瀾(八)

「言った筈だ。死ぬなら年寄が先だ。若いの先に死ぬなんてアベコベは許さねぇぞ」

「佐伯は……私の妹から私に狙いを変えました。なら……私が死ねば……佐伯がここに居る意味は無くなる」

「で……お前の代りはいくらでも居るって言うのか?」

「ええ……」

「だろうな……。俺達みたいな稼業の奴は……九州だけでも何百と居る。お前より強いヤツも居る。お前より立派なヤツも……お前より頭のいいヤツも……お前にない力の持ち主もな……。だが……」

「年の功ってのも本当に有るみたいね……。良い事を言ってくれるわね、おじいさん。そう……私が巫女に選んだのは……貴方と云う一人の人間よ。貴方の代りなど居ない」

 続いて、佐伯がそう言った。

「いいセリフだ。感動的だな……。でも……悪いね……。努力無しに得た力なんて……しょうに合わん」

「まだ……意地を張る気?」

「私は……自分が完璧な人間じゃない事を知ってる。何の代償も無い降って湧いた力なんかもらったら……どんなロクデモない事に使うか知れたもんじゃないぞ」

「……そう……何となく判ったわ……。どうやら……貴方が特別な存在である理由は……自分を少しも特別な人間だと思っていない事」

 なるほど……面白い意見だ……。当っているかも知れない。しかし……他人から、そう指摘された事は……確実に私自身に影響を及ぼす。今の一言は……これから私を変えてしまうかも知れない。

「なら……貴方が私が欲しい貴方でなくなる危険性は有るけど……貴方が自分を特別な存在だと思えるようにしてあげる」

 ……何?

 しまった……。クソ、話は振り出しに戻った……。

「貴方が自分を無数に居る『正義の味方』の内の1人に過ぎない思ってるなら……そして、それが……貴方が私に屈しない理由なら……貴方を九州で……何なら日本で唯一の『正義の味方』にしてあげる。いや……私の力なら……貴方を世界で唯一の『正義の味方』にする事も出来るかもね」

「や……やめろ……。これ以上、誰か1人でも死なせたら……」

「初めて見せてくれたわね……貴方の『焦り』を……」

 だが、次の瞬間……。

「えっ?」

「警告のつもり? 自称『神々の中で最も力ある者』さん?」

 上空の雪雲から、季節外れの雷鳴が轟いた。

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