第25話 岩崎くんは、毛虫が嫌い

 こんな話をダラダラやっている間に、昼休みも終わりが近づいてきた。


「よし、じゃあラスイチ! とっておきのネタを頼むぜ」


 運動部っぽいプレッシャーを宏樹くんがかけてきたけど、なにか面白いネタあったかなあ。しばらく考え込んだ末、そういえばこれは中学生の頃のネタじゃないけど……と、最近入手した岩崎くんの弱点を公開することにした。


「岩崎くんは、毛虫が嫌い」


「毛虫?」


「そう、毛虫」


 おそらく私しか知らないであろう、彼の一面。私は得意気に話を続ける。


「このあいだアメシロの大群見たときにさ」


 宏樹くんと香織がここでなぜか「あ、まずい」って顔をしたのは気になったけど、勢いのついてしまった私の口は、もう誰にも止められなかった。


「もう腰が引けて半泣きになってて、可哀想っていうか面白いっていうか」


 そしてそのとき。


 話しながらぶんぶん振り回していた私の腕が、いきなり背後から、誰かの力強い手で掴まれた。


「ちょっと!」と不満気に振り返った私の目に入ったのは、こめかみのあたりをピクピクさせながら、不気味な笑みを浮かべた(ただし目は笑っていない)岩崎くんだった。


「よう、重役出勤だな。体調崩したんじゃなかったのか?」 


 平然とした顔の宏樹くんの問いかけに、迷惑そうな顔をして岩崎くんが答える。


「昨日面白そうなことネットで調べてて、気がついたら明け方近くでさ。まだ寝られると思って横になったら、そのまま寝過ごしちまった」 


 私の勘は正しかった。やっぱり仮病だったじゃないの。


「そんなことより、なんでお前らは俺の話で盛り上がってるわけ?」


 黙って私の方を見る宏樹くんと香織。 

 ちょっと待って、私は宏樹くんの話を聞きたかっただけで、岩崎くんの話を聞きたいって言ったのは宏樹くんじゃ……。


「わ、私のせいじゃないってば」


 この窮地、どうやって脱出したらいいんだろう。

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