それでも回復魔法が使いたい

 以前、回復薬について書きました。

 話の路線としては、"回復薬はインフラの一環として必要な一方で、行き過ぎた物は社会を崩壊させるだろうから限定的な使用にとどめるのが良いだろう"というものでした。


 では回復魔法についてはどうでしょう。


 回復魔法については、多くのファンタジー小説で苦悶した様子が見ることができます。

 傷をたちどころに癒してしまうものはどう考えても社会や思考に重大な矛盾を生ずるという観点から、最近の小説では登場させないか、もしくは巨大な代償を要求するようになりました。


 今回は回復魔法がなぜファンタジー小説に必要か、どうすればチートにならずに済むかということを考えていきます。


・回復魔法の問題点

・回復魔法の必要性

・回復魔法に求められること

・特別な設定が必要のない回復魔法

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・回復魔法の問題点


 回復魔法がなぜ問題視されるようになったかというと、人間社会に与える影響が大きいだろうという理由からです。

 火傷、切り傷、骨折といった軽傷重傷の回復から、さらに解毒までを一瞬でできてしまうと、現代医療すらも大きく上回ってしまい、書き手が考えているよりももっと有効的な使い方や想定外の矛盾を生み出してしまうというのが、多くの考察ものの指摘であろうように思います。


 たしかに、ちょっと魔法を使うだけでどんな傷もすぐに回復してしまったら、コントロールできないほどの改変が出てきてしまうかもしれません。

 拷問するときに回復魔法を使って延々と苦痛を与え続けたり、戦争がずっと長引いて市民感情が悪化したりと、良いことばかりではない可能性もあるのです。


 回復魔法を出したい場合には、書き手はどうにかして枷をつける必要が出てきてしまいます。そうなると使い手を極度に絞ったり、代償が術者の命にしたりとなかなか自由度が低くなってしまいます。

 枷の種類もそこまで多くありません。悪い意味でのテンプレ化が行われてきてしまいます。


・回復魔法の必要性


 枷が必要で面倒くさい存在でも、回復魔法は依然として人気があります。

 これには3つ理由を挙げる事ができるでしょう。


 まずはゲーム的設定という観点です。

 ゲームが発想の原点の一つである小説では、魔法という分野の中に回復魔法もおおざっぱに入っています。昔のネット小説に回復魔法がでてきたのはそういう理由が多かったように思えます。そこに批判が入ってきてだんだんと減ったというのは前にも書いた通りですが、やはり回復魔法や"ヒーラー"と呼ばれる職業層は今でもよく見ます。


 もう一つの理由として、神話などにも登場するところを見ると、回復魔法は男性の夢が詰まっているという見方ができます。

 回復魔法の使い手に女性が比較的多いのは、戦いの後に女性に癒してもらいたいという心理の表れでしょう。回復魔法のもつファンタジー小説上の重大な問題をなんとかしてでも使いたいのは、ここら辺にあるのではないでしょうか。大昔から受け継がれてきた聖女という属性は、ステレオタイプだとしても是非物語にいれたい要素なのでしょう。


 本小説的には、もう一つ理由を挙げたいと思います。

 医療については現実世界でも積極的な研究が進められてきた分野です。

 学術的なものにしても、経験則的な対症療法にしても、医学的な研究には多くの学者が挑戦してきたのです。当然、呪術的な方法も一大ジャンルでした。中国で流行った錬丹術などは最たるものでしょう。しかしながら現代科学の前にそれらは一笑に付されています。

 逆に考えると、"ありえないことを実現する世界"を構築できるファンタジー小説では、是非採用したい技術の一つです。



・回復魔法に求められること


 史実でも回復魔法は存在しています。この場合の存在するというのは、技術的にではなく"設定的に"ということです。"神秘術を王様が行使できる"とすることで王権神授説の根拠としたのです。

 つまり、王家や教団などといった集団の旗頭になる人物であれば、社会を構築する上で起こる問題はなんなくクリアできるというわけです。


 しかしそれでは、いじめっ子との喧嘩になんとか勝った少年がヒロインに、木の下で夕日をバックに回復魔法をかけてもらうというような、根本的な要求を満たすことができません。


 この要求を満たすためには、下記の条件をクリアした回復魔法が出てきてもおかしくない社会を作り出す必要があります。


- ある程度の人が回復魔法を習得している(規模は問わない)

- 習得と使用が比較的容易である

- 必要経費が比較的少量である


 "ゲーム初期の回復薬"ならば、ファンタジー社会ではむしろ必要になるだろうと回復薬についての話で考えました。そうすると"ゲーム初期の回復量"ぐらいであれば、回復魔法でも大丈夫かもしれません。


 ただ回復薬と決定的に違う点としては、多かれ少なかれ教育が必要になるだろうということです。

 前に書いたように、特定の方法を除いては、魔法を使うには教育を行う必要があるでしょう。しかし教育の必要性は習得難度を上げてしまう要因になる可能性もあります。


 冒険者がどれほど教育を受けることができるのかという点については、設定によって左右されることでしょう。魔法の使用方法によって、教育にどれだけ時間が必要かという点も変わってくるのは前に書いた通りですし、教育機関がどれほど国家の支援を受けているか(どれほど授業料が安価か)は設定によって変わってくる部分です。



・特別な設定が必要のない回復魔法


 そんな中でなんとか各項目の難易度を下げ、かつ自由度を保つことができないかと考えると一つの案が出てきます。


 それは回復薬と回復魔法とで難易度を折半するという設定です。薬草を押し当てて呪文を唱えることで、怪我が治るという設定はどうでしょうか。


 回復魔法の設定上の問題というのは、効果に見合った難易度や対価を設定すると、使える状況、人間が非常に限られるということにあります。これでは物語の設定に幅が生まれません。


 そこで中世では混在していたであろう、呪術的な治療方法と、医学的な治療方法を合わせることで難易度を下げ、同時に経済的な難易度を上げるというのはどうでしょうか。


 薬と呪文の併用というのは、私が読んできたファンタジー小説では見た覚えがありませんが、比較的説得力を持たせることができるのではないかと思っています。


 例えば薬品だけではポーションがぶ飲み問題のように、ファンタジー要素が下がってしまいます。逆に呪文にすべて任せると、なぜ魔物は回復魔法を編み出さないのかという問題が出てきます。


 精神的苦痛を与えるために回復魔法を使って拷問するという手も、人的資源や経済での制限があればとられることはないでしょう。

 回復魔法の問題として、人間同士の戦争の長期化が挙げられますが、これは回復魔法に必要な資源が人間の魔力だけだという設定に基づいたものです。


 もし回復魔法に同時に薬が必要ならば、広範囲治癒が不可能になるし、ある程度時間と手間もかかるわけで、一定以上存在しているのアンチ俺TUEEEの小説の中でも回復魔法は存在することができるでしょう。


 現実世界に置き換えても、薬剤と医師が両方あって、医療が成り立っています。薬を扱う魔法使いがいたとしても、社会的にはそこまでおかしなことにならないでしょう。


 それに、傷ついた少年がヒロインに治療行為をしてもらう際にも、何かしらの肉体的接触があったほうが夢がある気がします。長ったらしい呪文を唱えられて終わるよりは、軟膏なり薬草なりをちょちょいとやってから二言三言ごにょごにょとやってもらった方が要求を満たせるのではないでしょうか。



 筆記型魔法の時にも書きましたが、魔法になにかしら経済的対価を設定するのは、様々なメリットがあるように思えます。

 魔法の設定上の問題点は、無限に使用できてしまう点にあるわけですから、そこを生命力や時間などといったなにかと暗い話題になりがちなもので制限をかけるよりは、作風に影響が出ることがないでしょう。


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