第154話 犬猿の仲
それは予期せぬ遭遇だった。
偶然、
一人はその男の謝った判断により、多くの部下を失ってしまった、その落とし前を付ける為。
もう一人はその男の暴走により仲間の命が奪われた事。更には今までその男の無茶で
双方似たような理由でその男の首を欲しがっているのだ。ならば尚の事手を組めば良いのではないか、と思うかも知れないがそれは難しいのである。
更にもう一つ、両者は仲が悪い。というのは言い過ぎかも知れないが、馬が合わないのは間違いない。何となく気に食わない、何となくイライラする。そう、明確な理由はないのだ。関係性を改善させる為に何をしようか、議論でもして互いの
とにかく仲が良くない者同士が偶然鉢合わせしてしまったのだ、当然揉めるのである。
舞台はベーゼント共和国、バルファの南に位置する小さな街。この街はベーゼント国内でもとりわけ治安が悪い。ひったくりに強盗、喧嘩に殺人などは日常茶飯事。すねに傷を持つ者や追手から逃げている者、身体を売る女に薬を売る男、悪徳商人とそれを守る用心棒等々、
その街の旧市街にある酒場。ならず者
その男達はならず者達をして
と、不意に店の扉が開く。ならず者達は一斉に扉に目を向ける。そして店に入ってきた男達を見るとざわつき始めた。その数人の男達は壁際のテーブルに着いている男達と同じ匂いを漂わせていたのだ。
「キュール……何故ここに!?」
店に入ってきた男達に対し、壁際のテーブルに着いていた男の一人が立ち上がり声を上げた。店に入ってきた男達も驚いた様子で、その内の一人が同じく声を上げた。
「ゾーダァ……ここで何をしている!!」
双方の男達は皆、腰の得物に手を掛ける。途端に店の中の空気が重くなる。どんどん凝縮されて行く様な、ピンと張り詰めた様な、異様な程の緊張感が店中を包んだ。その男達に釣られるように、当てられるように、ならず者達も皆得物に手を掛ける。このある種洗練されたアウトロー達の斬り合いが始まれば、当然自分達も巻き添えを食ってしまうだろうという事は容易に想像がつく。ならず者達は自身の身を守る為にギリギリと力を込め得物を握ったのだ。そしてそれはこの店の店主も同じである。店主はカウンター内に立て掛けらけている手斧に手を伸ばす。いざ斬り合いが始まったなら、その手斧を男達に向け勢い良く投げ付けてやるつもりでいるのだ。さすが、ならず者相手に商売をしているだけの事はある、
「あ~……取り敢えず、得物から手を離そうや。こんな所で斬り合いしたって誰も得はしねぇ、そうだろ? ほら、マスター、キュールもよ、な?」
その男の言葉で一人、また一人と腰の得物からゆっくりと手を離す。しかしならず者達の警戒はまだまだ解けない。するとその男は周りを見回しながら呼び掛けるように話した。
「済まないな、みんな。大丈夫だ、何も起こらねぇ。さぁ、酒を楽しんでくれ。そうだな……騒がせた詫びだ、全員に一杯
その男のこの言葉で店内は一応の落ち着きを見せた。だが依然ピリピリとした緊張感が漂っている事に変わりはない。すると男はキュールらに向かい「ほら、んな所に立ってたってしょうがねぇ、座れよ」と、あろう事か自分達のすぐ隣のテーブルに着くよう声を掛けたのだ。
「ラーゲン! お前……!」
これにはさすがにゾーダも納得がいかない。するとラーゲンは小声でゾーダに話し掛ける。
(マスターよぉ、もちっと冷静になれよ。何で連中がこんな所にいるのか、気にならねぇか? あいつらエラグでエイレイと戦ってたはずだよな、
(むぅぅ……)
と、ゾーダは
(出るぞ、ビエット。連中と同じ空間にいるのは耐えられねぇ)
(待てよキュール。全く、本当お前はゾーダが絡むとポンコツになるな)
(な……!? 誰がポンコツだ!)
(いいか、俺達は本来敵同士だ。出会って即斬り合いになる間柄だろ。だが俺達はそれを望まねぇ。目的があるからだ、テグザの首を獲るってな。その目的を考えりゃ、バルファに近いこんな場所で目立つ騒ぎは起こしたくねぇ。じゃあ二番隊はどうだ? ラーゲンは剣を抜くなと言った、俺達にテーブルに着けと言った。何故だ? 何故連中は斬り合いを望まねぇ? ゼルの事を考えたら、面倒な敵は少しでも減らしておいた方がいいに決まってる。だが連中はそれをしなかった……そもそもだ、こんな南で何をしてるのかって話だぜ。情報収集なのか、それともそれ以外に何かあるのか……それにゾーダの向かいに座ってる男……ありゃリロング所属のヤツじゃなかったか?)
そう話ながらビエットはタンファに目をやる。するとキュールは驚いた様子で声を上げた。
「バカな!?」
当然皆の視線はキュールに集まる。ビエットは呆れた様子でキュールに小声で話す。
(声がデケぇよ、全く……ラーテルムの部下が何でゾーダと一緒にいるのか……ラーテルムがゼル陣営についたのか、それとも他に何か理由があるのか……探る必要があるだろ、帰る訳にはいかねぇぜ?)
(むぅぅ……)
と、キュールも
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