薄暗い心、部屋、君
朝だった。いや、昼だった。一般的に11時はもう昼にカウントされるだろう。10時はまだ朝か?いや昼か?曖昧だ、数字だけが浮き出ててその他はピントがズレてるみたいにぼやけてる。
ロフトベッドを転がり落ちて、地面に敷かれた服をまとう。扉を開けるとそこでは、頂点に差し掛かる前の陽の光がカーテンの間を通り抜けていた。冷たい床、きかない暖房、軋むソファー。そのどれもが、僕の日常の代名詞と言っても過言ではなかった。玄関の扉を開けると冷風が僕を包み込んで身震いをさせる。薄暗い洞窟のような階段を駆け下り、自転車に跨る。冷風は逃がさないとばかりに身体にまとわりついて、目を、喉を、襲う。ふと、白昼夢を見た気がする。いや、おそらく見たのだ。それはとても心地よくて、白くて、暖かくて、薄暗かった。その暗がりの中でふと、ボヤけた輪郭が見えたから、目を凝らした。その顔は微かに微笑しているようだった。恐らく君だったと思う。綺麗だったから、ちょうど菊の花みたいに萌えていて、だけど、薄暗い背景とどことなく調和していた。僕の両腕は柔らかなその地面の中へと沈みこんでいて、目線の外で何か規則的な破裂音がする。更に君の顔を覗き込むと紅潮しているのが分かった。頬に触れると熱かったが、頬に触れる度に君の冷たい手が僕の手の甲を優しく握るので、僕は何故かおかしくなって、笑ったんだ。ふと、目が覚める。気がつくと駅の前にいた。見掛け倒しのこの駅には特に抜きに出ていいところはなく、勘違いしていた頃の僕によく似ていた。身を翻してみると、休日の昼にも関わらず車は忙しく往来していて、人々は早歩きに改札へ向かうための階段を駆け上っている。自転車を停めて鍵をかける。君を探す、改札の前で待ち合わせの君を探す。気体の粒子のようにあっちこっちへと自由運動を続ける人間たちの中でただ一人、立ち止まってソワソワと辺りを見渡す君を見つける。僕は嬉しくなって、笑って駆け寄った。君は、はっとこっちに気づくと手を振った。
「まった?」
「ううん?別に」
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