治水(2)
『え? ちょっと待って、あれって……』
起動した「鎧」から感じられる「何か」に覚えが有る。そう……髑髏模様のヘルメットを付けてた人から感じたのと同じ「何か」だ。
『そう云う事。あの「鎧」は、普通の人間に、あんた達みたいな「神に選ばれた者」に近い力を与える事が出来る。それも「太陽」と「冥界」と云う相反する2つの「神」の力をね。ま、どうやれば、そんな真似が出来るか、ウチも見当も付かないけどさ。ウチが知る限り、人間の科学や魔法で、ウチらみたいな連中の力を再現した唯一の代物なのよ、アレは』
瑠璃ちゃんが、そう説明する。
『今更だけど、あたし達の力って、魔法とか超能力とかとは違うの?』
『ウチも良く知らないけど、科学や魔法ってのは、人間が当り前だと思ってる「何か」を前提にしてるみたいなのよ。あまりにも「当り前」過ぎて「当り前だと思ってる事に人間自身が気付いてさえいない何か」をね。でも、ウチらは、どうも、その「当り前」の外に居る存在みたい。だから、人間の科学や魔法では、ウチらの力を再現するのは人間の言葉で云うなら「無理ゲー」ってヤツみたいね。……昔、「鎧」を設計したヤツと、あんたの母さんが話てたのを横で聞いてた限りでは』
なるほど、あの「鎧」が、「神」を名乗っている瑠璃ちゃんからしても常識外れなモノらしい事以外は、さっぱり理解出来ない。
「これ咥えて。声は出せる筈だから」
その時、苹采さんの部下らしい男の人が、あたしにボクシングなんかで使うマウス・ピースみたいなモノを手渡した。
「これは?」
「何か有っても、舌や口の中を噛んだり、歯を破損したりするのを防げせる」
あたしがそれを咥えると、続いて口と鼻を覆う防毒マスクと、小型のヘッドマウント・ディスプレイのようなゴーグルを付け、更にその上からヘルメットを被せられる。
次の瞬間、ゴーグルのモニタにヘルメットのカメラが撮影したらしい光景が映った。
「これ、落さないような所に入れといて。あと、壊さないように気を付けて。こいつがヘルメットに搭載されてるセンサや通信機を制御してるんで」
男の人は、そう言って、小型端末の本体らしい機器を私に渡した。緑色の電源ランプが付いてる。
「あと、これにも多少は防御力は有るんで、首の回りに巻いといて。そして、革ジャンの前は閉めとく」
続いて、男の人はスカーフ状の白い布を渡す。
「……返事は『了解』……で良いのかな?」
「ええっと、聞き間違えなんかを防ぐ為に、英語のYesに相当する返事は、AffirmかConfirm。『指示に従います』のニュアンスの場合がAffirmで、『お前が言った事を理解した』『お前の見解は正しい』のニュアンスの場合がConfirm。英語のNoに当たる返事はNegative」
「ええっと、じゃあ、Affirm」
「質問に答えて下さい。これは何ですか?」
その時、瀾ちゃんの声がした。
瀾ちゃんの手に有るのは……。
「えっと……まぁ、その……場合によっては飛び道具も必要になるだろ。それに……銃と違って音が小さい、って利点も有る」
「まさか、その弓矢が
「使えない事は無いけど、私は銃の方が巧く使える。
「お前……他に隠し事が無いか……? お前の禿の伯父貴にバレたらマズい事になるような事で……」
苹采さんは首を傾げながら、瀾ちゃんにそう聞いた。
「何で判ったんですか?」
「いくら何でも落ち着き過ぎてる。お前、この手の修羅場、初めてじゃないだろ」
「ええ……父さんが、伯父さん達に内緒で、私を『現場』に連れてった事が」
「やっぱりな。何度ぐらいだ?」
「いちいち数えきれないぐらい」
「子連れ狼じゃあるまいし……。で、初めてはいつだ?」
「一〇歳の誕生日です」
「とんだ誕生日プレゼントだな」
「まぁ、父は、そんな冗談は言いませんけどね」
「お前の伯父貴が聞いたら自殺するぞ。児童擁護施設の理事の弟が、自分の子供を虐待してた、って、冗談にしても酷過ぎる」
「でも、この際なんで、全部、正直にブチ撒けます。この手の事はバレるのが後になるほど事態はややこしくなる。同じ雷が落ちるなら、小さい雷の方がマシだ」
……どうやら、あたしの父さんは、想像以上に無茶苦茶だったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます