(7)
1秒経過しない内に「レッドスカル」は、あっさり吹き飛ばされた。
殴りかかった次の瞬間、ボク達の世界で「鎧」を継承して来た高木一族の戦闘術の源流の1つである剛柔流空手の受け技を使われたのだ。
「受け技」とは言っても、受け側が攻撃側より遥かに技量が上なら、攻撃側が体のバランスを崩し、場合によっては、柔道か合気道の技でも使われたかのように派手に吹き飛ぶ。つまり、「レッドスカル」と「もう1人のボク」の腕前の差は……まぁ、そう云う事だ。
そして、「もう1人のボク」はボクに右フック。
「ほう……こんな真似も出来るのか?」
「どうやら……ボクの世界と、キミの世界は、結構違うみたいだね……この技を知らないなんて……」
「もう1人のボク」の右手首には
「どう云う事だ?」
「ボクの恋人・高木
「もう1人のボク」の腕の
「なるほど……そこが君と私の世界の分岐点か……」
「そっちの世界の高木瀾は……護国軍鬼・零号鬼に倒されたのか?」
「違う……もっと前が『分岐点』だ。瀾とその双子の妹が生まれた直後がな」
「まぁ、いいや。それは、後で聞く事にしよう……。
「Beast Mode Activated」
ボクと「もう1人のボク」の「鎧」の装甲の各部が開き、そこから余剰エネルギーが放出される。
日本で云う「火事場の馬鹿力」を出す自己暗示をかけると同時に、「鎧」のリミッターを一時的に解除する。それが、ボクと「もう1人のボク」がやった事だ。
しかし、ボクの「鎧」のモニタに表示されたのは……。
『リミッター解除:残り時間48秒』
しまった、さっき、同じ事をしたせいで、まだ体に疲れが残ってるらしい。そのせいで、「鎧」の制御AIが、リミッター解除時間をいつもより短くしないと危険と判断したみたいだ。
「もう1人のボク」は、もの凄い勢いで攻撃。ボクの方は、回避するのに精一杯だ。
「余剰エネルギー放出準備‼ 胸部‼ 出力最大‼ 放出‼」
ボクは「鎧」の余剰エネルギー放出機能を利用して、「もう1人のボク」と距離を取る。
もちろん、「もう1人のボク」は、ボクを追う。
ボクは、横に飛ぶ。そこには酒場らしき建物の壁。その壁を利用して、「三角飛び」の原理で「もう1人のボク」に反撃……あれっ?
ボクの両足が壁に接触した途端、壁は派手に砕けた。
なるほど、技術や経済がボク達の世界より下だと、こうなる訳か……。
どうも、この世界の建物は、ボク達の世界の規準では「安普請」ってヤツらしい。
「ええっと……お客様の中に衛生兵か軍医は居ませんか〜?」
酒場の中では、唖然とした表情で壁を突き破って飛び込んで来たボクを
要は居酒屋だ。
そして、ボクの足下には……ボクが壁を突き破ったせいで怪我したらしい兵隊が2名ほど倒れていた。
「あ……マズい」
ボクが作った穴の向こう側から、「もう1人のボク」が近付いて来ていた。そして、更にマズい事に……。
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