第5話 救出
走れ、走れ、急ぐんだ。
俺は一心不乱に走り続けた。途中、連れていかれたのを知っていながら紗江先輩を助けなかった哲也に怒りを覚えたが、心のどこかでは分かっていた。哲也は俺が紗江先輩が好きだと気づいていたのだろう。だから、俺が人形作りに没頭し始めた時に顔を曇らせたのだ。
俺はなんて馬鹿だったのだろう。
駆け出した時、哲也に、緑色の屋根に白い壁の家が紗江先輩の家だと言われた。表札には紗江と書かれている、間違いない。家は鍵がかかっていなかった。
ドアを開けて靴を脱ぎ捨てる。いつもは気にもしない靴を脱ぐ時間さえもどかしい。
「やめて、離して」
二階からだ
「紗江先輩」
声のする部屋を開けると紗江先輩が押し倒されていた。ワイシャツのボタンが外れて僅かにブラジャーが見えている
「やめろ!!」
無道は俺に気づくと一瞬驚いたがすぐに掴みかかってきた
「お前、邪魔するんじゃねえ」
「先輩を、離せ」
こぶしが無道のみぞおちに入る
「ぐっ・・・」
無道は倒れこみ俺をしばらく睨んでいたが
「このままじゃ終わらないからな」と言い残して去っていった
「先輩、大丈夫ですか」
「うん、大丈夫。助けに来てくれてありがとう」
俺はその場に座り込んでうつむいたまま泣いた
「こんなことになるまで放っておいてすみません」
「武君のせいじゃないよ。これは私の問題だから」
「でも、僕がもっとしっかりしていればー」
先輩の唇が俺の唇をふさいだ
「大丈夫だから、ね?」
その笑顔はやはりとてもとても温かかった
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