わきがのひとのための日記
@ochazuke99
第1話
テレビでグルメリポートを見る。絶対間違いなさそうな名店、カウンターに座り注文する。出てきた皿に一同が「あぁ~」と声をもらす。でかいハンバーグにフォークを入れると肉汁がトマトソースと混ざってパスタに絡む。口いっぱいに頬張るリポーターの表情がとてもおいしそう。ボリュームがあって、それでいて良心的な値段。ほかの客も至福の時といわんばかりに笑顔で談笑している。だれもがあの店に行きたいと思うだろう。わたしはいけないけれど。
最近、そういう日常の生活風景やほのぼのした様子をみるとき、胸に差し込むような感覚を覚える。その場に自由に存在しているふつうのひとたちをとても羨ましく思う自分に気づくからだ。あのひとたちは、テレビや雑誌で得た情報をもとに、予定を組み、ワクワクしながら連れとでかけ、その場の活気を楽しんでパワーをもらう。話の弾むおいしい時間を堪能して、ストレスを発散したり、生きている充実を感じている。あのひとたちはわたしに言うだろう。「あなたもいけばいいのに、人生を楽しみなさいよ。」かつてはわたしもその言葉を信じて、そういう場所に足を運んだ。一緒に来てくれる人もいた。だがどうだろう。わたしはそこに自由に存在していいのだろうか。
起きたことといえば、入店後しばらくして多分それまであったであろう、ほのぼのした雰囲気から一転、こちらをちらっと見てくる客、怒声のような咳払い、店員の表情も崩れそうな笑顔になる。連れの心境は一体どういったものなのか、料理の味は舌のうえではおいしいのだろうけれど、それ以上に人に迷惑をかけている実感といたたまれない思いが強くてそれどころじゃない。消え入りたくなる時間、生きている心地がしない空間にめまいを覚える。思っているイメージとの違いに強烈なショックを受ける。そしてその負を周りのひとにも与えているからぞっとする。ほうほうのていで帰路につき、ドアをぴしゃりと閉めて(本当はそぉ~っと、存在を人に知られないように閉める)泣きながらシャワーを浴びる。ひととわたしは違うのだということを実感し、反省し布団をかぶり眠る。
そんなことを繰り返すうちにわたしは必然的にひきこもりになっている。仕事はしている。だから、明日の朝までにはこの差し込む気分を消してしまって、健康な状態で出社しなければならない。わたしの救いはどこにあるのだろう。
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