国では、銅鑼と法螺貝を使う独特な戦闘開始の合図も有る。



 だが、この世界での一般的な物は前者と成るだろう。



 こうして、ローラーナ帝国海軍東洋方面艦隊・第120艦隊は、戦闘態勢へと移行して行くのであった。

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