魔法大学の助教さん。~魔法が使えなくても研究者になれますか?~

荒城美鉾

第1話 助教さんと手紙鳥

 ここは、とある世界のとある国、とある国立魔法大学の、とある魔法技術研究室──。


 何もかも──投げ出してしまいたくなるようないい天気だ。

 抜けるような青空から、白い鳥が一羽、まっすぐに研究室に滑り込んできた。

 鳩そっくりの姿をした「手紙鳥」は、一人の女性の手に止まった瞬間、一枚の紙に形を変える。

「先生、事務さんから各研究室宛にホウキの照会きてますよー。教員用ホウキパーキング、決められた停止位置に止めてないホウキがあるから困ってるって」

 その女性──学生の一人である青井さんが、肩まである髪を耳にかけながら、研究室に飛んできた「手紙鳥」を読み上げて言う。

 午後の空。無数の「手紙鳥」が空を飛んでいるのが窓ガラスごしに見える。つかの間の昼休みに、学生たちは忙しく「手紙鳥」を送りあっているのだろうか。

「全教員あて? 少なくとも僕じゃないなぁ。型式は?」

「えーっと、今年製造の「アルタイルⅡ」だそうです」

「うちの研究室でそんな最新型に乗ってる人なんていないだろ。いいところ、型落ちの「明星」だよ」

「ですよね。えーっと、ウチには該当者なし、と」

 彼女はそういうと、さっと紙面をなでた。たちまち回覧済みを示す押印が浮かび上がる。次の瞬間、紙面は再び鳩の形となった。彼女は窓を開けると、その白い鳥を外に向かって放つ。強く二、三度羽ばたいたあと、風に乗った手紙鳥は他の手紙鳥に紛れてわからなくなった。

 彼女は満足げに空を見上げる。僕もつられて、空を舞っている手紙鳥たちを眺めた。遠くへ飛ぶ手紙鳥は高く飛ぶ。集まるとまるで雲のようだ。他の伝達手段ももちろんあるけど、僕らは結局、このアナログな手法によるやりとりが好きなのだと思う。

 青い空を飛ぶ白い手紙鳥の群れが、好きでたまらないのだ。

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