(5)
そしてやって来たのが、別の地球の福岡県久留米市の水天宮のすぐ近くだった。
諸般の事情で、いきなり戻れなくなったけど、その事は、後で考えよう。
「ちょっと寒いなぁ……こっちの地球は氷河期にでも入ったの?」
「3月下旬としては、普通ですよ」
ボクを迎えた2人の内、黒いライダースーツを着ている東洋系の若い女性が
「えっ?そうなの?ボクたちの『地球』は8月だったんだけど……待って、今、何年?」
「世界政府暦九X年ですけど」
今度は、赤い「鎧」が答えた。声からすると女の子。「
それにしても、パッと見はCOOLな外見だけど、細かい部品がゴチャゴチャしてて、整備しにくそうな「鎧」だ。顔も髑髏みたいな、いかにもダークヒーローって感じだけど、うん、実用性からすると、あんな造りにする意味が判んない。ヘルメットだけでも3〜4個か下手するとそれ以上の部品に分解しないと、装着・脱装が出来なさそうだ。体の各部にやたらとトゲトゲが有るけど、格闘用と考えると、明らかに不合理な場所から、これまた明らかに不合理な角度で生えてるので、一体全体、何の為のモノなのか、さっぱり見当が付かない。もし、こっちの世界にも雨宮慶太が居たなら、やってた仕事は特撮モノの監督じゃなくて、この鎧の外見のデザインだな、うん。
ボク達の「鎧」が人工筋肉を使ってるのに対して、こっちの鎧は電動モーターで力や動きを増幅してるみたいだ。パワーは、この世界の『鎧』の方が上の可能性も有るけど、反応速度や動きの精密さでは、多分、ボク達の「鎧」の方が上だろう。
いや……ちょっと待て……あの胸の紋章と首にある髑髏のシンボルマークって……嫌な予感がしてきた。
「世界政府暦?西暦では?」
「二〇三X年……やっぱり、そっちでは世界政府は無いんですか?」
ボク達の世界からすると「来年」か。ついでに、世界政府暦一年が、西暦で
向こうとこっちの時間の流れが完全に同期してないとすると、向こうに帰れても、リップ・ヴァン・ウィンクルになっちゃう可能性が有るよなぁ……。そうなったら、どうしよう?待てよ。まさか、向こうに戻ったら、過去だったなんて、更に話がややこしくなる事は無いよな?
「国際連合ってのは有るけど、どこの国も、国家機能そのものが機能不全に陥ってる所ばっかりなんで、話は色々とややこしい」
「その国際連合って、国際連盟と違うの?」
「う〜んと、確か、ボクの世界では国際連盟は、第2次大戦が始まった頃か終った後かに無くなったと思う。で、その代りに出来たのが、国際連合」
「第2次世界大戦って、西暦で云うと……一九三九年にフランスとイギリスがドイツに宣戦布告して始まった戦争の事?」
「その通りだけど、ミズ・レッドスカル」
「ミズ?」
「こっちの世界の英語では『ミズ』って言い方しないの?」
「こっちの世界では英語は……そうね、使う人は年々減ってる」
「あ〜、何となく、この世界の状況は推測出来た。多分だけど、お互いの世界に干渉しない方が良いと思う。価値観が全然違う可能性が高い。分れるんだったら、今の内にしとかないと、多分、後で修羅場になる。離婚は成立、今後はお互いに接見禁止、って事でいいよね?じゃあ、ボクは帰るんで、もう一度、
日本語で会話でしてて助かった。ボクの最悪の予想が当ってた場合、ボクたちの世界において、日本語で「国際連合」と呼ばれてるモノは英語では「United Nations」だとバレてたら、絶対に話がややこしくなってた。
「『ぽーたる』ってのが何か判らないけど、門の事だったら、今、開かせるわ。お互い、面倒な事にならずに済んで良かったわね」
赤い「鎧」の方が、そう
「ちょっと待って、貴方、自分の事を『正義の味方』って
その時、赤い「鎧」の方が、いきなり、かなり穏かじゃない感じで、もう1人に手を延した。
だけど、もう1人も、一瞬前に、それを察知してたように、飛び退いた。
「お客様は、帰りたがってるみたいよ。帰して差し上げたら、チャユ?」
赤い「鎧」が使った言葉は……えっ?ドイツ語?うわ、自分で
「来て、『青龍』‼」
ライダースーツの女性が、そう叫んだ。今度は韓国語。……ちょっと待て、チャユってのが彼女の名前だとすると、韓国語での意味は確か……。そう云う意味の名前の持ち主と、ルーン文字の「S」が2つ描かれた鎧を着装した者が対立してるって事は……。
うわぁぁぁぁ〜‼悪い予感が当ってる確率が、更にUP‼
「ちょっと待て、2人は敵同士なの?」
「そう」
「そう」
他の世界からのお客さんを、ほっぽっといてドツキ合いを始めた2人の意見が一致した。
ボクはヘルメットを被る。
「『ラプたん』『タル坊』来て‼『ラプ太』は威嚇射撃。目標は赤い鎧」
この時、ボクはモニタにとんでもない情報が表示されている事に気付いた。
向こうの世界では、当り前だけど、違う歴史を辿った筈の、この「地球」では、有り得ない「ある物」が存在する事を示す情報に。
威嚇射撃で「レッドスカル」が怯んだ隙に、「レッドスカル」ともう1人の間に割り込む。
「キミが、ボクを、この世界に呼び出したの?」
「チャユ」と呼ばれたライダースーツの女性に、ボクは、そう聞いた。
「そうです」
「判った。じゃあ、案内して欲しい場所が有る」
その時、「ラプたん」とモーターサイクルの「タル坊」、もして、もう一台の無人のモーターサイクルが姿を現わした。青い塗装からして、「チャユ」が
ちょっと待って。高度な人工知能が無いらしい、この「地球」で、何で自立走行出来るモーターサイクルが……遠隔操作なんだろうか?……いや、もう1つ待って、ええええええっ⁉あれって、どう見てもインホイール・モーターじゃないか⁉
「待ちなさい‼」
「レッドスカル」がそう叫んだ。
「そっちも、ちょっと待って‼この世界、電気自動車は無いんだよね⁉」
「それがどうかしたの?」
「じゃあ、何で、ここにボクが乗って来たのとは別の、電動式のモーターサイクルが有るんだよッ⁉」
「後で詳しい話はします‼とりあえず、この場から逃げましょう‼」
「わかった。じゃあ、案内して欲しい場所が有る。『ラプ太』『ラプたん』、威嚇射撃をしながら、ついて来て‼」
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