第75話 ホルツ奮戦

「非戦闘員を護衛する! を押さえろ! 西の連中もだ!」


 本部棟前を制圧すべくホルツ率いる部隊が展開する。不意を突かれたセイロム達西支部の団員達は驚くのと同時にたじろいだ。曲刀のホルツが部隊を率いて襲い掛かって来るのだ、その圧は相当なものだろう。


「どけぇ! おらぁ!」


 怒鳴りながら次々と西支部の団員達を斬る。流れるような滑らかな動き。ホルツの周りだけ時間の進む速度が遅いかのような錯覚にも陥る。


「セイロム!!」


 団員の一人がセイロムに斬りかかる。セイロムは「チッ」と舌打ちし、面倒くさそうにその団員に剣を振るう。


「待て! セイロムは……」


 それを見たホルツは叫ぶ。が、遅かった。カィィィン! と、二人の剣身けんしんがぶつかる。


 ボン!!


 突然の爆発音。剣身けんしんがぶつかった瞬間爆発が起きた。熱を帯びた爆風は斬りかかった団員を一方的に襲う。団員は後方に吹き飛び炎に包まれた。


「おいホルツ。さすがにそれはナメ過ぎだ。そんな簡単に斬り合いできるほど、俺は安くねぇぞ? お前部下どもに何も話してねぇのか? 俺は政治や兄貴の力だけで支部長の椅子に座ってる訳じゃあねぇ。なのにその程度・・・・にしかとらえられてなかったとは……悲しくなるじゃねぇか、んん?」


 言葉とは裏腹にセイロムは実に楽しそうな表情で話す。この男は基本的に荒事あらごとが好物なのだ。まさに傭兵向きの性格と言える。


「そいつはうち三番隊の奴じゃねえ、四番隊だ」


「あ~、そうかそうか、そりゃ済まなかった。てことは俺をナメてんのはカディールって訳だな」


 カチャ、と肩に剣を担ぎながら、セイロムは本部棟入り口のカディールを見る。と、目が合った。ニヤリと笑っている。


「チッ、ムカつくつらしてやがんな。後で絶対ぜってぇ……くそっ!」


 話ながら視線をホルツに戻すと、ホルツはすぐ目の前に。もう一歩で曲刀の間合いに入る、という所まで迫っていた。セイロムは咄嗟とっさに剣を前に出し、ホルツの曲刀を迎え撃つ。


 カィィィン!


 剣身がぶつかる。その瞬間、


 ボン!


 再び爆発。しかし爆風の先にホルツの姿はない。剣を当てはしたがその直後に身体を右へ流していた。手首を返し、曲刀でセイロムの胴を狙う。


「チィィッ……」


 セイロムも剣を下に倒し、自身の胴に吸い寄せられてくる曲刀を防ぐ。が、今度は爆発しない。


「ハッ、二発で打ち止め、相変わらずだなぁ! どした? 魔法石交換しねぇのか? まぁ、させねぇけどなぁ!」


 ホルツは曲刀を振り下ろす。セイロムは三度みたびそれを防ぐ。


「てめぇごときに魔法石なんざ要らねぇよ!」


 セイロムはホルツを押し返す。そして突き、からの横ぎ。ホルツは曲刀でいなす・・・


「大体何だぁ? 爆裂剣だったかぁ、その剣? くそダセぇ名前付けやがって恥ずかしい野郎だ。最悪なネーミングセンスじゃねぇか、まるでイタいガキの発想だぁ!」


 セイロムが爆裂剣と名付けたこの剣、魔道具まどうぐである。魔道具とは魔法の効果を施した道具のこと。日常的に広く使用されている魔法石も魔道具の一種だ。

 この剣はつかの部分に魔法石をはめ込み、その魔法石に施された魔法の効果を、剣の内部を通して剣身から外側に放出させることができる作りになっている。

 魔法を使えない者にとっては夢のようなアイテムだが、当然無制限で使える訳ではない。魔法石一つにつき二回程度しか魔法の効果を発動できないのである。使い切ったら新しい魔法石に交換しなければならない。

 それでも魔法を使えないセイロムにとっては、心強いアイテムであることに間違いはない。回数制限がある以上、本来であれば使い所を見極める必要があるが、セイロムはあまり気にしていなかった。なぜならセイロムはこの爆裂剣を自身を装飾する物の一つ、もしくは自身を特徴付ける物の一つとして考えていたからだ。爆裂剣=セイロム、セイロム=爆裂剣、派手好きのセイロムはこのような認識を周りに広めたかったのだ。

 ちなみにこの剣、製作者はドワーフの住まうイオンザ王国の高名な鍛治師だ。まだ試作段階だったのだが、噂を聞きつけたセイロムがなかば強引に買い取ったのだ。その経緯いきさつ上、メンテナンスは受けられず、破損しても修復ができないなどのデメリットがあるのだが、セイロムには大した問題ではなかったようだ。


「恥ずかしいのはてめぇだろ! そんなつらでヒラヒラ踊ってんじゃねぇよ、気色わりぃんだよ!」


 カィン、カン、カン


 激しく何合なんごうも打ち合う二人。と、急に二人はバッ、と離れ互いに距離をとった。すると、


 ザクゥッ!


 二人の間に鋭い爪が振り下ろされた。長く頑丈なその爪は易々やすやすと地面に突き刺さる。カディールの呼び出したが乱入してきたのだ。


「くそ、カディール……マジで忌々いまいましい野郎だ……あ! ホルツてめぇ!」


 気付けばホルツは捕らえた捕虜の元へ走っていた。


「セイロム! そいつは任せたぜぇ、ゆっくり遊んでなぁ!」


 軽く振り返り挑発するホルツ。セイロムは後を追おうとするが、魔が立ちふさがる。


「くそったれがぁ! おい! 魔導師集まれ! このデカいの潰せぇ!」





「ガグガォァァァ!」


 長い髪を振り乱し大暴れする魔。逃げ惑うのは捕虜となっていた本部棟の非戦闘員達。その周りを駆けずり回り、魔と戦っている西支部の団員達と三番隊の隊員達。


「……これ、どうすりゃいいんだぁ?」


 ホルツは困惑した。敵味方が共闘している混戦状態。この状況下でまずは何をすべきか……


(魔だろうなぁ……)


 そう、まずは魔だ。ホルツは後ろから魔の腰辺りを斬りつける。が、硬い。まるで効いていないようだ。


「くっそ、かってぇなぁ。お~い! このデカいのるぞぉ! 手ぇ貸せぇ!」


 周辺にいた団員達が集まる。敵も味方もない、この魔こそ真の敵。


「ホルツさん、っちゃダメだろ、あれはカディールさんの……」


「知るかっ! あんなもん敵だろがぁ!」


 部下の制止を振り切りホルツは再び斬りかかる。


「よし、ホルツさんに続け!」


 団員達は魔の周りを取り囲み一斉に攻撃を仕掛ける。しかしどの部位も硬く、まともに刃が入らない。しかし、


「ガガゥ、グガグゥゥ!」


 魔は明らかに嫌がっているようだ。長い腕を振り回し、団員達を自身の身体から遠ざけようとする。


「効いてんぞ! 休まず打ち込めぇ!」


 四方八方からの連続攻撃に、さすがの魔も膝をついた。だが決定打がない。


「くそっ! 魔導師いねぇか!」


 ホルツが呼び掛けた直後、


 ボン!


 魔の顔面に炎が上がる。


「私で良ければ……」


 デームの魔法が直撃したのだ。


「でかした! そう言やお前は魔法使えたっけなぁ! そのまま続けてくれ!」


 デームは連続で魔法を撃ち込む。動き回らない魔は格好の的だ。そしてとうとう両膝をついた。


「ここはさすがに柔らけぇだろぉ!」


 ホルツは背後から魔の首に曲刀を突き刺す。硬い、がそれでも他の部位よりは大分だいぶ柔らかい。ズズズッ、と曲刀は魔の首に刺さって行く。もはや魔は声も上げられない。やがてスゥ~、と魔はその姿を消した。



「「「 おぉぉぉぉ!! 」」」



 団員達から雄叫びが上がる。歓喜する団員達にホルツは曲刀を向ける。


「お喜びのところ申し訳ないがなぁ、お前ら、武器捨てろ」


「あ……」


 西支部の団員達は三番隊に取り囲まれていた。

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