(17)
それから、約半月が過ぎた。
私は、世界政府の
もちろん、心身ともに、徹底的な検査を受けたが、異常は発見されなかった。そして……あの「細菌兵器で人類が滅ぼされ、
あの夜、ランダ大佐のみならず、グルリット中佐も死亡したらしい。何故か、「兄」とヴェールマン中尉は、私が敵の「鎧」に殺害された、と証言しているが……死んだ筈の私が生き返たのだとしても、そんな事は、よく有る些細な問題だと言えるような事が、世界全体で次々と起きていた。
日本の福島県では、記録に無い謎の施設が出現していた。周囲は放射性物質で汚染され、どうやら、大事故が起きた核施設らしかった。そして、その施設の入口らしき所には、日本では、既に使われなくなりつつある「漢字」で、こう書かれていた。「東京電力 福島第2原子力発電所」と。しかも、その施設とその近辺で日本の戸籍のどこにも記録されていない者達が発見された。
彼等は、今は、西暦二〇二〇年、または令和二年と呼ばれる年で、十年ほど前に日本で大地震が起き、今年、東京でオリンピックが行なわれる予定だったが延期され、アメリカ合衆国は、まだ存在して、その大統領はドナルド・トランプなる人物だ、と言っているらしい。そして、彼等のほぼ全員が、中国や中央アフリカ連邦で使われている携帯電話を兼ねた超小型電脳端末に似た装置──彼等は、それを「スマホ」と呼んでいる──を所持していたが……その機能の大半は使えなくなっていた。ただ、その「スマホ」なる装置は、中国や中央アフリカ連邦で使われているものよりも、明らかに進んだ技術で作られているのは確からしい。
それに加えて、どうやら、私が香港で入手した無線通信装置に書かれていた「Bluetooth」と云う言葉は、その「スマホ」なる装置に関連する技術の呼び名だと云う事も判明した。具体的にどう云う技術なのかは、まだ不明だが。
一方、世界統一戦争で壊滅して、百年近くに渡って、廃墟と化していたニューヨークに自由の女神が出現していた。そこでも、身元不明の者達が見付かり、こちらの者達は、日本の福島県で見付かった者達とは、また違った事を言っている。何でも「今は二〇二五年で、昨年のアメリカ大統領選挙で、ハワイ系とメキシコ系の両方の血を継ぐ女性大統領が誕生した。ドナルド・トランプなる人物は、二〇一六年の大統領選挙で立候補したが、泡沫候補で終った」と……。そして、彼等の多くも日本の福島県で発見された者達と同じ「スマホ」を所持していたが、彼等は、その「スマホ」を別の呼び名で呼んでいた。
それだけではなく、中国、イスラム連合、ソ連、中央アフリカ連邦でも似たような事が起きているらしい。いや、中には、それまで有った町が丸々1つ消え、その代りに似て非なる別の町が出現し……そこに居るのは、どこの記録にも住民登録情報にも無い者達ばかり、などと云う事も起きたようだ。そして、消えてしまった元の町の住人の運命の手掛かりを探る事に関しては……従来科学の知識も
そして、私は、日本に戻って来ていた。
香港で戦った者達……義手の男である黒桜隊の河野康夫、高速移動能力者と見られる義烈団の
しかし、今は、
世界政府軍香港基地は壊滅し、私の「鎧」の整備チームも全員行方不明。新しい整備チームが結成されたが……まだ、意志疎通が巧くいっているとは言えない。しかし、それを言えば……前の整備チームの責任者だったエメリッヒ博士も私に隠していた事が有った以上、前の整備チームとの意志疎通も、私が勝手に巧くいっていた、と勘違いしていただけなのだろう。
なにはともあれ、どうやら、あの夜、私の身の回りの事だけではなく、この世界そのものが決定的に変ってしまったらしい……。しかし、今の私の任務について、世界そのものに異変が起きた事による、最も重大な影響は……
しかし……あては有った。わずかな……細い糸だが……。
福岡県久留米市……かつて、コ・チャユとその双子の妹コ・ミンジュが住んでいた町。私は、その町に有る神社を訪れていた。
そう、彼女達が実の親を亡くした後に、後見人となった者は……この神社の宮司の家系の分家の出身だった。
しかも、彼女達が……育ての親か、その縁者の誰かから受け継いだらしい
この「九州」と云うアイルランドの半分ほどの面積の島で最大の川「筑後川」。その川岸に、「水天宮」と云う名の神社は有った。
九〇年前の世界統一戦争で、戦勝国の側でありながら一千万以上の人口(旧植民地は除く)を失なって以来、衰亡を続けてきた……この過去の栄光を食い潰しながら形ばかり存続し続けているプライドだけは妙に高い国を象徴するような、古ぼけたわびしい神社。その境内を、私は1人歩んでいた。
どうやら、ここ数日は、日本にはめずらしく大気汚染はマシな状態らしい。月も出ているので、「鎧」のカメラを暗視モードから通常モードに切り替え、空を見上げ、美しく煌めく星々をしばし眺めた。
やがて、私は河原に出た。
「チャユ……久しぶりね……。待って……何をしているの?」
「帰った方がいいわよ。別の世界の『鎧』の使い手を見付けて……この世界に招いている」
チャユのすぐ側に、「空間の歪み」としか言えないモノが出現していた。
「別の世界?」
「そう……この世界には、様々な世界を渡り歩いて来た者達が多数入り込んでいる。半月前のあの異変より前からね」
「じゃあ……あの異変は……そいつらが起したものなの?」
「ちょっと、違うのよ……。あの異変は、彼等にとっても想定外のもの。でも、その異変のせいで、私達、『神』の力を持つ者は、自分の『神』の平行世界版が居る世界との門を開けるようになったのよ。他の『神』の力を抑制する役目を持っていた『神』である
「その『様々な世界を渡り歩いて来た者達』って『
「そう。そして、もうすぐ、別の世界の『鎧』と、その着装者が、ここに現われる。貴方達の『鎧』よりも進んだ技術で作られた『鎧』を倒す為の『鎧』が……。知らない仲じゃないから……忠告しておくわ。逃げるなら、今の内よ」
「待って、何を言ってるの?他の世界から来た『鎧』を倒す為の『鎧』なら……既に、この世界に有るわ」
「えっ?どう云う事?」
何かがおかしい。「
「やめて、何かがおかしい。
「もう、遅いわ」
そして、門が開いた。
「ふんぎゃっ♥」
「ふんぎゃ〜ぁ♥」
待て、何だ、この妙な声は?
そして、門から、まず2体の……荷物を背負い、両肩に奇環砲が装着された恐竜型の
続いて、モーターサイクルに乗った「鎧」の着装者。
「あ〜、もしもし、こっちの世界に到着しました〜」
門から現われた者は、脳天気な口調で、そう言った。どうやら、門の向こう側の世界と無線通信を行なっているらしい。
使っている言語は日本語で……声からすると、着装者は若い女性のようだ。
しかし、彼女が着装している「鎧」は、日本では無い別の国を連想させるものだった。
九〇年以上前に滅んだ国の、忌しいプロパガンダ漫画の主人公「キャプテン・アメリカ」を連想させる……胸に銀色の星のマークの有る鮮かな青い「鎧」だった。
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