動神檄機不 オルガル・ドライヴ

ちびまるフォイ

【第1話】戦うべき相手

G.F.214年


対地球外生命体迎撃兵器の運用はやがて軍事へと転用され、

国家未満の企業間での武力戦争への引き金を引いた。


大人たちは経験と知識や技術の損失を恐れて

子供たちを戦争の道具へと作り変え、歪んだ代理戦争へと堕してゆく。



そして、この物語はこれらの設定とは

全く無関係に進行することを誰もしらない……。



『目標、基地内部に侵入! 隔壁封鎖します!!』


通路に分厚い壁が降りる。

オペレーターも白兵戦に備えて重火器を手にした。


「父さん!!」


「ヤマト!? 避難したんじゃなかったのか!?」


「それはこっちのセリフだよ!

 すでにどこのシェルターもふさがってる!

 なのに父さんはこんなところでなにやってるんだ!」


「私にはやるべきことがある。たとえこの命を落としたとしても……!」


「命より大事なものなんてないだろ!」


「くっ! もう敵がここまで進行してるのか……!

 全員避難しろ!! ここは破棄する!」


「父さん!」

「司令! しかし……!」


「早く行け! 君たちまで失えばそれこそなんの意味もなくなる!」


隊員たちは顔を見合わせて小さくうなずくと、

それ以上司令になにかを言うこともなく緊急避難口へと向かった。


「司令……どうか、ご無事で」


「君たちもな。本当にありがとう」


敬礼とともにドアがしまる。


「ヤマト……こっちへ来るんだ」


「父さん? これは……!?」


ライトに照らされた巨大ロボットが目の前に現れた。


「ヤマト、お前はこれに乗るんだ。

 この中にいれば敵に襲われることもない」


「何言ってんだよ……何言ってるんだよ! 父さん!」


「ヤマト、お前の力なら敵を必ず倒せると信じている。

 だが……けして、その力の使いみちを間違えるな」


「父さん!!」


「ゆけ!!」


体を突き飛ばされたヤマトは強引に巨大ロボットのハッチへと滑り込んだ。

侵入者防止センサーが働き、ハッチは自動で締まりそれ以上の搭乗を拒んだ。


「父さん……!」


モニターにはもう爆炎で何も見えなくなっていた。


「父さん……俺、やるよ……。

 みんなのために、このロボットで敵を倒すよ!」



―― パイロット登録を確認。


―― 全システム殲滅モード起動


―― B-DRIVE システム 了承



「発進!!」


スラスターを起動させた。





『 システムファイルのアップデートが必要です 』



「は、はっしん!」


『 システムファイルのアップデートが必要です 』


「あれ? 動かない?」


『 システムファイルのアップデートが必要です 』


「ぐっ、このっ、えいっ」


『 システムファイルのアップデートが必要です 』


ロボットはOSのバージョンが古くて起動できなかった。

しょうがないので通信ケーブルを繋げてアクセスする。



『 ただいまダウンロードしています... 20/100 』



「毎回アップデートしておけよ……」


ロボットのコックピット内は娯楽要素ゼロ。


スマホでも持ち込んでおけば時間つぶしにはよかったが、

ちまちま進むダウンロードのバーを見ながらやきもきするしかなかった。


『ダウンロードが終了しました』


「よし! 起動!」


『インストール中... 11/100』


「ぬああああ!! 一緒にやってくれよ! ぬか喜びだよ!!」


すでにそこまで敵は来ているのにロボットは動かない。


『 インストール中... 98/100 』


「よし、もう少しだ……」


『 インストール中... 99/100 』


「あとちょっと……」


『 インストール中... 99/100 』


99%になってからさっきまでの1%から上昇するスピードが一気に落ちる。

ますますイライラしながらも、見守るしかない。


『 インストールが終了しました 』


「よし!! 行けるぞ! 発進!!!」


スラスターを全開にした。



『起動にはメモリが足りません』



「またかよぉお!! なんだメモリって!!」


ヤマトは仕方なくコックピットにメモリを増設した。

初めての機体なのでどこに何を繋げばいいのかわからず手間取った。


「はぁ……はぁ……もういい加減にしてくれ……」


ヤマトは再び起動シークエンスを開始した。


「システムオールグリーン。

 各パーツのメモリ容量確保完了。ばっちりだ!!」


スラスターを目一杯上げていく。


「ヤマト、敵を殲滅します!!」


ロボットがついに発進した。




『 バッテリー残量が2%を切りました 』



「うおおおおおおい!!!」


発進したとたんにロボットは残量が尽きて倒れてしまった。


「ちゃんと充電しておけよぉぉ!!」


ヤマトはいったん機体を降りてモバイルロボバッテリーを繋いだ。

充電が終わるまでエネルギーの無駄遣いを避けるため、

コックピットの電源を落として静かに待機する。


「あのバカ親父ぃ……」


真っ暗なコックピットの中で毒づいた。

そのとき、椅子の下に1枚の手紙があることに気がついた。


コックピット内の電気だけをつけて手紙を開くと、父親からだった。



『ヤマト。これを読んでいるころには私はもういないだろう。

 お前に伝える時間もないと思いこの手紙を残す』


「父さん……」


『昔から仕事ばかりでお前に時間を割いてやることもできなかった。

 私自身もお前のために作ったこのロボットを完成させることが、

 父親としての罪滅ぼしになるのではと思ってやっていた部分もある。』


『やがてお前の前に強大な敵が襲ってくるだろう。

 この機体は敵を倒すための矛でもあり、お前を守る盾でもある。

 けして人の命を奪う殺戮兵器などではない。忘れないでくれ』


『最後に、母さんのことよろしく頼む。

 私はヤマト、お前を愛している』


「父さん……!」



『 充電が完了しました 』



ヤマトはカッと目を見開いた。

すでにその目に迷いはなく自分がなにをすべきかがはっきりとわかった。


「父さん、俺はやるよ。敵を倒して必ず母さんも守る。

 俺がこの機体で大切なものすべてを守る!!」


機体を起き上がらせてスラスターを起動させる。

武器の装置をすべて解除して臨戦態勢を整える。


「発進!!」


壁を破壊して敵へと向かう。

そして、ヤマトは敵の真実を知った。




「あの、この研究所の電気使用料と通信量が未払いなんですが……」

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