第251話 小さな宝剣の下で

「適当な男だねぇ、おたくのボスは」


 フォージの名をかたった男はゆらゆらとグラスを回し中のワインを遊ばせる。


「アイツは多分偽名を使ってる、恐らくリーナだ、前もそうだったから間違いねぇって……多分なのか恐らくなのか間違いないのか……どうなんだよって話だぜ。もしおたくが違う名を名乗ってたら、俺もおたくも危なかっただろうによ」


 そう愚痴ぐちると男はクッとワインを飲む。向かいに座るリンは「まったく同感だね」と同意しシチューを一口。


「最後の最後に帳尻合えばそれでいいって考えてんだよ。ホント適当なおっさん……ところで……」


 リンはパンを千切りながら目の前の男に目をやる。


「こちらのおっさんは一体誰だろか……情報屋さん?」


 リンがそう尋ねると男はニヤリと笑い「当たりだ」と言ってグラスを置く。


「ま、今回はただのメッセンジャーみたいなもんさ」


 情報屋はそう言いながら上着のポケットから小さく折り畳まれた紙切れを取り出しリンに差し出した。


 デバンノ宮殿正門前で偽りの再会を果たした仮初かりそめの叔父おじめい。門兵が見ている手前その場で叔父おしと名乗る男の正体を確認出来なかったリンは、一先ひとまずノリを合わせつつ男を連れてその場から離れた。そして宮殿から少し離れた場所にある食堂に入ったのは、城や宮殿の者達の目を気にしたからに他ならない。


 リンは差し出された紙切れを広げて中を確認する。紙には特務部隊シャーベルが潜伏しているいくつかの宿の情報が記されていた。


「なんだ……連中もう王都に入ってるんだ。これおじさんが調べたの?」


「調べたって程の事じゃねぇよ。おたくのボスに頼まれてな、ちっと探った程度さ。おたくのお仲間……バッサムって言ったか? その兄ちゃんとも接触済みだ、おたくの状況を伝えてある。で、こっちがおたくのボス、本物のフォージからだ」


 情報屋はもう一枚紙切れを取り出した。再び中を確認するリン。こちらの紙に書かれていたのはフォージの現状。上手くルバイットを口説くどけた事、他幹部三人がそれぞれの部下達と共にこちらについた事、そしてこの王都にて網を張る準備を進めている、との内容だった。


 紙切れをを閉じるとリンは口を尖らせ「ふ〜ん……」と声を漏らす。納得がいったのかいっていないのか、微妙な反応だ。「良いしらせだったか?」と情報屋が問う。


「……どこまで計算してるんだか。ホント、帳尻合わせるのは上手いんだよね」


 どこか呆れた様にそう答えるリン。しかしその反応からして悪い内容ではなかったのだろうと判断した情報屋は「そりゃ何より」と笑う。


「それと……こいつぁサービスだ」


 情報屋は更にもう一枚、紙切れをリンの前に差し出す。「何枚出てくるの?」とリンは笑う。三枚目の紙切れに記されていたのはとある単語と住所だった。


「リンバネル……って、主神ラグメラの宝剣だっけ? これ、どっかの店の名前?」


「ああ。南方の神々との戦争で振るった神の宝剣……俺が良く使ってるバーの名前だ。そこのマスターにな、ベルマレットの五十年物をくれと頼め」


「ベルマレットって……王族が飲む様なお高いワインじゃないの」


「そうだ。あんな小さくて汚ぇ店にゃ置いてるはずもねぇ超高級ワインだ。だがそいつが合言葉、地下の部屋を使わせてくれる。密会するにゃ持って来いってな。マスターもよ、リベットでも打ち付けてふさいでんじゃねぇかってくらい口が堅ぇ。おたくの都合が良いなら取りえず今夜、その店でお仲間達と会えるように段取るぜ?」


「まぁ……あたしの都合は問題ないけど……随分とご親切だわね」


「何事にもバランスってもんがある。メッセンジャーとしちゃあもらい過ぎだって思うくらいの報酬でね、こいつを付けて丁度良い塩梅あんばいだ。あ、部屋代はおたくらで払えよ?」


「ふぅ~ん……」


 リンはまじまじと情報屋の顔を見る。誠実……いや、公正公平と言う方がしっくりくるか。普通ならば少ない労力で多くの報酬を得るのは喜ばしい事だろう。ラッキーであると。だが目の前の情報屋はそれを許せないらしい。過不足なく仕事をこなす、そう考えるタイプの様だ。


(バカ正直……だけど……)


 一口に情報と言ってもその性質は様々だ。ものによっては、そして扱い方によっては、その身を危険にさらす可能性だって充分にある。ゆえに情報とは単に金だけでやり取りされるものではない。信用というテーブルの上でこそ取引が成り立つのだ。相手を信用しているからこそ情報を渡す、相手を信用しているからこそ情報を信じる。そこに金が付随ふずいするだけ。


 如何いかにして信用を得るか。


 情報を扱う者としてそこは重要なポイントだ。今日初めて会った相手を一体どこまで信用するのか。正直であるというのは判断基準の一つであり、少なくとも悪い印象は与えない。同じく情報を扱うリンの目には、現時点でこの情報屋は最低限信用に値する者であると映った。


「ねぇおじさん、このままメッセンジャー続けない? 稼ぎ時だと思うよ。勿論情報あったら買うし……どう?」


 それは情報屋にとって予期せぬ提案だった様だ。少しばかり驚いた表情を見せた情報屋はしばしの沈黙ののち「……正直気にはなる」と答える。しかしすぐに首を左右に振った。


「……が、止めておく。どうにも嫌な予感がするんでね、しばらく王都を離れるさ」


「あらら、もったいない。度胸ないなぁ」


「何とでも言ってくれ、欲をかくと痛い目を見るもんだ。俺は細く長くやっていければ良いんだよ」


 そう話すと情報屋はグイッとワインを飲み干し「あとはおたくらだけでがんばんな」と言って席を立とうとする。リンはすかさず「待った!」と呼び止めた。


「おじさん、名前は?」


「……ラスードだ」


「偽名?」


「さてな……ま、上手くやりな」


 そう言い残しラスードは店を出る。リンは千切ったパンを頬張ほおばった。


(嫌な予感ねぇ……そんなもんビッシビシ感じてるっての……)



 ◇◇◇



(ここか……やっと見つけた。ちょっと遅くなっちゃったな……)


 その夜。仕事を終えたリンは情報屋に紹介された店、リンバネルを訪れた。宮殿を出るのに思いのほか時間が掛かったのは、こんな時間にどこへ行く? 男とでも会うのか? 私も連れて行け、などと絡んできたファイミーをくのに手こずった為だ。


(しっかし……随分小さい宝剣だこと……)


 北方神話の主神ラグメラの宝剣リンバネル。神話ではラグメラの身のたけを超える程の大きさだと記されている。その切れ味は神の宝剣の名に相応ふさわしくすさまじいもので、ラグメラが宝剣を振るいその衝撃で出来たのが大陸南部の長大なミレー渓谷けいこくだと言われている。


 が、この店はどうか。


 大通りの奥の奥、曲がりくねった路地裏にひっそりと……いや、こっそりと身を隠す様にたたずむ小さな店。店が小さければでは看板は? 言わずもがな、である。その小さ過ぎる看板は目に留まらぬ事け合いで、事実リンは三度、四度と店前の狭い通りを往復し、ようやくにしてリンバネルの文字を発見したのだ。名前負けにも程がある。リンはそう思った。


「こんばんわ~……」


 古めかしい扉を開けるとそこはカウンターしかない縦に長い店内。客はいない。狭い。いや細い。マスターはチラリとリンを見ると「何にします?」とまだ席にも着いていない内に注文を聞いてきた。


「ベルマレット下さい。五十年物がいいなぁ」


 リンもリンで席に着く素振りなど一つも見せずにそう答える。他に客がいないのだ、小芝居を打つ必要はない。と、そう思いつつもしかし、合言葉はしっかりと伝えた自分の行動が少しおかしく思えた。


「あんた、リンだな? お友達はもう来てるぞ」


 マスターはそう言うと入り口のすぐ横の扉に向かい魔法の鍵マジックロック解錠かいじょうし扉を開けた。「ありがと」と礼を言うとリンは扉の奥の階段を下りる。地下には一階と同じ大きさのスペースがあった。恐らく以前は地下にも客を入れていたのだろう。いくつかの小さなテーブルとそれを囲う椅子が乱雑に置かれている。

 そんな地下の一番奥から「おう、来たな」と声がした。フォージとバッサムがテーブルを囲んでリンの到着を待っていたのだ。


「ごめんね、遅くなって」


「いいさ。まずは一杯」


 フォージはそう言うとグラスをリンの前に置きワインを注ぐ。注がれた、恐らく安物であろうワインを見て「ベルマレットがいいなぁ……」と呟くリン。フォージは「ハッ!」と笑う。


「全部終わったら飲ませてやるよ。祝杯ってヤツはあとに取っとくもんだろ? んじゃ始めようぜ」



 〜〜〜



「――て事ぁ、まだ取っ掛かりを探ってると?」


「ああ。さすがのシャーベルも今んとこ手詰まりの様だ」


 バッサムは軽く肩をすくめるとシャーベルの現状説明を続ける。


「先行して王都に入った隊員らも色々調べた様だが、第二王子は宮殿に籠もったっきり一切外に出てねぇらしい。ま、命狙われてた訳だから当然と言えば当然だが……姿を見せねぇんじゃやりようがねぇ。まさか宮殿に特攻かます訳にもいかねぇしな。だから今は徹底して使用人や出入り業者、警備体制なんかを調べてる。宮殿への侵入ルートを探る気だ」


「なるほど。で、肝心の警備はどうだ?」


「抜かりなしって感じ」


 リンはそう言うとバッサムと同じく肩をすくめる。そして何やら紙を取り出しテーブルの上に広げた。それはデバンノ宮殿の見取り図だった。リンは見取り図を指差しながら宮殿内部の説明を始める。


「三階のこの一画が王子の居住スペース。こことここ……あとこことか……とにかく立番の衛兵が多い。詰所つめしょは二ヶ所、こことここ。巡回の頻度も多いし何かあればすぐに城からも増援も来る。侵入は難しいと思うよ」


「こりゃ確かに堅ぇな……」


 食い入る様に見取り図を見ていたバッサムが呟く。そしてグッとワインを飲むと「その上王子にゃ腕の立つ側近達がいるんだろ」と言って左腕で口元をぬぐう。


「うん。カーン隊の攻撃しのいでここまで逃げて来ただけあるね、みんな強いよ。殺し屋みたいなヤツとか、ハートバーグ家の次女も相当だけど……やっぱ凍刃とうじんだね。あのジィちゃんはヤバい」


「魔導師は……どうだ?」


 フォージは静かに問う。やはり同じ魔導師としてどの程度の者が王子の側に控えているのか気になるのだろう。フォージの問いをそう解釈したリンは「やっぱそこ気になるんだ?」と笑う。しかしフォージが知りたかったのはそこではなかった。


「ハートバーグ家の長女でしょ? 実はね、まだどんなもんか……」


「違う、男だ。いるだろ? 雷使う奴が」


「ああ……迅雷じんらいね。う〜ん、そっちもよく分かんないな。魔法使ってるとこ見た事ない。てかそんなスゴいヤツなのかな? なんかほわんとしてて……噂ばっかデカくなったって類いじゃ……」


 リンの憶測おくそくによる迅雷じんらい評が続く。しかしフォージの耳にはあまり届いていなかった。「そうか……やっぱアイツが迅雷か……」とフォージは呟いた。


「なにフォージさん、会った事あんの?」


「ん? あぁ、まぁな。そいつにられかけた」


「…………はぁ!? なにそれ!」


 リンは驚いて声を上げた。フォージは決して弱くはない。仮にシャーベルの連中が相手であろうと、正面からやり合えるのであれば遅れを取る事なんてないのだと、リンの記憶の中にあるフォージの姿が強烈にそう訴えていた。


「カーンを仕留めたのは迅雷だ。たまたまその場に出くわして、王子の側近を助けてそのまま今にいたる……ってな。俺もその時にしてやられた。んで、あとんなって思い出したんだ。ジョーカーの内部抗争で名を上げた迅雷っつう魔導師の噂……雷使うヤツなんて他に聞いた事がねぇ、恐らくアイツがそうだったんじゃねぇかってな」


 殺されかけたいうのにどこか他人事ひとごとの様に話すフォージ。何なら軽く笑みまで浮かべながら話すそのさまを見てリンはモヤモヤとした。リン自身分かっているのだ。フォージは大局たいきょくで物事を見ている。最終的な目的さえ達成出来るのであれば、その過程にはさしてこだわりを持たないという事を。


 帳尻を合わせるのが上手い。


 リンがフォージをそう評しているのはそういう理由からだ。答えさえ合っていれば計算式は問わない。つまり現状で言えば、ナイシスタの命をれるのならばそれ以外の誰を倒した倒されたなどとそんな事はどうでも良いと、フォージはそう考えてるのだ。分かっている。分かってはいるがしかし、素直に納得出来る話ではない。うつむき、そしてチラリとフォージを見てリンは「……盛っとく?」と問い掛けた。


「何を?」


「……毒」


「はぁ? 誰に?」


「迅雷だよ!」


「何でだよ!」


「なんでって、意趣いしゅ返しでしょ! やられっぱなしでいい訳あるか! だってフォージさんは……フォージさんは負けちゃダメだろ!!」


 必死の形相で怒鳴るリンを見てバッサムは小さく笑った。


(フフ……何だかんだ文句言いつつも、こいつはフォージさんをしたってる。負けたなんて認められねぇわな)


 リンのあまりの勢いにフォージはたまらず「待て待て!」と両の手のひらをリンに向ける。


意趣いしゅ返しってんなら再戦させろってんだ、何で毒盛るんだよ」


「だって負けたらイヤじゃん……」


 ブスッとするリンを見て「お前時々過激思考になるよな……」と呆れるフォージ。


「まぁ確かにムカつくし楽しかねぇ話だ。だが今となっちゃ好都合。迅雷に凍刃……頑丈な盾が王子を守ってんだ、お前の負担も減るって話だろ」


「そりゃそだけども……でも……」


 下を向いてもごもごと口ごもるリン。しかし次の瞬間顔を上げると「……あ、毒で思い出した!」と再び声を上げた。


「何だ?」


「実はね、あたしらとシャーベル以外の別勢力が動いてるよ」


「何!? 別勢力って……」


「軍人だよ、フォージさん。タグべの軍人連中。カーン隊に協力してたのがいたでしょ?」


「あぁ、そう言やいたな。国をててイオンザに取り入ろうってクソ軍人共だ。手土産がありゃ待遇が良いっつって裏でコソコソやってやがった……そいつらが動いてんのか?」


「そ。メイドの一人をたらしこんで、テダーラの根を使わせて王子を始末しようって」


「な!? 毒殺かよ!!」


 フォージは驚きのあまり立ち上がって声を上げた。そもそもダクべの軍人まで王子の命を狙っているというのは予想外だった。いや、小者過ぎて視界に入っていなかったというのが正確な所か。出世欲に飲まれただけの中途半端な連中に王子の命をられるなど冗談ではない。しかしすぐにフォージは眉をひそめながら腰を下ろす。


「でもお前……そんな騒ぎ噂にもなってねぇぞ?」


「そらそうだよ、騒ぎになる前に潰したもん。このスーパーメイドのリーナちゃんがね!」


 ビシッとそれらしいポーズを取るリン。だがすぐに表情が曇る。


「でもね、そう何回もって訳にはいかないよ。さっき頑丈な盾が揃ってるって言ってたけど、でもその盾はこっちの事情を知らないんだ。正面から打たれたら盾だって構えられるよ? でも死角からブスリって刺されるんじゃ……盾なんて無意味でしょうよ……」


 そう愚痴ぐちって項垂うなだれるリン。バッサムはリンのグラスにワインを注ぎ足す。


「結局ん所、シャーベルが動くまではスーパーメイドさんが目ぇ光らせとかなきゃならねぇ訳だ」


 そんなバッサムの言葉、そしてその口調から少し小馬鹿にされた様な印象を受けたリンは、ジロリとバッサムを見ると「むぅ〜……」とうなる。


「ナイシスタも当然内部の人間使うのは考えてるだろうし……あたし一人じゃ手も目も足りないっての!」


 リンはそう怒鳴ってさでも晴らすかの様にグイッとワインを飲み干す。そして「ん!」と言いながら空のグラスをバッサムに向ける。バッサムは「ククク……」と笑いリンのグラスにワインを注ぐ。


「さてフォージさん……」


 ワイン瓶をテーブルを置くとバッサムはおもむろにフォージを見る。


「話を聞く限り色々段取ってるってのは分かった。だがそろそろ全容を教えてくれねぇか。あんたの

一体どんな絵ぇ描いたんだ? 幹部四人も丸め込むなんて並の事じゃねぇ。どんなペテンかました?」


「おい、人聞き悪ぃぜバッサム。でもまぁお前の要求は当然だ。勿論話すぜ、だがその前に重要事の確認だ。リン……」


「なに?」


「第二王子は戴冠たいかんを決意したか?」


(……? 何でそんな事……)


 イオンザの後継者問題が一体何だと言うのか。バッサムはリンに対するフォージの問い掛けに疑問を感じた。そもそもおかしいと思っていたのだ。第二王子が毒殺されかけた話を聞いた時のフォージの反応だ。

 第二王子はナイシスタを誘い出す為の餌。当然事が起こるその時までは無事でいてもらわなければならない。だが先程のフォージの慌て振りは、まるで第二王子に釣り以上の価値を見出みいだしているかの様な感じだった。そして恐らくはリンも同様の疑問を感じているのだろう。いぶかしげな表情を浮かべたリンは少しの間ののち「……多分」と答えた。


おおやけに発表はされてないけど、なんとなく分かる。雰囲気とか空気感……最近王子は毎日の様に城に行って国王や将軍、各省のトップ達と会談してる。それに地方の貴族がこぞって王都にやって来て王子に謁見えっけんしたりとか……軍の動きも慌ただしくなってきたって……あ、あと王子襲撃の時に生き延びたイオンザ兵達が城に来た。そのまま軍の宿舎に入ったよ。それと……」


 指折り数えながらその根拠を話すリン。フォージは「あぁ、もう良いぜ、充分だ……」と言うと椅子の背にもたれて腕を組む。


「物事の起こりにゃあ原因ってもんがある。今言ったそれらを全部辿って行くと、行き着く先は一つしかねぇ。恐らくはリン、お前の見立て通りだ。王子はこの国と準備を始めたのさ。イオンザの玉座に座る準備……言い換えりゃあ……いくさの準備をなぁ!」


 バシッとフォージは右の拳を左の手のひらに打ち付ける。


「よし……よしよし! そいつが最後のピースだったんだ……ようやく全部ハマったぜぇ!」


 バシバシと二度三度拳を打ち付けるフォージ。しかしバッサムとリンには何の事か訳が分からない。「そいつがハマりゃどうだってんだ?」と、バッサムは少しばかりいらついた様子で聞いた。そんなバッサムを見てフォージはニヤリと笑う。


「あぁ、慌てんな。ちゃんと覗かせてやるさ、俺の頭ん中をなぁ。良いか、まずはな――」



 〜〜〜



「ちょ……と、待ってくれよ……」


 バッサムは大いに困惑した。フォージの考える計画、その全てを聞いた。が、理解が追い付かず言葉が上手く出て来ない。


「あ〜……フォージさん、そりゃあ……」


 何とか言葉をひねり出そうとするバッサムだったが、それを押し退ける様に「……正気!?」とリンが声を上げた。


「それ……ルバイット達が飲んだの?」


「ああ、飲んだ。何の事ぁねぇ、幹部連中もうんざりしてたのさ。今の団の空気ってヤツになぁ」


「信じらんねぇな……」


 ぼそりとバッサムが呟く。「だろうな」とフォージは返した。


「お前らの気持ちは分かる。だがこれが真実であり全てだ。お陰でこっちの問題は全部片付く。連中の手を借りてシャーベルを追い込み、事が終わりゃあセンドベルに残ってる連中の部下が子供らを救出してくれる手筈だ。まぁちっと代償ってヤツが必要になるが、お前らには直接関係ねぇしそもそも大した重いもんじゃねぇ」


 少しの沈黙ののち「ふぅ……」とリンは静かに息を吐いた。


「なにがなんでも王子守んなきゃいけない訳か……」


「そうだ、リン。お前にゃ負担掛けるが頼むぜ。バッサム。手ぇ伸ばしゃあナイシスタの首がある状況だ、抑えんのは辛ぇだろうが……はやるなよ? ここで下手ぁ打つ訳にはいかねぇ」


「分かってる。五年待ったんだ、あともう少し……待てねぇ道理はねぇよ」


 バッサムはそう言うとグラスを持って前に突き出す。フォージとリンもそれぞれグラスを持つとカチンと合わせ、三人共にグラスのワインを一気に飲み干した。

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