(3)
そして、やって来たのは、久留米でも寂れ気味の場所にある安いけど汚ないカラオケ屋。「汚ない」と
ここは、ボクが大学に入る前、ボクの彼女が高校生だった頃に、まぁ、その何と
「あのさぁ……ちょっと聞いていい?また、太ったでしょ」
ボクは、まず、そう聞いた。
「ちょっと待って……普通は、なんで、この
諏訪から来た「白の竜神」の巫女が、質問し返した。短かめの髪を異様に鮮かなオレンジ色に染めた、鼻ピアスの女の子だ。あ、便宜上、女の子と
ちなみに、この
「あと、何で、こんな汚ない安カラオケが集会場所なんですか?」
「白の竜神」の巫女の「おしゃべりが始まると止まらない」と云う悪癖を、幸いな事にのっけから阻止してくれた子が居るけど、ボクとしては疑問が1つ有る。
「誰?」
1人だけ知らない顔のミドルティーンの女の子に、ボクは、そう聞いた。
「広島で代替わりが有ったんです。私が、新しい『赤の竜神』の巫女」
「じゃあ、その先代はどうしたの?ほら、昔、デカい騒ぎ起したヤクザの女親分」
「転職した」
「転職?あいつ、ヤクザの女親分やめたの?」
「ちょっと違うな。『自分を神だと思ってるホントに神の力を使える人』と云う一般クラスから、『自分を神だと思ってる何の力も無い人間』と云う
「転職祝い送った?」
「引退したとは言え、他人から命を狙われてもおかしくない稼業をやってたヤツに『お前の住所を突き止めたぞ』と
「で、何で、神様の力を無くしちゃったの?」
「どうも、神が人間の脳を完全に乗っ取ると一時的にパワーアップするけど、一〇年弱で、人間の脳の中にある『神の力』を引き出すのに必要な何かの機能がイカレてしまうらしい。その前に『神様』は他の巫女に乗り換えて、後に残されるのは『神の力』は失なったが『神様』に脳を乗っ取られてた時の人格だけはしっかり残った可哀そうな人だ。ほら、他にも居ただろ、定期的に人間の体を乗り換えるなんてエグい真似をやってた『神様』が」
「じゃあ、この
「……今は大丈夫だ。今は、まだな……」
「私の神様も、前回で懲りたみたいです……」
「信用出来るか‼」
他の4人から一斉にツッコミが入る。と
ちなみに、この反応の理由は、この
「で、話を元に戻すけど、太ったよね?」
「だから、私は全然、太ってないぞ」
さっきからボクが主に話してる相手は、車椅子に座って、眼鏡……と
そう、彼女こそ……ボクの恋人であるコードネーム「
「違う、太った」
「ちっとも、太ってない」
「ほっぺたにお肉が付いてる」
ボクは恋人のほっぺたの肉をムニムニとつまみながら
彼女も2年前まで「正義の味方」……それも、父方の一族は対異能力者用の戦闘術を受け継ぐ古典的な「正義の味方」の家系で、母方の一族は「神の力」を受け継ぐ家系と云う、血筋だけならとんでもないサラブレッドだったけど、詳しく説明したが最後、暴力描写でR指定になるような目に遭って引退した。その後、手を動かせるようになるまで(日常生活は何とかなる程度にはと云う意味で)半年かかり、歩けるようになるまで、あと、どんだけかかるか不明。内臓もかなり損傷したので、白髪が目立つような齢まで生きるのは絶望的だ。子供を作るのも無理だろうから、結婚して子供が欲しくなったら、ボクが人工授精で産む事になると思う。
そして、彼女の背後には、昔の子供向アニメに出て来た恐竜の「ガジくん」「スーちゃん」「タル坊」の絵柄のエプロンを着た介護用のロボット。実は、このロボットの製造元である「高木製作所」やその関連会社の重役の中には、ボクたちのスポンサーが居て、「ラプ太」たちや、ボクたちの「鎧」は、高木製作所の次世代の民生用ロボット・強化服に使われる予定の人工筋肉や制御AIや外殻素材などの検証実験機でもある。なお、「介護ロボットの外見を『ガジくん』そっくりにしてくれ」と云う彼女が出した、実用性に関する重大な問題と他若干の小さな問題が有るカスタマイズ注文は、この介護ロボットの開発部署の課長である彼女の又従姉妹の「馬鹿か、あんたは?」の一言によって、残念ながら、あっさり、却下された。そして、交渉と称する1ヶ月以上に渡る日本語における罵倒の語彙の勉強になった親戚同士であるが故に逆に容赦の欠片もない口喧嘩と、その後の双方の妥協の結果生まれたのが、恐竜に似せたつもりで作った筈なのにカバにしか見えない頭部を持つ一応は「人型介護ロボット」。ちなみに、丸っこい胴体に、塗装はピンクで、膝はいわゆる「逆関節」、歩行時のバランサーと「3つ目の腕」を兼ねた尻尾付き。この子に1人で買い物をやらせるんだから、目立つ事この上ない。ついでに、何故か、同型機が正式に量産される事に決ったが、「昔のアニメに出て来た恐竜の顔に似せたつもりが、出来上ったモノはカバにしか見えない頭部」のせいで、商品名は「カバくん」になってしまった。
「おい、気を付けろ。おたふく風邪なんだ。伝染ったらマズい」
「なんで、そんな、すぐバレる嘘を吐くかなぁ〜?リハビリもサボってるって聞いたよ」
「い……いや、その……太ったと
「ちゃんとダイエットもして‼あとリハビリにも行く‼判った?……いや待てよ……このぽっぺた悪くないかも……あと2〜3㎏ぐらいなら、太ってもOK」
「判った。太るとしても、その範囲内になるように注意する事にしよう」
「あと、浮気はしてないよね」
「あのさぁ、オマエの浮気は大目に見てきたのに、何で、私は浮気したらダメなの?」
「あの……そろそろ本題に入らない?」
「あと、あの防犯カメラも何とかした方が……」
「黄の竜神」と「緑の竜神」の巫女がツッコミを入れる。
「黄の竜神」の巫女は、この中で一番年上で、普通のオバさんが、普通の化粧をして、ありがちな髪型で、服も靴も眼鏡もアクセサリーも、そんなに
「緑の竜神」の巫女は、格闘家みたいな体格な上に、いつも不機嫌そうな表情だけど、しゃべり方は温厚かつ丁寧で、自分に取り憑いてる神様に関する事以外で辛辣な事を口にしたのを見た事は無い。
「大丈夫、ここの防犯カメラ、ダミーだから。わざと防犯カメラ入れるような金も無い所を選んだの。良く見て。電力用のケーブルは出てるのに、データを伝える為のケーブルは出てない」
世界各地にゾロゾロ居る、力の源も、能力の種類や強弱もバラバラな「異能力者」。その中でも「超」が一〇個ぐらい付くぐらい凄いのが「神の力」と呼ばれる力を使える者達だ。もちろん、神と
そして、ここに集まってるボクを除く5人の女性は、地球上の「水の神々」の頂点に立つ5人の女神に選ばれた人達だ。
ここに居るのが、どんな化物かと言えば、まぁ、例えば、理屈の上では、普通のオカルティック・テクノロジーでも火山を噴火させる事は出来る(と
その他、「水の神」の力を持つ者が地下水を操ろうとすれば、たまたま、それを決意する数ヶ月〜数日前から都合良く地下水に変動が起きており、「雷の神」の力を持つ者が誰かの頭に雷を落そうと思えば、たまたま、それを決意する少し前に雷雲が発生し、「冥界の神」の力を持つ者が死霊を召喚しようと思えば、たまたま、その場所が過去に何かヤバい事が有った心霊スポットだった、と無茶苦茶過ぎる事例には事欠かない。
ひょっとしたら、ボクたちが、人間の意志とは関係ない自然災害や超自然災害だと思ってたモノの中には「神の力」を持つ者が引き起したのが有るか、逆に、世界のどこかで、そんな自然災害や超自然災害を防いでいる、ボクたちが知らない「神の力」の使い手が居るのかも知れない。
「で、数日前から、私達5人に、私達と同じく神に選ばれた誰かが助けを求めてる……んだけど、向こうの誰かから、その誰かを選んだ神、こっちの神、そして私達と、伝言ゲームをやってるような状態なので、さっぱり要領を得ないのよ」
「白の竜神」の巫女が説明した。
「いや、そこまでは伝えてある」
今度はボクの彼女である
「でもさぁ……その『誰か』って、冗談抜きで、本当に本当に本当に、この世界の人間じゃなくて……その……」
「平行世界の誰かと解釈すべきですね」
「その『誰か』の救助要請を中継した『神』は……私達を選んだ『神』と同一にして別個体だった。いや、本当に、そうとしか説明出来ない『何か』だ」
「私に取り憑いてる、あのロクデナシが2匹に増えた時は、本気で自殺を考えたわ」
「で……でも、私の神様は、向こうの世界の『巫女』は信用出来るって、
「赤の竜神」の巫女がそう
「あんた、巫女になってから、まだ間が無いからそう言うけど……この世に信用出来る『神様』なんて居ない。特に私達の『神様』はね。しかも、あんたの『神様』は、この5匹の中でも、一番の変わり者だよね。『人類の守護者』気取りの」
「しかも、クソ野郎どもの数が倍に増えたんだよ。悪夢だよ、ホントに」
「あいつらに、人間の倫理観なんてない。仮に、あいつらに人間らしい心が有るとすれば、その『心』ってヤツは、私達自身の心の中の、大人な部分を歪め、子供っぽい部分を増幅したものでしかない。私達の誰かが人種差別主義者だったら、今ごろ、ヒトラーすら恐怖のあまり泣き叫んで博愛主義者に宗旨変えするような世界史に残る凄惨な民族浄化を引き起してたかもね」
「あいつらは、
他の4人の巫女からツッコミが入る。
そう、この状況こそが彼女達に取り憑いた「神様」の本質を現わしてる。自分の「使徒」を選ぶ際には、「信仰心」なんて人間的な、あまりに人間的なものは、一切考慮しない。気に入った相手からは、どんなに嫌われようと離れる事は無いし、逆に、自分が気に入ってない相手や何の興味も抱いてない相手なら、そいつが自分をどんなに「信仰」しようと、「その他大勢」以上の扱いをする事は無い。
まぁ、そもそも、「信仰」なんてモノは人間の片思いに過ぎず、この手の「神」を名乗る
「で、それで、ボクに、その『平行世界』に行って偵察して来いと……。でも、どうやって、向こうの世界に行くの……?もらった資料に書いてあった事を読んでも、よく判んないんだけど」
「どうやら、向こうの神様が言うには……何と説明したら良いか……」
「向こうの世界で、かなり特殊な神様が
「でも、ここで
「その結果、具体的に、どんなロクでも無い事が起きるかは、さっぱり不明だけど……その世界から自然または超自然の『摂理』が1つ無くなった、って事だろうな。とりあえず、偵察だけして戻って来てくれ。命の危険を感じた場合もすぐに戻って来い」
「了解」
「あと、向こうの『地球』にも、こっちのモノとは違うらしいが『鎧』が有って、それが向こう版の私達みたいな連中を弾圧するのに使われているらしい。助けを求めた理由は、その『鎧』を何とかして欲しいかららしいんだが……」
「え……じゃあ……たまたまこの世界に助けを求めてきた、みたいな単純な話じゃないって事?」
「どうも、無数にある平行世界の中から、『鎧』に対抗出来る手段が存在している世界に助けを求めようとした、と先方は
「向こうの世界の『鎧』に関する情報は有るの?」
「存在する『鎧』は十数体で、『鎧』が発明されて以降、たった1つの勢力が全ての『鎧』を所有してきた。つまり、向こうの世界の歴史では、『鎧』同士の戦いが起きた事は、ほぼ
「じゃあ、向こうの『鎧』とボクが1対1で戦えば、『鎧』の性能に大きな差が無い限りは、ボクが有利って事だね」
「ああ……ただ、向こうの
「何か裏が有るかも、って事ね。わかった、気をつけるよ」
「それと……可能ならで良いんで」
「何?」
「こっちと向こうを完全に行き来出来なくする方法が無いか探ってくれ。向こうのゴタゴタがこっちにまで波及するのだけは避けたい」
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