ホモが好きな本郷センパイ
もりくぼの小隊
ホモが好きな本郷センパイ
グラウンドで練習中のサッカー部員が派手に転び、チームメイトが助け起こす光景をカーテンの隙間から眺めていた切れ長な瞳の美人があたしの隣で薄く笑みを作り唇を奮わせて囁くように呟きました。
「あれは……ホモね間違いない」
満足気にカーテンを閉めて白衣を翻して定位置であるクルクルと回る椅子に座るセンパイを横目で見ながらあたしは
「はぁ、そっすか」
気の無い返事をしながらセンパイの入れてくれたミルクチィを一口すすり、何事もなく練習を再開する爽やかなサッカー部員達を眺めた。
「あたしには普通に見えたっすよ?」
「わかってないわねあなた。あの一瞬で二人は愛を確かめあったのよ。そう、私にはわかる。あれはホモ以外のなにものでもないのよ」
「そんなもんっすかねぇ」
静かに熱く語り始めたセンパイを軽くいなしながら、あたしはセンパイの横に座ってミルクチィを飲みほしました。
センパイの名前は「
「ふぅ、やれやれだわ。あなたもそろそろホモに興味を持ってくれないかしら? せっかく「
「うわぁ、偏見極まりないっすねぇ~~」
あたしは大真面目なお顔で戯れ言をいうセンパイをヘラヘラとかわしながら文庫本を読むことにしました。
「は? ちょっとなにしてるのよ?」
「なにって、読書っすよ? 一応、部活動中ですから」
センパイとあたしは二人きりの文芸同好会です。二階の空き教室を使わせてもらって適当に読書して適当に月一くらいで小説とか書いたりして読みあったりしてます。センパイが白衣を着ているのはただのカッコつけのファッションみたいなもんです。センパイ自身は科学は苦手科目らしいです。そんな文芸同好会メンバーであるあたしの読書にセンパイはなにをイチャモンをつけるんでしょうかね?
「見ればわかるわ。あなたがいま読もうとしているタイトルはなに?」
「えぇっと……「オーラバトラー戦記」っす。これ、おとうの部屋からちょろまかしてきたんすけど、以外とおもしれぇんすーー」
「ーー違うでしょっ」
センパイはバンと対して強くもなく机を叩いた。なにが違うんでしょうかね?
「私があなたにオススメしたのは「溺愛調教」でしょ? ちゃんと課題に決めてあげたでしょ?」
「いやぁ、表紙絵とタイトルからちょっとハードル高すぎんなと思ったんでやっぱやめときました。さーせん」
「なっ、エロくてストーリーもしっかりしてて面白いのに、複数人のホモとか最高じゃないの」
「そうなんすかぁ。じゃ、この次は読みますから、今回はこれで」
「仕方ないわね。絶対よ、もう」
たぶん、この次も読まないと思いますけどね。ホモ以外なら検討するんすけど。
「……そういえばセンパイはホモ以外の恋愛はどう思ってんすか?」
しばらく黙々と二人で読書をして、ミルクチィを自分で入れ直している途中でなんとなくそんなことを聞いてみた。
「なによ突然?」
「いや、単純な興味です。センパイは普通の恋愛にも興味はあるのかなって」
まぁ、答えは予想がつくんですけど
「ノーね。普通の恋愛なんて私には時間の無駄だわ。ホモイズビューティフル」
ぶれないなぁ。最後になに言っちゃってんのか意味不明ですけど。
「いい、保坂さん。確かに種の存続として必要だとは私も思うこともあるわ。けど、それはーー」
なんだかセンパイのホモ語りがヒートアップし始めた時、突然ガラリと部室の扉が開かれた。
「ーーあ、ごめん。本郷ひとりかと思ってたから、で、出直そうかな」
やってきたのはいい案配に日焼けしたスポーツマンっぽい丸坊主の男子生徒でした。あたしと目が合うとちょっと言い訳っぽい事を続けながらペコリと頭を下げるのであたしもペコリと頭を下げる。どうやら、センパイの知り合いらしくセンパイはクスリと笑って椅子に座ったまま彼へと親しげに話しかけました。
「あぁ、大丈夫よ。気にしないで、それで、私に用事?」
「いや、あのさ、今度の山登りに俺の弁当も作ってくれるって言ってたの本当?」
「ええ、そのつもりよ? あ、迷惑かしら」
「そ、そんなことはっ。俺、めっちゃ楽しみだっ。それじゃ、また連絡する」
「うん、またね」
そんなやり取りを続けて、彼は爽やかに去ってゆき、センパイは部屋の外まで出て手を振って、何事もなかったように着席して読書を再開しました。て、いやいやちょっと待ってください。
「な、なんすかいまの?」
「え? なんの事かしら?」
センパイはしれっと首を傾げてるが、とぼけるには無理がありすぎますって。
「センパイ普通の恋愛に興味無いとかいいながらちゃっかり彼氏いるんじゃないすか」
「ちょっ、ちょっとなに言ってるの保坂さん。「
センパイはあたしの言葉に心外だと文庫本を弱く叩きつけてあたしに言いました。
「彼は私の大事なホモ友達よ」
「……ホモトモダチ?」
またなにか訳のわからない事をセンパイはいい始めました。
「彼の名前は「
「いやいや、あたしにはどう見てもセンパイの彼氏にしか見えなかったんすけど?」
「やめなさい保坂さん。それはホモである彼に失礼よ。松岡くんには好きな男の子だっているんだからっ」
「はぁ、そうなんすか?」
にわかには信じられないけどセンパイの顔は大真面目だ。とりあえず、色々聞いてみる事にしよう。
「ちなみになんで松岡センパイの好きな男の子がわかるんすか?」
「だって松岡くん好きなタイプは眼鏡が似合う空想癖な子だって。これは同じクラスの「
それ、もろにあなたの事を言ってんじゃないすかね? てか、ホモセンサーって……。そう言ってたって……。
「あの、つかぬこと聞くんすけどぅ? 二人はいつそのホモ友達になったんすか?」
「あぁ、クラスの子と海に言った時に、松岡くんも友達と来ててね。なんだかソワソワしながら私を岩影まで連れていって、そこでね、ホモ友達になったの」
それ、なんかシチュエーション的に告白シーンしか想像できないんすけど。
「よかったら、なんて言われて友達になったか教えてもらっても?」
「??? 今日は珍しくグイグイ来るわねあなた。まぁ、いいけど。えぇっと、「ホモが好きだ。付き合いたい」だったわね」
それ「本郷が好きだ。付き合いたい」が正しいんじゃないんすかね。この人たぶん告白されてるよ。
「うん、まさか私も趣味の「ホモ観察」を他人に知られてるとは思わなかったわ。しかも、一緒に付き合いたいって言ってくれたのよ。正直、ちょっと嬉しかったわね」
ホモ観察とはセンパイが休日に街を練り歩きそこら辺の男の人をカップリングさせて楽しむというなかなかにヘビーな趣味です。センパイのお腐れになった脳みそはどうやら自分のいいように解釈して、松岡センパイの告白をねじ曲げてしまったようです。
「ところで、お二人でホモ観察は何回か行ったんでしょうか?」
「そうねぇ、映画とか、本屋とか、ファミレスに、動物園、遊園地。あ、もう一回二人で海に行ったわね。いやぁ、松岡くんのおかげで妄想が捗ったわねぇ。やっぱり色んな所に行ってホモを見るべきだと改めてーーーー」
完全にデートしてますわぁ。絶対松岡センパイ彼女だと思ってるわあぁ……。なんで、この人好きになっちゃったのかなぁ。
「やっぱりお二人は恋人同士だとあたしは思うんすけどね。松岡センパイの方は絶対にそう思ってるに違いないっす」
「もう、またそんな事を、松岡くんに失礼よ。全く、保坂さんは面白い事ばっかり言って」
「……あたしは本郷センパイの頭の中の方が百万倍面白いと思うっす……ハァ」
まぁ、あたしがとやかく言ってもしょうがない。松岡センパイには本性がバレるまでいい夢を見て貰いましょう。
「いい天気っすねぇ」
「そうね、絶好のホモ日和だわ」
カーテンの隙間から覗く青空を見るいつも通りの本郷センパイの横顔はちょっとだけ楽しそうにあたしには見えました。
ーーーー終わり。
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