第23話 宏樹くんと彼の関係

 ──俺は中学でバスケやってたんだけど、身長がいまいち伸びなかったせいもあって、高校じゃレギュラー張るのはもう限界かなって思ってた。


 宏樹くんの話は、そこから始まった。


 ──そうかといって、いまから種目変えても中学からやってる奴を追い越すのはかなり難しいし……って考えてたところで、ハンドボール部の紹介を見つけてな。


 ボール競技だし、中学での経験者なんてほとんどいないから横並びスタート切れるだろうし、自分の運動神経自体にはそれなりの自信を持ってたし、これならいけるだろって入部を希望したわけ。


 で、どうも岩崎も同じようなこと考えてたらしい。新入部員は最初に自己紹介やらされるんだけど、発想がそっくりだってお互いに気付いたこともあって、最初から結構話す間柄だったんだよ。


 問題が起こったのは、入部してから二週間くらい経ってからかな。確かゴールデンウィーク前の出来事だったような記憶がある。

 練習が始まって、準備運動終わって基本的なパス練習に移ったあたりで、バスケのボールが転がってきたんだよ。ほら、曜日によってはうちとバスケ部、体育館シェアして練習してるだろ?


 で、うちの部員の邪魔になるようなところにボールが行きそうになって、岩崎の集中が途切れた。一緒にパス練習してた俺がもっと集中してたら、あいつの状態にも気付けたかもしれないって、いまでも俺は後悔してる。


 どうなったかって?

 あいつはパスを受け損なって指を痛めた。というか、突き指で済まずに骨折まで行ってたらしい。


 問題は、それでお終いじゃなかったってことだ。指を痛めて思わずしゃがみこもうとしたところに、別のボールが転がっていってな。ボールに足を取られて転倒、それも痛めたばかりの指をかばってたからうまく受身も取れなくて、そのまま腕までやっちまった。体育館を区切るネットをしっかり降ろしてなかったのが原因で、うちの部とバスケ部はあとで顧問からこっぴどく怒られたよ。


 それから?

 あいつは顧問の車でそのまま病院に連れて行かれて、右腕はしばらくギプスで固定。入部早々にどうしようもなくなったあいつは、結局退部を選択。スジは良かったから結構慰留されたんだけど、それでもスッパリ辞める決断したのはあいつらしいといえば、あいつらしいかな。


 あんないい奴の怪我と退部のきっかけを作っちまった俺は、せめて怪我が治るまではできるだけ学校生活のサポートをしてやろうって決めたんだ。それで世話焼いたりいろいろ話したりしてるうちに、今みたいな仲になった、ってわけだ。


「別に面白くもなかっただろ?」と言って、宏樹くんの回想は終わった。


「そんなことがあったんだ……」


 さも初めて知ったかのようなリアクションをしてみたけどそれは嘘で、私は岩崎くんの大怪我を知っていた。


 入学早々、彼が右腕をギプスで固定しているのを見かけたときは仰天して、新しい環境になったばかりの学校生活で苦労しないか、本当に心配したものだ。クラスも部活も違うし、接点すらない間柄だったから、どうしようもなかったんだけど。

 でも、そうか、宏樹くんがサポートしてくれてたんだ……。心の中でありがとうとお礼を言い、彼が良い友人を持っていることが嬉しくなった。


 お弁当を食べる箸がすっかり止まってしまっていた私に、香織が声を掛ける。


「智佳、お弁当食べないの?」


 あ。宏樹くんの話に思わず聞き入ってしまった。急いで食べなきゃ。


「早く食えよ。今度は古川の番だし」


 は? なんの話? という顔の私に向かって、宏樹くんは溜息をつく。


「岩崎の中学時代のこと教えるって交換条件、もう忘れたのか?」

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