(2)
「正しき行いを阻む者どもよ‼燃え尽きよ、我が力で‼
その者が、そう叫んだと同時に炎の魔鳥が上空に現われ、夜の闇を払い、かつて「伊勢神宮」と呼ばれていた廃墟を照らした。
「悪しき者達は我らが手で癒す‼」
私は、それに答えるように「鋼の愛国者」の「誓言」を叫んだ。
だが、彼女が叫んだ「誓言」には魔術的な意味など無い(そもそも彼女の能力は歴史上存在したありとあらゆる魔術や宗教や神秘主義の体系とは一切無関係だ)。彼女の能力の発動に必要なものは、彼女の意志のみである以上、あの「誓言」を唱えた理由は、単に活劇映画の主人公でも気取っているだけなのだろう。
もっとも、こちらの「誓言」も、慣習的に「誓言」と呼んでいるだけで、魔術的な意味での「誓言」、つまり自分を支援してくれる霊的存在への誓いではなく、彼女に力を与えている化物よりも遥かに格下でまだ人間の理解の範囲内にある霊的存在にすら、何の影響も与える事が出来ない。あくまで人間社会の約束に過ぎず、喩えるなら警官がバッジを見せる程度の意味しか無い。
彼女は「
彼女は、私より少し年上で、側頭部のみを刈り上げた独特かつ奇妙な短い髪型の「美女」と云うより「美青年」と呼びたくなる顔立ちの若い東洋人の女性だ。男物の動きやすさを優先した服を着ている。東洋系の女性にしては背も高く、服の上からでも、ちょっとした女性アスリート並の筋肉が付いているのが判る。事前情報が無ければ、私も男性だと勘違いしたかも知れない。「男装の麗人」なる退廃的なものに魅力を感じる変態も居るだろうが、少なくとも、私には、どこか
とは言え、彼女は外見は人間でも、人と「人ではない者」の間に生まれた種族の末裔「
『アーリマン1=13、彼女の炎を打ち消せますか?』
『すまないが、不可能だ。私達が、
『それは訓練生だった頃の座学で何度も聞きましたが、何度聞いても良く判らないその理屈を、この状況に当て嵌めると、どうなるんですか?』
『では、正確さより判り易さを優先した比喩的表現を使おう。早い話が、彼等が一個師団を壊滅させて猶余り有るほどの力を使おうとしたらなば、その力が発動する前に打ち消せるが、わざと奴等が一個中隊を跡形も無く消し去るのがやっとの力しか使わなかった場合は、逆に打ち消せない』
離れた場所に居る上司にして相棒からは残念な返事が返ってきた。
敵の頭上の炎の魔鳥がはばたくと、無数の炎の矢が私に向って放たれる。しかし、今の所は「鎧」の装甲の断熱効果で大事には至っていない。
幸いな事に、今回の敵に力を与えている「
例えば、古代末期〜中世にかけての日本で「魑魅魍魎や人間の死霊なら人間の使う呪法により『力づくで屈服させる』事が出来るが、『神』に対して、『力づくで屈服させる』タイプの呪法を使うと、どんな強力な呪法であれ、その呪法の使い手は破滅する」と云う考えが有ったらしいが、当時の日本人が「神」と認識していた存在こそ、我々の時代で云う「
「
つまり、「
1つ。「
2つ。「
3つ。「
4つ。「
そして、もし、人類が進化途上の神々だと云う仮説が本当だとしても、今の時点では、「神々」としか呼べぬ謎多き存在の力を操れる者達に対抗する手段は皆無に等しい。ただし、通常の場合は……。
現代においても世界各地で暗躍している、
現在、存在する「
なお、「対抗する事が可能となった」と云うのは「近接戦闘において即死せずに済む事も有る」と云う意味だ。
そして、まるで
そのせいで、
そもそも、今まで判っている限りでは、1人の人間としての
遺憾ながら、
つまり、我々「鋼の愛国者」が
『「
『えっ⁉』
「ようやく、御到着か」
敵が、そう言うと、炎の魔鳥が上方へ移動する。
そして、敵は、私では無い誰かを見ていた。その視線の方向……私の一〇mほど後方には、見た事もない青いモーターサイクルに乗った小柄な人物が居た。黒い作業服めいたツナギに、モーターサイクル用の黒いフルヘルメット。顔は見えないが、体型からすると、どうやら女性のようだ。
おかしい。
その人物はモーターサイクルで接近したにも関わらず、エンジン音は聞こえなかった。そのモーターサイクルの外見にも、理由の判らない違和感を感じる。
「何者だ⁉」
「迎えに来た。仲間の撤収は完了した。行くぞ」
モーターサイクルの人物は、私を無視して、日本語でそう言った。だが、声がおかしい。何らかの小型装置で声を変成させているのかも知れない。
『用心したまえ。新しく現われた相手は、かなり強力な
相棒から有益と思える情報が入る。ただし、残念な事に、私は、地球上に残存する千体以上と言われる
相棒からの通信が終るのと前後して、上空の魔鳥から無数の炎の矢が放たれる。
「うおおおおおお〜っ‼」
私は「鎧」の標準装備である大型戦斧を構えると、一人目の敵の方に突撃する。しかし、私が突撃を始めて数秒で、炎の矢の攻撃は止み、その代りに五十鈴川から霧が立ち上って来た。
霧は、瞬く間に私を取り巻く。炎の矢で炙られた装甲と細かい水滴が接触する度に、しゅうしゅうと云う音がする。
「何だと?」
霧を構成する水分は、やがて氷へと変貌し、私の鎧に付着していく。私の鎧は、敵まで後数歩の所で、氷漬けになり動きを拘束される。
『
私は鎧の擬似知性電脳に命令を出す。
私達の鎧の動力源である
そして、
「馬鹿め。エサに食らい付いたな」
目の前の敵がそう言った。そして、後方に居た筈のモーターサイクルは、いつの間にか、私の前方に移動し、彼女の仲間を拾っていた。
まただ。モーターサイクルは完全に無音ではないにせよ、少なくともエンジン音はしない。
「じゃあな、新米の『鉄の処女』さん」
敵はそう言い残すと去っていく。
『早く死霊を吸引して‼』
『御命令の解釈に失敗しました』
鎧の擬似知性電脳は相変らす「擬似が付く知性」でしかない。死霊どもを「
しかし、その時、私はある事に気付いた。
何故、周囲は明るいままなのだ?そして、何故、敵は「エサに食らい付いた」などと言ったのか?
次の瞬間、まだ、上空に居た炎の魔鳥が無数の炎の矢を放った。
狙いは私ではなく、死霊達だ。
死霊が浄化されると共に衝撃波……と言うよりも、少なくとも物理現象としての「衝撃波」を伴なう「何か」が発生する。
「馬鹿な‼これは⁉」
太陽の光に含まれる霊力を用いて死霊を浄化する際に副次的に発生する膨大な「力」。それこそが「鎧」の動力源だ。敵は、「鎧」の動力源である「
衝撃波を食らい薄れゆく私の意識の中に、無数の疑問符が生じていた。
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