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 1秒経過しない内に「レッドスカル」は、あっさり吹き飛ばされた。

 殴りかかった次の瞬間、ボク達の世界で「鎧」を継承して来た高木一族の戦闘術の源流の1つである剛柔流空手の受け技を使われたのだ。

 「受け技」とは言っても、受け側が攻撃側より遥かに技量が上なら、攻撃側が体のバランスを崩し、場合によっては、柔道か合気道の技でも使われたかのように派手に吹き飛ぶ。つまり、「レッドスカル」と「もう1人のボク」の腕前の差は……まぁ、そう云う事だ。

 そして、「もう1人のボク」はボクに右フック。

「ほう……こんな真似も出来るのか?」

「どうやら……ボクの世界と、キミの世界は、結構違うみたいだね……この技を知らないなんて……」

 「もう1人のボク」の右手首にはブレードが出現。対して、ボクは左腿の短剣を抜き、それでブレードを防いでいた。

「どう云う事だ?」

「ボクの恋人・高木らんが『護国軍鬼・零号鬼』を倒した時に咄嗟に編み出した技だよ」

 「もう1人のボク」の腕のブレードは短剣をに斬り裂いていたが……ギリギリ鍔の少し手前で止まっていた。

「なるほど……そこが君と私の世界の分岐点か……」

「そっちの世界の高木瀾は……護国軍鬼・零号鬼に倒されたのか?」

「違う……もっと前が『分岐点』だ。瀾とその双子の妹が生まれた直後がな」

「まぁ、いいや。それは、後で聞く事にしよう……。お仕置きの時間だッ‼It's clobberin' time!!

「Beast Mode Activated」

 ボクと「もう1人のボク」の「鎧」の装甲の各部が開き、そこから余剰エネルギーが放出される。

 日本で云う「火事場の馬鹿力」を出す自己暗示をかけると同時に、「鎧」のリミッターを一時的に解除する。それが、ボクと「もう1人のボク」がやった事だ。

 しかし、ボクの「鎧」のモニタに表示されたのは……。

『リミッター解除:残り時間48秒』

 しまった、さっき、同じ事をしたせいで、まだ体に疲れが残ってるらしい。そのせいで、「鎧」の制御AIが、リミッター解除時間をいつもより短くしないと危険と判断したみたいだ。

 「もう1人のボク」は、もの凄い勢いで攻撃。ボクの方は、回避するのに精一杯だ。

「余剰エネルギー放出準備‼ 胸部‼ 出力最大‼ 放出‼」

 ボクは「鎧」の余剰エネルギー放出機能を利用して、「もう1人のボク」と距離を取る。

 もちろん、「もう1人のボク」は、ボクを追う。

 ボクは、横に飛ぶ。そこには酒場らしき建物の壁。その壁を利用して、「三角飛び」の原理で「もう1人のボク」に反撃……あれっ?

 ボクの両足が壁に接触した途端、壁は派手に砕けた。

 なるほど、技術や経済がボク達の世界より下だと、こうなる訳か……。

 どうも、この世界の建物は、ボク達の世界の規準では「安普請」ってヤツらしい。

「ええっと……お客様の中に衛生兵か軍医は居ませんか〜?」

 酒場の中では、唖然とした表情で壁を突き破って飛び込んで来たボクを凝視みつめる兵隊に芸者に店員。

 要は居酒屋だ。

 そして、ボクの足下には……ボクが壁を突き破ったせいで怪我したらしい兵隊が2名ほど倒れていた。

「あ……マズい」

 ボクが作った穴の向こう側から、「もう1人のボク」が近付いて来ていた。そして、更にマズい事に……。

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