あなたの笑顔でアイスは溶ける

女神なウサギ

第1話 紗江先輩

「これが試作品です」

俺は手渡された人形をじっくりと確認する。

「うーん、全体的にもうちょっと丸みが欲しいかな」

「ダメですか~」

「俺たち頑張りましたよ?」

「努力しているのは分かるけど、妥協はできないから」

不満そうな顔をして部屋を出ていく後輩2人を見送りため息をつく。

「大変そうだね、ごめんね」

「大丈夫ですよ紗江先輩」

柳紗江やなぎさえ先輩。俺の先輩で1つ年上の高校3年生。先輩と出会ったのは高校に入学してすぐの頃だ。

入学して間もない頃。教室の場所が分からない俺に先輩は優しく声をかけてくれた。

「君、新入生?」

「はい」

「そっか、もしかして道に迷っちゃった?」

「はい」

「どこにいきたいの?」

場所を伝えると先輩は部屋まで案内してくれた

「ありがとうございます」

「どういたしまして」

そう言って笑う笑顔が最高に綺麗でかわいくて。俺は思わず固まってしまった

それからしばらくしてこの学校の特色である民芸品を作るプロジェクトの説明会で先輩と再会。受験で忙しい先輩に代わり俺がプロジェクトのリーダーを努めている。

「私、たけし君に任せきりで」

「平気ですよ。俺がすきでやっているだけですから」

「ありがとう」

「じゃあ、俺は様子を見に行きますからまた後で」

「頑張ってね」

人形作りは服を染める行程と本体を作る行程が別々の場所で行われる。

「どう、調子は?」

「順調ですよ」

出来上がった人形用の着物は鮮やかな朱色に染まっている。

「うん、良い感じだね」

「ありがとうございます」

「道具の調子はどう?」

「うーん、今は何とか大丈夫ですけど」

調べてみるとかなり痛んでいる。

「これは買い換えだね」

「申請下りますかね?」

この学校では道具の買い換えはなかなか申請が下りない。

「なんとかするさ」

一通り視察を終えて次の場所へ行こうとしたその時。聞こえてきた女子たちの会話に足を止めた。

「ねえ、あの噂しっている?」

「噂?」

「ほら、紗江先輩の」

「あー、あれね」

「先輩もかわいそうだよね。あんなにかわいくて優しいのに許嫁としか付き合えないなんて」

「彼氏をつくってもすぐに親にばれて失恋でしょ?」

「そうそう。人生、何が起きるか分からないよね~」

あの、紗江先輩が?

そんなわけはないと思いながらも俺は盗み聞きを止められなかった。2人はそのまま歩いていき、俺は微かな不安を覚えてその場を後にした。

翌日、俺は人形の本体を作っていた。昨日の2人の話が気になって作業に身が入らない。挙げ句、後輩に作業が雑だと指摘されてしまった。

「一息つくか」

廊下で壁にもたれ掛かっていると紗江先輩に

声をかけられた。


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