第179話 殴り合い
(さて………………どうする……?)
早速行き詰まってしまった。
アイロウとの戦いが始まりの程なくして、早くも打つ手がなくなった。正確に言えば打つ手自体はあるのだが、そこに至る
戦う
例えば普段
いつの日か、そんな規格外の大魔導師と本気で戦ってみたいと
では目の前のこの男はどうか。悪名高き傭兵団、ジョーカー最強と呼ばれる魔導師、アイロウ。とてつもなく強い、それは間違いない。こちらの攻撃のその
しかしそれでもレイシィと比べればやはり下。アイロウとレイシィが戦ったとして、アイロウが勝つイメージなどまるで湧かない。それくらい我が師である狂乱、ドクトル・レイシィは凄まじい。つまりアイロウに勝たずして、レイシィ近付く事など出来やしない。
(えぇい! 待っていてもしょうがない!)
そう、ただ待っていてもどうしようもない。現時点では明らかに俺の方が格下だ。自分より強い相手に受けに回っていても勝てはしない。こちらからどんどん仕掛けるのだ。頭の中でプランを練る、どう攻撃を組み立てればアイロウに届くのか……
(よし!)
魔弾を放とうと右手を前に出す。しかし出鼻を
(クソッ、上手い……)
アイロウは明らかにこちらの動き出しを狙ってきた。これが経験の差だ。単純で簡単な作業ではあるが、確実に効果はある。こちらの攻め気を
(これ…………
ババババシバシバシバシとシールドに当たり続ける魔弾。いつも聞く様なパシィという乾いた音ではない。
(クソッ!)
このままここに留まっていたら被弾する、とにかく動かなければ。俺はすぐに走り出す。しかしまるでマシンガンの弾の
(急にギア上げやがって……!)
俺は少しばかり困惑していた。戦闘は比較的ゆったりと展開されていたのだ、それが急にこの猛攻である。この急激な緩急の付け方は戦い慣れたアイロウのテクニックなのだろう。現に俺はしっかりとそれに
(クソ……どうする……)
瞬間、
(望む所!!)
シュン……と飛んでくる一発の魔弾。バババババッと無数に分裂しスピードを上げて迫り来る。
(チッ……何だ急に……開き直ったか?)
逃げる素振りを見せていた若い魔導師の反撃。元よりこのまま勝てるなどとは考えていなかった。出来るのなら押し切ってやろう、ぐらいは思っていたが。まぁ物事そう上手くは行かないという事か。
(相変わらず器用な……どうすればこんな真似が……)
前回戦った際に実際に試してみて分かったが、魔弾をいくつも分裂させるだけでも一苦労なのだ。更にそれらを制御するなど並の魔導師には出来ない芸当。それを事も無げにやってのけるあの若い魔導師は、やはり強敵なのである。そしてもう一つ身をもって理解した事。あの若い魔導師との戦いは、長引かせればろくな結果にはならないと言う事だ。追い詰めたはずがひっくり返され、目の前で信頼を置いていた
シールドを残したまま右へ飛び出す。応戦しようと前を見るとそこにはすでに次の魔弾が迫っており、今まさに分裂する瞬間だった。
「チッ!」
舌打ちをして更に右へ。しかし予測されていた。移動しようとした先にはすでに無数の小さな魔弾が飛んできている。
(っ! ……野郎!)
瞬間、アイロウは分厚くシールドを張り無数の小さな魔弾にぶつける。パパパパパ……と魔弾が消し飛ぶ音と共に前へ出るが、目の前には第二波の弾幕。シールドを張りつつ回避すると、当然の
(ええい! 厄介な!)
第三波の弾幕を防いだ直後、アイロウは右腰当たりに妙な違和感を感じた。何かが当たった様な、触った様な、そんな
パァーーーーン!!
鳴り響く乾いた轟音と、切り裂く様に走る青白い閃光。
「あまりナメるなよ、それは……前に見た!!」
雷撃を防ぎ、怒鳴りながら飛び出すアイロウ。魔弾を放ちながらぐんぐん距離を
パァーーーーン!!
だがこれも防ぐ。
「だからナメるなと……っ!?」
アイロウの動きが一瞬止まった。踏み出した右足、その足の裏に魔力を感知したのだ。
(何だ……これは……)
その瞬間、アイロウの脳裏には様々な事柄が浮かぶ。そして行き着いた思考の先。そこには自身にとって決して楽観視出来ない未来が待っていた。
(こいつ……動きを封じるつもりか!)
パァーーーーン!! と、
(クソ……これもかわすかよ……)
そう、かわされた。正直当たったと思った。しかしアイロウの姿は地面へと走った雷撃の後方にあった。こちらの意図に気付き後方に飛び
「ふぅ、強い……」
思わず口から
普通に雷撃を放っても防がれる。ではどうすれば良いのか? 考えた
(周囲の魔力を感知する能力に
こちらを睨み付けるアイロウの顔には明らかな動揺の色が
「チッ……」
ブロスは苦虫を噛み潰した様に顔をしかめる。周りで見ている仲間達は「おお……」と
「あのぉ~……」
不意に背後から声を掛けられた。「あぁん?」とブロスが振り返ると、そこには初老の男の姿。更にその後ろには二十名程の男達が立っていた。
「三番隊のブロス様でしょうか?」
(ぷふ……様て……)
横にいたライエは思わず吹き出しそうになる。ブロスは顔をしかめたまま答えた。
「そうだけどよ。何だ、あんたら?」
「はい、あの……戦いを見学させてもらおうかと……」
「ああ、商人か何かかよ。あんま近付くんじゃねぇぞ、どうなっても責任取れねぇぜ?」
「はい、それはもう……それであのぉ~、あの人がひょっとして、
「……あ? 何だそりゃ?」
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