ファンタジー世界で蒸気機関は発達するのか
前回は火の魔法をもとに、魔法のルーツや流れを考えてみました。
しかし大多数の人にとって、そんなことは割とどうでもいいことなのではないかと書き終わってから思ったため、今回は現実世界に存在した技術への影響について色々考えてみたいと思います。
ありとあらゆる重要技術に用いられる火であるだけに、それが魔法によって発生できるとなった時、如何なる変化が起こりそうかという点はなかなか興味深いと思います。
とはいえ、技術といえば学術的な知識が必要になる分野です。
筆者のにわか知識では到底太刀打ちできるものではなさそうだし、それゆえに本小説の目的として、"ファンタジーの要素を学術的に分析する"というものは含まれておりません。
例えば、アニメやゲームなどで描写される火の玉は赤であることが多いことから、それらが大体800度くらいかなと決めることは調べればできます。そこから鉄の融点が1500度程度だから、火の魔法の存在は鉄鋼業にあまり影響がないかもとすることはできるでしょう。金属の盾で火炎を防ぐような描写もみることがあります。
しかし、そのメカニズムの如何によっては周りは数千度になるかもしれません。マッチも着火直後は2500度程度になるそうです。そんなことを言われても、わけが分かりません。
数個のキーワードをポチポチと検索しただけでもこれだけの情報は得ることができますが、だからどうしたという話です。
ファンタジー世界なのですから、鉄を融解させる魔法があるかもしれません。属性的に考えれば、それが土魔法でも良いのです。そもそも人類が選んだ金属が鉄ではないかもしれません。
というわけでこういった物理的な路線では、"技術にどれほどの影響がでそうか"ということに関しては成果を得ることはできなさそうです。もしできるとしても私がこの小説で試みてもどうしようもないでしょう。
・戦争用の魔法
・蒸気機関の可能性
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・戦争用の魔法
本小説が行ってきたアプローチは、史実という不変の結果を見ながら、そこにありえない要素を入れるというものです。
例えば火の魔法があることで、戦争はどう変わりそうかということは重要です。
魔王がいる世界では人間同士はとりあえず友好関係を結ぶだろうから、人間同士の戦いは起きないのではないかと考えましたが、ここではおいておきます。
火は生物にとって致命的な存在であるため、そこにあるだけで敵にとっては脅威となります。世界中の指揮官が戦争に火を用いようと考えたことでしょう。現在は使われていませんが、ナパーム弾や火炎放射器といった炎を敵に当てる兵器が20世紀でも使用されました。
しかし史実では火は簡単に制御できるものではないため、ノウハウと入念な準備と運が必要でした。それらが整って、絶大な威力を発揮したのです。
これが魔法によってある程度簡単に制御できるとしたら、どうなるでしょう。
生物によって多少差はあるでしょうが、基本的には動物は火を嫌がります。例えば蜂などは煙も嫌がるそうです。山火事にたいする防衛本能だという説もあります。
同じように馬がもし火を恐れるようなら、魔法使いが一斉に火の弾を放つだけで、騎兵は突撃ができなくなるかもしれません。
人間も火に囲まれたら(現実的な火ではなく単に高温の塊だとしても)死んでしまいますので、沢山の歩兵で構成される槍衾も、火の玉一発で崩されてしまうでしょう。
"槍衾を崩し、馬の突撃を止める"といえば、もはや近代兵器です。
こうなってしまってはせっかくの中世設定も活かされることはなくなるでしょう。
それはとても残念だし、やはり"攻撃側が勝利し続ける"ということは軍事史的にみてもありえません。火の玉一発が脅威になる世界で、それを防御する手立てを開発しない人々というのは、リアルではありません。
そうすると、やはり防御魔法の存在はファンタジー小説に見られるよりも、もっと進んでいる可能性があります。
火の魔法を防ぐのなら、それはもしかしたら水の魔法かもしれません。魔法には現実世界とは違って弱点関係なるものが存在するのです。
ただこの設定を使ってしまうと危険な点もあります。それはスパイラルに陥るということです。
属性が抱える問題については次回詳しく書きますが、対抗策として何が適しているのかというのを定めるのが難しいのです。水魔法を打ち砕くには土魔法、それを防ぐための風魔法、でも火で、しかし水で、とぐるぐる回る羽目になるでしょう。
仮にそうだとすると、それぞれの属性で攻撃魔法と防御魔法が出ると使い勝手も悪くなりそうです。そうすると、もはや攻撃魔法と防御魔法というジャンルに統合されるかもしれません。
まったく違ったアプローチによる破壊方法の開発が早急に求められることになります。もしかしたら、これが現実世界でいう銃の開発にあたるのかもしれません。
前の例に則って言及するならば、火の属性と水に打ち勝てる土の属性の合成魔法、という事になります。
火と土。これはつまり火薬と銃弾に相当するのでは、というところまで空想が行きついたところでこの話は締めたいと思います。
・蒸気機関の可能性
もう一つ大きな技術といえば、蒸気機関があります。
ファンタジー世界には蒸気機関が存在しうるのかというお題については、比較的多くの考察がなされているようでもあります。
魔法があるなら蒸気機関などいらないのではないかという論調が多いように思えますし、いや十分可能だというものも読んだ覚えがあります。
本小説としては、"生まれない、もしくは少なくても現実世界と同じようにはいかないだろう"という立場を取らなければなりません。
というのも今までの頁で、鉄鋼技術は現実世界よりも大幅に遅れるだろうとしたためです。
その原因は大砲です。大砲は青銅や鉄の筒と火薬を使って、砲弾を目標のいる方向へ飛ばす兵器です。筒で飛ぶ方向や回転を定め、火薬でエネルギーを得ています。
しかし魔法は特殊な機構がなくても、どれもこれもとりあえず前に向かってすっ飛んでいくようなので、指向性を与える機構はいらないだろうと考えることができます。
したがって、砲弾を飛ばすにしても火薬の制御などは必要なく、砲弾に何かしらの魔法、例えば風の魔法でも付与するだけでも十分な破壊力を生み出すことでしょう。
そうすると大砲の歴史で一番厄介な、あの頑丈で均一でなければならない筒を開発生産する必要がなくなるわけで、鉄鋼業の発達や原材料および燃料の需要は低くなるのです。
実用的なレベルでの蒸気機関は、もともと炭鉱での利益を上げるために、鉱山設備として開発されました。
もし鉄の需要が下がって、鉄を作るための石炭が必要なくなれば、蒸気機関の登場も無かったのではないかという事になります。大砲の開発競争、生産競争が起こらなければ鉱山技術の発達もなく、それに伴う蒸気機関も登場することはないかもしれません。
そもそも、仮に必要になっていたとしても、鉱山での排水や運搬といった作業にはまず魔法の力を借りようとすることでしょう。
このように魔法が歴史に登場することで、いくつかの技術が魔法によってその座を奪われて(もしくはそのあおりを受けて)縮小消滅するということが考えられます。
魔法によって登場するという技術は、どのようなものがあるのかという話にもなりますが、それは設定ごとにまちまちでしょう。世界を構築する際には、技術の取捨選択という面から世界を考えてみるのも面白いでしょう。
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