治水(4)

 座り込んでいる瀾ちゃん。

 佐伯って云う「もう1人の巫女」。

 そして……男にしては小柄な「御当地ヒーロー」の1人。

 それが駅の西口を出た途端に目に入ったモノだった。

 けど……良く見ると……。

 何でだよ?

 瀾ちゃんは、短剣の刃を自分の首筋に当ててる。

 次の瞬間……空から……稲妻の音。

 続いて……佐伯って人は、私達の方を見る。

「警告のつもり? 自称『神々の中で最も力ある者』さん?」

 更に……。

 周囲の気温が急に上がる。

 佐伯って人の周囲の地面がヒビ割れ、水が吹き出し、水の壁が出来る。

 その壁に透明な何かがブツかる。そして……湯気が上がる。

「『おっちゃん』すぐに退避してくれ」

 伯父さんがそう言った途端、小柄な「御当地ヒーロー」は、一瞬だけ迷って走り出す。

「頼む」

 伯父さんは、小柄な女の人にそう言った。

「いいのか?」

「脅す程度で頼む。両方とも殺すな」

「判った」

 佐伯って人が呼び出した水は龍に変り……そして……私達に向って来る……その途中で凍り付いた。

「な……?」

 そう言えば、瀾ちゃんが……あたしとあの人以外にも、あと3人、同じ力を持ってる人が居るって言ってたけど……でも……。

『そう……そいつの「神」は……ウチの姉じゃない』

 そうだ……変だ……。

 私や、あの人が、氷や水蒸気を生み出しても気温は変らなかったのに、今は……気温が……下っている。

 と言う事は……?

「『天下に水より柔弱なるはなし。しかれども、堅強を攻むるはよく之に先んずるなし』か……昔の人間も良い事を言ったものだ。ならば、『水』を攻略したければ……『水』を堅く強いモノに変えれば良い。判るだろう。私の力は……あんたにとっては相性が悪い。とっとと帰ってもらえないか?」

 そうか……この人の力は……「冷気」。

 どれだけ水や水蒸気を使いたくても……全て氷に変えられてしまう。

 佐伯って人は……諦めたように、あたし達の方に歩いて来る。

「今日は……引く。けれど……知ってるでしょ? 私達『神』と人間の両方にとっての共通の敵が動き出した。あのが『神』の力を得る事が出来れば……ヤツとの戦いの決め手になる」

「そんな事は……当人に決めさせろ。俺達は……人間を必要としているが……それでも人間とは理解し合う事が出来る訳じゃない。俺達が人間を護るつもりでお節介を焼いても……人間にとっては有難迷惑だ」

 熊本から来た2人の内の背の高い方がそう言った。

 あれ? 何か変だ……。まるで……あたしみたいな「神の力を得た人間」じゃなくて……「神」そのものみたいな口振り……。

「『人間の守護者』を気取ってた、あなたがそんな事を言う日が来るとはね……」

 佐伯って人は……そう言って去って行った。

「医療チーム。すぐにJR久留米駅西口まで来てくれ」

 伯父さんはそう言った。

「おい……デカブツ……」

 小柄な「御当地ヒーロー」が伯父さんに声をかける。

「悪いが、お前おめぇが小僧に言いたい事は、おいらが先に言っといた」

「しかし……1つだけ言ってない事が有るんじゃないですか?」

 伯父さんは……そう言って、倒れている瀾ちゃんに近付く。

 あたしと桜姉さんは……それを追い掛ける。

「瀾……意識は有るようだな……」

「は……はい……」

「病院に担ぎ込まれる前に1つだけ言っておく……。……破門だ。……お前はこの仕事と関わるな」

「えっと……破門を解いてもらえる可能性は……?」

ゼロじゃないが……かなり低いと思え。この手の言い方は好きじゃないが……何をやれば、破門が解けるかは……自分で考えろ。どうしても、この稼業に未練が有るなら……俺さえ驚かせる答を出してみろ」

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